- 2020年08月04日 18:57
「『女らしく』ではなく、『自分らしく』生きていける。それを伝えることが私の仕事です」 - 賢人論。第118回(前編)女性学・英文学研究者 田嶋陽子
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1990年代前半、『ビートたけしのTVタックル』で舛添要一、浜田幸一、石原慎太郎らの論客を次々に論破して話題になった“怒れるフェミニズムの伝道師”田嶋陽子氏。2019年11月には、女性学の先駆的名著といわれる『愛という名の支配』が27年ぶりに復刊され、その内容に多くの若い女性たちが共感し、大きな話題になった。今、再び社会の注目を集めている田嶋氏に、介護をめぐるこれからの女性の生き方や家族の在り方について話を伺った。
取材・文/盛田栄一 撮影/遠山匠
行政からの情報が介護が必要な方に届くような工夫が求められる
みんなの介護 田嶋さんは著書『愛という名の支配』の中で、「結婚とは、家事労働を無償化する制度」であり、女性が家事労働を押しつけられている限り、真の女性解放はあり得ないと述べています。
わが国では2000年から介護保険制度がスタートし、家事の一部である「老親の介護」が社会化されました。これについて、田嶋さんは1つの進歩と考えていらっしゃいますか。
田嶋 介護保険制度の導入によって、女性の家事労働の負担もそれなりに低減されたのではないかと思っています。私には親を介護した経験がなく、身の回りに介護関係者もいないため、実態を正確に把握できているわけではありませんが…。
逆に質問があります。2000年から介護保険制度がスタートしているのに、今でもときどき、子どもが要介護の親を死なせる事件が起きてしまうのはなぜなんでしょうか。
みんなの介護 介護者と要介護者が1対1で接している中で、「外部の介護サービスに助けを求める」という発想が生まれにくいのかもしれません。
田嶋 利用できる介護サービスがあったはずなのに、介護殺人の加害者はそれを知らなかった可能性がありますね。
だとすれば、必要な情報が必要なところに届いていなかったことになります。介護にかかわる行政のアナウンスの仕方にも、もっと工夫する余地があるのではないでしょうか。
新型コロナウイルスの問題にしても、行政のアナウンスが国レベルと自治体レベルで正反対のことを言っていたり、地域や発言者によって切迫度が違っていたりと、ちぐはぐで曖昧な印象を受けます。
介護にしろ、新型コロナウイルスにしろ、命に直結する行政情報は、もっと細心の注意を払って、万人に伝わるように発信してほしいですよね。
SNSの普及が生き方の多様性に影響している
みんなの介護 田嶋さんは30年以上も前から女性差別とフェミニズムの問題に取り組み、テレビ、新聞、雑誌、書籍などさまざまなメディアを通じて問題提起をされてきました。
近年話題となっている「#MeToo運動」や「#KuToo運動」など、女性がSNSを通じてセクハラや女性差別の問題を社会に告発することがあたり前になりつつあります。SNSが一般化した現状をどのように見ていますか。
田嶋 大いに好ましいことだと歓迎しています。『愛という名の支配』にも書きましたが、これまで多くの女性は家庭内や職場内で孤立していて、四六時中“女らしく”していることが要求されていました。
そのため、言いたいことがあってもなかなか言えなかった。でも、SNSを使えば自分の主張を自由に発信できるし、それで「いいね!」をたくさんもらえれば、「自分には賛同してくれる仲間がいる」「自分一人で社会や男性と戦っているわけではない」と勇気づけられ、さらに新たな発信ができるようになります。
SNSの普及で、女性もようやく、自分らしく自由に発言することができる時代になったのではないでしょうか。
みんなの介護 田嶋さんは著書で、男性の場合「自分らしさ」と「男らしさ」が両立できるのに、女性の場合は「自分らしさ」と「女らしさ」が両立できない、と書かれていますね。
田嶋 はい。例えば以前、学生たちに「男らしさ」「女らしさ」から連想するプラスイメージとマイナスイメージを聞いてみたことがありました。
そうすると、「男らしさ」のプラスイメージについては、力強い・たくましい・野心・冒険・判断力・決断力・行動力・経済力・リーダーシップ・責任感・理性、など。マイナスイメージは、身勝手・いばる・怒鳴る・暴力・ワンマン、などです。
一方「女らしさ」のプラスイメージは、やさしい・従順・愛嬌・かわいい・おとなしい・素直・忍耐・控えめ・気配り・美しい・細かい、など。マイナスイメージは、泣き虫・ヒステリー・おしゃべり・感情的・わがまま、などでした。
みんなの介護 イメージで多いのはそういった回答ですよね。
田嶋 こうして並べてみると、「男らしさ」と「女らしさ」の違いがはっきりわかります。「男らしさ」=「自立した1人の人間として生きていくための素養」であり、「女らしさ」=「他の誰かをサポートするための素養」だということ。
男性は「男らしく」生きることで人生の主役になれるのに、女性が「女らしく」生きていこうと思えば、誰かのサポート役に徹せざるを得ない。逆に、女性が人生の主役になるために「自分らしく」生きていこうとすれば、社会から「女らしくない」とバッシングを受けるのです。
私自身、これまでに数え切れないほど、そうしたバッシングを受けてきました。それらのバッシングに立ち向かうことが、私のフェミニズムでもあったわけです。
女性も、もともと自分の中にある「男らしい」部分、すなわち、たくましさ・野心・判断力・決断力・行動力・経済力・理性などを存分に発揮すれば、自分の人生を力強く生きていける。その事実を1人でも多くの女性に伝えたいですね。



