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宮川サトシ ジブリ童貞のジブリレビュー 最終回 『火垂るの墓』

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幼少期に兄から「ジブリを見るな」といわれた漫画家・宮川サトシは、40歳にしてなお、頑なにジブリ童貞を貫き通してきた。ジブリを見ていないというだけで会話についていくことができず、飲み会の席で笑い者にされることもしばしば。そんな漫画家にも娘が生まれ、「自分のような苦労をさせたくない」と心境の変化が……。ついにジブリ童貞を卒業することを決意した漫画家が、数々のジブリ作品を鑑賞後、その感想を漫画とエッセイで綴る。

『火垂るの墓』レビュー

こんにちは、ジブリ童貞です。…いや、もうジブリ童貞ではないのかもしれません。では何なのか? ジブリマニア? …いや、まだナウシカの原作も読めていないですし(一応初代担当さんに送っていただいたので自宅にはあります)、「パンダコパンダ」も拾えておりません。なので、ただ一通りジブリを観て知っている「一通りジブリおじさん」程度の存在なのでしょう。

そんなわけで、今回のレビューで一応メインジブリ作品を一通りジブったことになります。でもなんだかやっぱり寂しいですね…「魔女の宅急便」のキキが旅立つ時のお父さんの5〜6倍ぐらい寂しいです。…あ、ジブリで例えてしまいましたね、すいません。えっと…大事に育てていた肩に生えた一本だけ長い毛、あれが抜けた時の1万倍は寂しいです。

連載が終わることの寂しさもあるのですが、どちらかというと「ジブリ童貞を卒業してしまった」ことで何かが自分の中から抜け落ちてしまったような…そんな寂しい感覚があるように思います。「童貞」を卒業した時はそんなことなかったのに…不思議なものですね…。

この2年とおよそ半年の間、私は何か変わったでしょうか? ラッパーのZeebraさんのお名前を見かけると、反射的に「ジブ…あ、違うか」となる脳味噌にはなりました。Zeebraさん、娘さんが大活躍ですね、お父さんとしても喜ばしいことでしょう。…と、そんなこんなを振り返りながら、最後のジブリレビューを書いていきたいと思います。それでは、『火垂るの墓』のレビューをどうぞ。


「昭和20年9月21日夜、僕は死んだ」で胸ぐら掴まれる

この連載の最初に描いた漫画の中でも触れていますが、『火垂るの墓』自体、もともと学校の課外授業の一環として体育館で学年ごとに観せてもらえた映画のひとつでして、唯一観たことのあったジブリ作品でした。ジブリ童貞ちゃうかったんかい、と言われるかもしれませんが、幼少期に隣りに引っ越してきたお姉さんがベランダ越しに突然裸を見せてくれる展開ってよくあると思うんですが、あれみたいなもんだと思っていただけたら幸いです(そんな展開、ないか…)。

冒頭の「昭和20年9月21日夜、僕は死んだ」のナレーション、あれを聞いて体育座りをしていた同級生たちが「ドッ」と笑ってしまったことをよく覚えています。「死」がまだ自分たちより遠いところにあるからなんでしょう、幼い子供にとって「死」はどこかギャグのようなところがありましたよね。ギャグにすることで少しずつ受け入れていく人間の段階。

当時、私はクラスのひょうきん担当の小デブ(陥没乳首)だったのですが、変なところだけは生真面目でして…冗談言うくせに冗談が通じない面倒臭いやつでした。清太さんの「僕は死んだ」で笑うのはなんか違うぞ? これは笑いのネタにしちゃいかんやつだ、と直感した私は、誰が笑っているかをキョロキョロ見て確認していました、面倒くさいですよね…。

それから時が流れ、平成になっても私は同じようなことをしていました。ネットの「節子、それ◯◯ちゃう、◯◯や」の大喜利大会が流行っていたのも、ジブリ童貞でも一応は知っていました。これがどうにも許せなかったんですね…。ネットは大好きですが、この「節子、それ〜」のコラ画像とかを見かけると、しじみの味噌汁を美味しい美味しい! と調子良く飲んでる時に、ジャリッ! と砂をかんでしまった時のような気分になっていました。

…と、愚痴っぽい話をタラタラとしてしまいましたが、とにかくあのオープニングの「僕は死んだ」のナレーション、あれは最近話題になった4コマ漫画「100日後に死ぬワニ」と同じシステムで、後述しますが(後述しなかったらすいません…)キラキラと輝く一瞬の光をより切なくするための演出だと思うのです。今回改めて観て、私はやっぱりあそこで胸ぐら掴まれまれてしまいましたね…。

おばさんを恨むのは筋違い、という態度こそがジブリ通

「火垂るの墓」で助演女優賞を授けるとしたら誰? という質問があったら、もう100人が100人「西宮のおばさん」だと答えると思います。


幼少期に観た時は、もうおばさんがただただ腹立たしかったことが一番頭にこびりついていて、なんならそれしか記憶にないんじゃないかなと思うほど。

これがおっさんになって改めて観てみると、社会の構造が見えてくるものあって、ちょっとおばさんに対する気持ちが変わって見えてくるんですよね。たぶん、これは、アホほど言われてることだと思うので詳しくは避けますが…物資も少ない戦時下という状況で、親戚の子供二人を居候させることってなかなか大変でしょう。

清太さんも(状況が状況とはいえ)おばさんの家にお世話になるしょっぱなから挨拶は暗く雑ですし、軍人の家のボンボンだからなのか働こうとしないですし、使った食器もすぐに片さず、つけ置き洗い(これは私もよくやります)。

このレビューを書くために、何度も何度も観返したのですが、その時のこちらの体調によって「清太擁護派」か「おばさん派」かが毎回変わるんですよね…。で、いろいろ考えたんですが、あえて「おばさんが悪いのではない、おばさんをそうさせた戦争が悪いのだ」という立場を取るのが、ジブリ紳士として正しい態度なんだろうなという結論に至りました。


清太さんの中にある“今っぽい父性”を感じて共感する

「天空の城ラピュタ」のレビューでは、ポムじいさんのくたびれた感じにに共感したと書いたのですが、火垂るの墓では圧倒的に清太さんに共感したように思います。

おそらく清太さんのキャラクターって、当時のあの年齢の青年というよりは、現代の若者に寄せて描かれたんじゃないかと想像するのですが、私はそこをもう一つ越えて、なんとなく令和の父親像を感じたんですね。清太さんからすると「は?(キモ)」って感じでしょうけど。

幼子の節子との向き合い方を見てると、猛烈にわかるな…と。わがまま言う節子を強く叱れないとことか、母親の死を伝えることができない弱さ、砂浜で「うお〜! 待て〜! 食うてまうぞ〜!」と超つまんないおっさんみたいな楽しませ方をしてしまったり、あとさっきも書きましたが、食器をつけ置き洗いしてしまうところとか…。いちいち自分にもある要素を清太さんに見つけてしまうので、彼を責められないんですよ。

もっと言えば、一度として節子を疎ましがらなかった清太さんは立派ですよ。〆切前のバタバタ期に娘が書斎に遊びにきて、粘土を丸めただけの物を「見て見て〜!」とやってきた時なんかは、私も「チッ」って言っちゃったりするので…。


…ここまでで皆さま、何かお気づきになりませんでしたか?…そう、しつこく何度かトレーディングカードみたいなイラストが挟まれてたと思うんですが…すいません、さっきは西宮のおばさんに対する態度で落ち着いたようなことをカッコつけて書きましたが、嘘です(レビューで嘘書くなよ…)、やっぱりおっさんになっても腹が立ってしまいました…。

なので我慢できなくて、あのおばさんの腹たつ食べ方のトレーディングカードを作ってちょいちょいレビューの隙間に腹たち紛れに挟み込んでしまいました…。

ドラえもんの道具で「絵本入り込みぐつ」っていう、作品の中に入っていける靴があるのですが、あの靴履いて、防空壕で暮らすと決めておばさんの家を出た直後の清太と節子のところに駆けつけて、すぐにうちで引き取りたい。

最近うちも二人目が生まれて食い扶持(ぶち)は増えましたが、清太さんなら私が漫画の原稿を進めている間に子守してくれそうだし、やよい軒ならごはんお代わり自由だから、やよい軒に連れいけるだけの経済的な…って、やめましょう、こんな話しても意味ないですよね…。つらい。この映画を観るのは本当につらいです…。この連載の最後にこの作品を持ってきたのは、単純に「つらいことがわかっているから」です…。

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