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女子トイレを盗撮した慶大元塾長秘書課長の「異常な執着心」

盗撮事件が明るみになった慶應大学・三田キャンパス(時事通信フォト)

 職場内でのセクハラやパワハラ防止といったハラスメント対策は、いまや組織のリスクマネジメントを行う際に欠かせない事項となったが、それでも常軌を逸したハラスメント行為が次々と明るみになり、事件化している実態がある。ノンフィクションライターの高橋ユキ氏が、私学の雄である慶應大学で発覚した「女子トイレ盗撮事件」の公判をレポートする。

【写真】女子トイレに3台のカメラが仕掛けられた

 * * *
 慶應大学キャンパス女子トイレの個室内を小型カメラで盗撮したとして、東京都の迷惑防止条例違反や建造物侵入に問われた40代男性被告の初公判が6月2日、東京地裁で開かれた。

 起訴状によれば、被告は同大学の元塾長室秘書担当課長だった2018年11月下旬から翌2019年3月15日ごろまで、慶應大学三田キャンパス内の女子トイレに複数回侵入し、トイレ上部に備え付けた自動撮影機能付きのカメラで、同僚女性5名(被害者Aさん~Eさん)の用便中の臀部を撮影したという。

 保釈されておりスーツ姿で証言台の前に立った被告は、罪状認否で「間違いないです」と全ての起訴事実を認めた。

 冒頭陳述や、被害者と被告の調書などの証拠によると、被告はかねてより「同僚女性のスカート内を撮影したい、用便姿を見たい」という気持ちがあり、これを充足させるために、女子トイレに侵入し、3台のカメラを設置したのだという。

 2019年3月に、Cさん、Dさん、Eさんがトイレでカメラに気づき、犯行が発覚した。すぐに110番通報したが、警察が現場に来るまでに、被告がカメラの一部を持ち去っていたのだそうだ。また、当初は疑惑を向けられても否認していたというが、動画データに、カメラを取り付ける被告の姿が映っていたことなどから最終的に罪を認めている。

 データの数は2018年12月時点で3000点以上が存在したという。被告はカメラのバッテリー交換のため複数回トイレに立ち入っていた。

「職場での事件、忘れられない。2年間、上司と部下として働いてきた。被告に対してだけでなく職場に対しても嫌悪感や不信感が生まれている。自分の働く空間が汚されたように感じた」(Aさんの調書)

「信頼していた上司に裏切られ、心の整理がつかない」(Bさんの調書)

「犯罪者が近くにいたことがショック」(Cさんの調書)

「上司としてなんでも相談してきた。プライベートなことも相談していた。衝撃が大きく、通勤中にも突然涙が出てきてしまう。気味が悪いしとても怖い、許せない」(Dさんの調書)

「大学内でこのような卑劣なことをする犯人が許せない、厳しく罰して欲しい」(Eさんの調書)

 このようにAさんからEさんまで、共に働いてきた被告が長年、トイレを盗撮していたということに大きな衝撃と怒りを吐露した。しかも逮捕後の捜索により、被告はトイレだけでなく、服務室内の盗撮も行なっていたことがわかっている。

 なぜ同僚の女性らを盗撮したのか。被告人質問で“特定の女性を撮影したかった”という目的を明かした。元々の声が小さいうえ、新型コロナウイルス感染拡大防止のためのマスクで、モゴモゴと声がこもりながらも、こう語る。

弁護人「あなた盗撮した目的は?」
被告「ある特定の女性に好意を抱き……Eさんを撮りたいと思いました」
弁護人「なぜ盗撮?」
被告「当時仕事のストレスが大きく、このような行動につながりました」
弁護人「Eさんが目的だったの?」
被告「はい」

 Eさんを撮影したいと思った被告はまず、執務室の盗撮を始めたが、やがてトイレにも3台のカメラを仕掛けたのだそうだ。だが、トイレは不特定多数が利用する場所。Eさん以外も撮影された。

被告「カメラは人の動きを検知すると自動的に撮影される……」
弁護人「結果的に、Eさんだけでなく、誰かがトイレの個室に入るたびに撮影されることになりましたね」
被告「はい」
弁護人「画像は?」
被告「ファイル名を確認して、Eさんだけを抜き出して、SDカードに保存していました」
弁護人「Eさん以外は?」
被告「特に意識していない……。まったく触れずにそのままにしていました」

 対する検察官は被告の当時の気持ちについて、追及する。

検察官「執務室だけでなくトイレにもカメラをつけましたね。これは、迷ってつけたんですか? 迷わずつけたんですか?」
被告「かなり迷ったと思います。発覚した後のことを……」
検察官「それでも設置したのはどうして?」
被告「冷静に判断できる状態ではなかった……」
検察官「その間も被害者たちと接してた。やめようとは思わなかったんですか?」
被告「思いました」
検察官「でも、やめなかったのはなぜですか?」
被告「(うつむきながら)言葉に表すのは難しい……エスカレートしてしまったんだと思います」

 弁論で弁護人も「悪質とまではいえない。Eさんを撮影することが目的で、Eさん以外は結果的に映ったにすぎない。他の4名はあくまでも『映ってしまってもかまわない』程度の思いしかなかった」など、Eさん以外への撮影は狙ったわけではないので有利に斟酌するようにと求めていた。

 事件を起こしたことで被告は職を追われ、現在は就職活動中なのだという。しかし、実名報道されてしまったことから、書類審査すら通過しない状況だとも明かした。また情状証人として出廷した妻も、事件がきっかけで退職したという。それでも離婚することなく、被告を支えていくと述べた。

被告の妻「当初は自分はやっていないと言っていました。その後認めた時は本当にショックでした。離婚も頭をよぎりましたが、夫がこういうことをしてしまったのは私にも責任がある」

 妻は被告が保釈されてからは、被告の行動をチェックするほか、被告に届く宅配便を把握するなどして、日々監督しているのだという。

 7月1日、被告に言い渡された判決は懲役1年6月、執行猶予3年(求刑懲役1年6月)。社会内での更生を認められたが、盗撮で自身の仕事だけでなく妻の仕事も失った。所有していた車も、被害弁償のために売却した。一度罪を犯したことにより、自身と家族の生活、周囲の目が一変したのだ。

 だが、被告の起こした今回の事件によって受けた慶應大学のダメージも計り知れない。名高い教育機関内でそれなりの立場もあった被告の犯行だけに、なおさらだ。今後は盗撮被害に遭った女性たちの心のケアはもちろん、行き過ぎたハラスメント行為を未然に防ぐための徹底した対策が必要だろう。

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