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結論には何の異論もないのだけれど。

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日経紙で先行報道され、29日には個人情報保護委員会からも正式に命令の内容が公表された「多数の破産者等の個人情報をウェブサイトに違法に掲載している」件で、週末にようやく公表資料*1に目を通すことができた。

この件に関しては、昨年前身のサイト(?)が話題になった時から、”しでかした”側の意図・目的に対しては違和感しかなく、既に免責を受けている破産者の情報を何年も経っているのに”晒す”ことの問題点はもちろんのこと、破産申し立て当時の住所地でマッピングすることにいったい何の意味があるのか・・・という別の観点からの不可解さもあった。

一度消えたはずのサイトが、またいつのまにか復活していた*2、というのは今回の報道を受けて初めて知ったのだが、これが「ウェブサイトを停止せよ」と言われても仕方のないような事案であることは間違いないと思っている*3

ただ、個人的に気になったのは、個人情報保護委員会のリリースがいつもながら非常にあっさりとしたものだったことで、しかも、

「当該2事業者は、破産手続開始決定の公告として官報に掲載された破産者等の個人情報を取得するにあたり、利用目的の通知・公表を行わず(同法第 18 条)、当該個人情報をデータベース化した上、第三者に提供することの同意を得ないまま、これをウェブサイトに掲載していたものである(同法第 23 条第1項)。」(強調筆者、以下同じ。)

と、個人情報保護法上の要件を欠くことのみを「命令の原因となる事実」として挙げていたこと。

もちろん利用目的の通知・公表や同意取得、といった手続きが行われていなかったことは事実なのだろうから、処分を行う機関の立場で必要最小限の事実だけを淡々と記載する、というのも、お作法としては間違っていないのだろうが、こと本件に関してこれだけしか書かれていないと、

「それなら、サイト運営者が利用目的の通知・公表を行っていれば良かったのか?」

とか、

「個人情報保護法23条2項に基づき、オプトアウト可能にした上で必要事項を公表し、個人情報保護委員会に届け出ればそれでよかったのか?」

といったおかしな方向に議論が向かうことにもなりかねない*4

この辺は、本来私人間の問題であるWebサイトのプライバシー侵害の話に公法的な規制に基づいて処分機関が介入を試みている、という本件の性質上やむを得ないところだとは思うのだが、今回のリリースではさらに進んで、

「本命令の対応期限(本年8月 27 日)までに具体的な対応がなされない場合は、同法第 84 条の罰則適用を求めて刑事告発することを予定している。」

と決して穏やかではない警告も発せられていることにも注意が必要だろう。

「公開されている情報」であっても、個人情報としての保護は受けられるし、だからこそ利用する側が法所定の要件を満たさなければ個人情報保護法違反となる、という理屈は全くそのとおりだとしても、単に「個人情報」の定義に該当する、というだけで公開情報の利用に一律に網をかけられてしまうのだとすれば少々行き過ぎの感は否めないし、こと行政機関に対する情報公開請求等の場面では、「公開されている」情報であるかどうかによって「プライバシー保護を理由に請求を拒めるかどうか」のラインが変わってくることもある(それは「公開されているかどうか」によって、プライバシーの要保護性のレベルを分けるという発想の現れでもあるように思われる)のだから、「公開情報の利用」を規制するにあたっては、本来はより慎重な配慮が必要になるはず。

そして、本件で、個人情報保護委員会の命令が至極当然のものとして受け止められ、刑事告発まで踏み込むことにも(おそらくは)大きな異論が挙がらないのは、

「もともとの公開目的からはかけ離れた目的で個人情報を利用している & 当該個人情報自体が『破産申立てを行った事実』という極めてセンシティブな情報と結びつくものだから」

という特殊な事情があるからに他ならないのに*5、今回のリリースは、そういった理由に一切触れることなく、一見すると形式的な法令違反だけで「刑事告発」まで一気通貫で突き進んでいるように見えてしまうのが気になるところである*6

いずれサイト作成者が特定され、刑事、民事訴訟の場で手続きが進められるようなことになれば、より突っ込んだ議論も展開されることになるのだろうが、もしかしたら本件が「このまま」終息してしまい、「公開されている個人情報の利用に対して、個人情報保護委員会が刑事告発まで行った」という事実だけが一人歩きしてしまう可能性もあるだけに、以上、現時点の問題意識として一応書き残しておくことにする。


なお、最近の事例として、ハローページに掲載されていた自己の氏名、住所、電話番号をウェブサイトに掲載された人が、ウェブサイトの作成者を相手に損害賠償&記載削除請求を起こした、というものがあり(京都地判平成29年4月25日)*7、そこでは、ウェブ作成者の行為の違法性が認められ損害賠償が一部認容されているのだが、当然ながらそのような判断を行う上での考慮要素はきちんと明示されている。

「インターネットに掲載された情報の複製(コピー)は極めて容易であるため,いったんインターネットで情報が公開されると,それを閲覧した者なら誰でもその情報の複製を作成してインターネットに掲載することができ,短時間のうちに際限なく複製の掲載を行うことも可能であって,そのように多数の複製の掲載が行われた場合,これらを全て中止させることは事実上不可能であるから,いったんインターネットに公開された原告の氏名,住所及び電話番号は,いつまでもインターネットで閲覧可能な状態に置かれることになる。また,インターネットへ掲載されると,検索サービスを利用することで,氏名から住所及び電話番号を,住所から氏名及び電話番号を容易に知られることとなる。このような開示の相手方及び開示の方法は,紙媒体を用い,配布先が基本的に掲載地域に限定されている電話帳(ハローページ)への氏名,住所及び電話番号への掲載とは,著しく異なるものである。したがって,原告がハローページの掲載を承諾したことをもって,インターネットへの掲載を承諾したとはいえないし,原告が氏名,住所及び電話番号をAで公開されない法的利益は大きいということができる。これに対し,原告の氏名,住所及び電話番号は,公共の利害に関しない個人の情報であり,掲載しなければならない特段の必要性は認められないから,本件情報を公開する法的利益が大きいとはいえない。」
「以上からすれば,本件掲載行為①については,原告の推定的な同意があるとはいえず,受忍限度の範囲内ともいえず,公益の優越が認められる場合ともいえないから,本件掲載行為①は違法であるというべきである。」(以上、判決PDF13~14頁、強調筆者、以下同じ。)

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