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遠くて近い北方領土(下) - 中原 岳

◆実効支配強めるロシア,警戒する日本
納沙布岬と水晶島の中間付近には2隻の船が浮かび,それぞれ対照的な動きをしていた。岬と同島の間を水平方向に行ったり来たりしている真っ白な船体は,日本の海上保安庁の巡視船。船体の下部に白,青,赤のラインが入り,静止して動かないのは,ロシア国境警備局の警備艇。岬のそばにある北方館の双眼鏡でロシアの警備艇をのぞいてみると,乗組員たちが甲板を歩いたり,ベンチに腰掛けておしゃべりしたりする姿も見られた。

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【写真】互いを見張るように警戒にあたる海上保安庁の巡視船(左)とロシア国境警備隊の警備艇(右)。背後は水晶島
「(警備艇は)なぜか今年に入って姿を見せるようになった。1カ月くらい前からよくあそこにいる」。北方館の職員はそう話した上で,「ロシアのやることはよく分からない」と首を傾げた。北海道新聞2012年9月14日付「ロ国境警備艇 異例の停泊 根室沖 北方領土支配誇示か」(http://www.hokkaido-np.co.jp/news/donai/404042.html)によると,ロシアの国境警備艇が納沙布岬沖に停泊するのは異例のことで,筆者が訪れた同12日は“納沙布岬灯台から北東約2.4キロ先”まで来ていたという。

今月8日の日ロ首脳会談で,野田佳彦首相は領土問題を解決する必要性を確認し,静かで建設的な環境の下で議論を続けていくことなどを提案。ロシアのプーチン大統領も「世論を刺激せず,静かな環境の下で議論を続けていきたい」(外務省公式ホームページ)と応じたという。しかし,日本がほかの領土問題の対応や政局で忙しい時に,国境警備艇の“異例の停泊”を行ったのは,単なる偶然なのだろうか,とも思う。

◆返還求める碑 灯台の下にはロシア船の残骸も
 納沙布岬周辺には,いくつもの碑やモニュメントが建っていた。「四島(しま)のかけはし」というゲート状の巨大なモニュメントや,政治団体,民族団体のものとみられる石碑もあった。刻まれた内容はさまざまで,「島を還せ」と強い表現のものあれば,望郷の詩が詠まれたもの,千島列島全てと樺太(サハリン)の返還を求める碑も。メモリアル色の強い碑が複数建つ本土最北端・宗谷岬(北海道稚内市)とは対照的に,納沙布岬に建つ碑は政治的メッセージが際立っていた。北方領土をめぐる問題の複雑さと底深さをうかがい知れる。

 少し離れたところには,納沙布岬灯台がある。そのすぐ下の岩場では,錆びた金属の残骸が白い波に洗われていた。2003年4月に同岬の沖で座礁したロシア船籍の船だ。10年近く経った今も朽ち果てるに任せて放置されている。

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【写真】岩場で波に洗われるロシア船の残骸

◆領土問題に関心を持ち続けよう
日本政府は元住民などを対象に,北方領土への訪問,交流事業として「北方四島交流(ビザなし交流)」,「北方領土墓参」,「自由訪問」の枠組みを設けている。いずれも,パスポートやビザが不要だ。しかし,日本政府はこうした枠組みを除く北方領土への入域について,国民に自粛を求めている。ロシアのビザを取得して北方領土に入ることは,同国の管轄権を認めることになるからだ。

また,2006年には日本漁船がロシアの警備艇に銃撃,拿捕され,乗組員1人が死亡するという事件も起きた。手が届きそうなほど近いのに,行けない北方領土。「実効支配」とはこういうことか,と思い知らされる。

日本は近海で3つの領土問題を抱える。特に日本経済への影響が懸念される尖閣諸島問題では事態の鎮静化に向け,最大限の外交力を発揮する必要がある。しかし,だからと言ってほかの領土問題への対応がおろそかになってはいけない。特に北方領土では多くの日本人がかつて生活を営み,各地に墓地が残る。周辺の海洋資源も豊富だ。解決の糸口を探るために日本は粘り強く交渉していかなければならない。

かつて日ソ間で漁業協定をめぐる交渉が難航した時,国民の間で北方領土返還を求める世論が高まったという。その後押しを受けた結果,日本政府は立場を曲げることなく妥結できたと,外務省発行の『われらの北方領土 2011年版』にある。中国の動きに関心が高まる今,私たち国民は北方領土や竹島にも強い関心を持ち続ける必要があると思う。

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