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ロシア民間軍事会社「傭兵」を拘束ベラルーシ「クーデター事件」の真相 - 小泉悠

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 ウクライナでは、ドンバス地方で戦うワグネルのコントラクターたちの身元を特定してデータベース化する作業が行われており、今回逮捕された33人の中にはこのデータベースに合致する人物が複数含まれているためだ。 

 ロシアのドミトリー・メゼンツェフ駐ベラルーシ大使も、「彼らはおそらく民間軍事会社の職員である」という形で、この点を認める声明を発表している。

 ただし、メゼンツェフ大使は、彼らがベラルーシではなく第三国のエネルギー施設を警備するために渡航する途中であった、とも述べている。

 実は逮捕当時の映像には、コントラクターたちの鞄からスーダンの通貨やテレフォンカード、アラビア語の文書などが出てくるところが収められており、彼らはスーダンへ向かう途中だったのではないか、という指摘は非常に早い段階から出ていた。

 さらに7月30日にロシア外務省が発表した声明によると、彼らはベラルーシからトルコのイスタンブールへ向かう飛行機に乗るはずだったが、何らかの理由で乗り遅れ、代わりの便を待っていたところで拘束されたのだという。

 以上の状況証拠を総合すると、これはチハノフスカヤ潰しのためにルカシェンコ政権側が仕掛けた事件ではないかという印象が強まる。ワグネルのコントラクターたちを拘束することで、チハノフスカヤへの信頼を失墜させようとしたのではないか、ということだ。

「ワグネルって何ですか?」

 もっと言えば、この件は、ルカシェンコ政権がロシアを仮想敵として国民の結束を図ろうとしたもの、と位置付けることもできよう。

 ベラルーシと言えば旧ソ連諸国の中でも特にロシアとの関係が深い国として知られるが、両国はエネルギー供給やロシア軍基地の設置問題などを巡って軋轢を繰り返してもきた。 

 特に2019年にはルカシェンコ大統領が、

「ベラルーシはロシアの一部にはならない」「主権を守る」

 など、ロシアから併合の圧力を受けていることを示唆するかのような発言を度々行って注目を集めた。

 とすれば、今回もロシアの脅威を煽り、大統領選を前に国民の結束を固めようとした、という見立てが成り立たないことはないだろう。

 そしてこの意味では、ワグネルというのは絶妙の標的であった。ロシア政府の意向を受けて動く武装集団でありながら、正規のロシア政府機関ではない、という彼らの立場ゆえである。これが軍人であればロシアからの報復は苛烈なものとなろうが、ワグネルはあくまでも非合法武装集団に過ぎないから、ギリギリでレッドラインを超えない「挑発」の範囲に収まるというのがベラルーシ側の計算であろう。

 7月30日にロシア大統領府が行った記者会見において、ウクライナのメディアからワグネルの拘束事件について質問されたドミトリー・ペスコフ大統領府報道官は、こう切り返した。

「(ご質問は)わかりました。で、ワグネルって何ですか? ロシアには法律的にも、慣習法としてもPMCなんてものはありません。PMCって何ですか?」

 軍服を着込み、戦車まで持っている武装集団であっても、コントラクターは軍人ではない。彼らは、ベラルーシとロシアの国家的思惑の間で「置き去りにされた兵士」となりつつある。

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