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“コロナ避難”が動機の地方移住 受け入れ側には強い葛藤も

新型コロナウイルスの影響で大きく変わったことと言えば、テレワークの浸透。それにつれて、都会から地方への移住を検討する人が増えている。移住マッチングサイトでは登録者数が最高記録を更新中という。

メディアでは「脱都会」や「コロナ移住」が話題になっているが、その前段には、働き方改革などの施策に影響を受けた移住相談ブームがあった。つまり、準備をしていた人が、コロナ禍に背中を押されて移住している現状がある。コロナの感染流行地域から逃避するような移住はうまくいかないと、専門家らは注意喚起している。

 

売れなかった郊外の一軒家 コロナがもたらした異変

東京都町田市に住むフリーカメラマンの岩井猛さん(66)は、自宅の売却を決めて3年目になる。子ども二人が中高生の頃、二階建て4LDKの中古一軒家を購入して、調布市から移り住んだ。それから約14年、子どもたちが巣立ってから離婚に至った事情もあり、一人暮らしには広すぎる自宅を手放すことにしたという。

岩井さんが町田市に所有する一軒家


自身は、富士山や日本アルプスを望む清里高原(山梨県北杜市)に移住して、のんびりと余生を送る計画だったが、なかなか買い手がつかなかったと語る。

「売却の仲介は新宿の不動産屋さんに頼みました。ところが、2年経っても鳴かず飛ばずで、ちっとも売れそうになかったんですよ。内覧希望者すら現れない。実は、土地が借地権付きなんです。やはりそれがネックになっているのだろうと半ば諦めていたのですが、世の中どう転がるかわからないものです。今年の春から風向きが変わってきました」

家屋980万円。定置借地権付きの土地で、計1270万円の格安物件。駐車スペースも2台分あるが、最寄りのJR横浜線・淵野辺駅から徒歩で40分かかるという立地が悪条件なのだろうと、弱気になりかけていた。ところが、緊急事態宣言が解除された今年5月末、事態は急転した。「問い合わせが増えてきた」と、担当者からの連絡があったのだという。

「いまも1日1件は問い合わせがあるそうですから、これまでとは随分と違います。いまはコロナの影響で内覧には繋がりませんが、ある方のローン契約がうまくいけば成約なるかという段階まできています」

移住先では、ドローン撮影などカメラマンとしての新境地に挑戦しつつ、半リタイア生活を送りたい考えだ。その夢が叶いそうだと岩井さんは笑顔を見せる。

岩井さんが仲介を依頼した不動産会社に聞くと、やはり都心のマンションから郊外の戸建て物件への買い替え相談は急増しているという。

担当者の女性が電話でのインタビューに答えてくれた。

「4月以降、都心から郊外へ移りたいというご相談がかなり増えています。リモートワークが定着してきたからだと思いますが、都心の小さめなマンションより、部屋数の多い一軒家に移りたいという30〜40代の方が多くなっています。出社が週一程度になるなら、駅から遠くても、中古でも大丈夫というわけです。価格帯は1億円まで。新宿駅に発着する小田急線、京王線、JR線、すべての路線で、特急で1〜2駅先の郊外まで人気のエリアが拡大している感じです。都心から千葉や神奈川方面に関しても同じ傾向です」

リモートワークで東京にいる理由がなくなる

今年3月、柳澤拓道さん(34)は東京から長野県佐久市に家族とともに移住した。勤務先のUR都市機構を自主休職して、祖父の故郷という縁がある佐久市で、ワークテラス佐久の企画運営に携わるためだった。移住については、昨年から準備を進めていたという。

ワークテラス佐久提供

「東京一極集中に限界を感じて」というのが、“職”“住”ともに地方に拠点を移そうと考える動機になったという。

「通勤の満員電車もそうなのですが、子育てにしても、都内はどこも混んでいて動きにくいですよね。コンテンツはあるけれども、アクセスしにくいというか。まちづくりの仕事をしていて、東京だけ栄えて地方では地元の活力がこのまま失われていくと、日本全体の魅力が失われていくばかりだろうという危機意識もあって、佐久市に移住しました。職場は自宅マンションから車で15分、通勤時間は短縮しました。保育園のお迎え帰りに、温泉に行くこともできます(笑)。現地では素晴らしい仕事仲間に恵まれています。自分の今後の働き方も考えながら、地域の事業にチャレンジしていきたいです」

柳澤さんは、ワークテラス佐久で地域コンシェルジュとして働いている。コワーキングやイベントの企画も担当する。ホームページには、里山の風景写真とともに、近未来的な地域づくりをイメージさせるコピーが綴られている。

“ワークテラス佐久は、地域の関わりしろ“SAKUSAKUSAKK”を提供するコワーキングオフィスです。佐久市は、長野県東部に位置する人口10万人の高原都市。シンボルである浅間山、38か所ある水源、全国トップクラスの晴天率、そして熱帯夜が未観測であるなど、高原ならではの自然環境に恵まれています。

「日本三大ケーキのまち」、「地域医療のまち」、「佐久鯉の名産地」としても知られる佐久市。佐久エリアの資源を活かし、起業する人、モノづくりに打ち込む人、都市部と行き交う人が豊かに暮らしている中、テレワーク・複業推進を通じて、たくさんの関わりしろが求められています。”
ワークテラス佐久提供

「関わりしろ」とは、数年前からローカルジャーナリストたちが口にする造語で、「そこに自分が関わることのできる余白」のこと。まさに「東京一極集中」を憂いた柳澤さんにとって、絶好の移住先だったようだ。

佐久市の地の利と大らかな土壌も魅力だと、柳澤さんは話す。

「佐久市、そして軽井沢町や御代田町は、もともと移住者の多い土地柄。デザイン系やウェブ系で働く人たちや、東京に新幹線通勤する会社員も増えていましたから、地方にありがちな排他的な土壌は感じません。通勤スタイルがリモートワーク中心となった人は、どこにいても仕事ができるので、東京にいる理由がなくなった。将来的にこの流れはさらに広がっていくのではないでしょうか。長野県では移住促進に力を入れていますし、空き家バンクのマッチングサイトも人気と聞いています」

地方と繋がるオンライン移住相談が盛況

マッチングサイト。これまでは出会い系や婚活などの市場でニーズの高かったサービスだが、このところ地方自治体の移住相談窓口でも広く活用されるようになった。2018年にスタートした移住スカウトサービス「SMOUT」も同様で、コロナ禍に突入した今年、登録者数を飛躍的に伸ばしているという。

「SMOUT」を運営する面白法人カヤックの広報・梶陽子さんによると、3月に662人、4月に702人だった新規登録者数は、5月に1085人に増加。さらに6月は1467人に達し、累計で1万8千人に達したという。梶さんは次のように分析する。

「7月はそれ以上になると期待しています。特に広告などを出すこともなかったので、5月からの急激な登録者の伸びは、コロナ禍で移住への関心が高まったためと考えています。新規登録したユーザーの属性を見ると、首都圏在住、特に東京在住の30代、40代が増えていることから、コロナ禍によりリモートワークが進み、都心に住む会社員の方でファミリー層の移住関心が高まったのではと推測しています」

「SMOUT」には、多くの地方自治体が主催する「オンライン移住相談」の情報が満載。ZOOM相談のための予約時間枠は次々と埋まっていくという盛況ぶりだ。

ただし、この急激な移住への関心の高まりには前段がある。今年6月、「SMOUT」では、2019年末に行った約1万人への移住に関する意識アンケートをもとに、『みんなでつくる移住白書2020』を発刊したが、そこには、移住への関心は数年前から高まっていたとの記述がある。

“2010年後半からの移住は、過去日本において移住者が目的としてきたものと大きく形・意味が変わってきていることが今回の調査で見えてきた。首都圏から地方移住への関心の中身が、経済的な豊かさや災害を理由とした安心を求めたものではなく、自らの暮らし方を求めた移住(だった)”

ICT(情報通信技術)インフラの普及や、企業における「働き方改革」に後押しされ、都市部の人々はコロナ以前から地方での多様な暮らし方を求めていた。

その流れのなか、ウィズコロナやアフターコロナ時代の移住先をめぐり、移住検討者と過疎地方がリモートお見合いを展開しているというのが現状だ。

面白法人カヤック提供

昨年末に行われたアンケートには、興味深いQ&Aがあった。「どんなポイントで移住先を選びますか?」という問いに対して、1位は「住宅の確保(55.6%)」、2位は「暮らし方(49.8%)」、3位は「仕事の内容(43.0%)」。自らのライフスタイルに合う地方を、移住先として選ぼうとする意図が見受けられる。アフターコロナの時代、この傾向は加速していくのだろう。

移住はアフターコロナ時代に加速する

「現時点でセンターに相談に来られている方のほとんどが新型コロナを理由としたものではなく、これまでに地方移住を考えていた方です。移住相談窓口の利用者数は、ここ10年ずっと右肩上がり。昨年は過去最高の4万9千件に達していました。9月に放送されたNHKの番組『ドキュメント72時間「さらば東京! 移住相談センター」』との相乗効果もあったとは思うのですが…」

ふるさと回帰支援センター提供

そう語るのは、千代田区有楽町にある認定NPO法人・ふるさと回帰支援センターの副事務局長・嵩(かさみ)和雄さん。番組では、広いセンター内に並ぶ自治体ブースに、相談者が引っ切りなしに訪れる賑わいが描かれていた。筆者も偶然視聴していたが、移住だけでなく就労情報も提供する相談員の対応からは、日頃からの活況が窺われた。

「2014年、地方創生を旗頭に、内閣府から長期ビジョンが発表されて以降、地方自治体側にも移住者の受け入れ体制が整い始めました。そうして移住希望者の裾野が広がっていたところに、今年はコロナ後の暮らしを本気で考え移住への関心を高めた人が増えているというのが現状だと思います。メディアの盛り上がりもありますが、皆さん、地方のよさに気がつき始めたということでしょう」

2002年から行なっている相談業務では、「景気が悪くなると、都会から地方へ人が動く」という事実が浮かび上がった。過去には、「バブル崩壊」や「リーマンショック」など、景気の悪化とともに地方移住という波が何度か起きたが、今回の波は格段に大きいと考えられている。

地方再生の研究者でもある嵩さんは、これからの移住に注意喚起する。

「ただし、コロナの影響で移住するとなると、難しいのは〝GoToトラベル キャンペーン〟を見ても分かるように、地方の人たちには都市部からの流入不安があることです。緊急事態宣言の直後にも話題になっていましたが、地方の人たちの〝できれば来てほしくない〟という不安感とヨソモノへの排他意識のようなものが改めて噴出し、移住者にとってのハードルを高くしている。移住者はもちろん最低限のルールを守るべきですし、地元にはコーディネーター的な存在も欠かせない。移住がうまくいくかどうかの決め手になるのだろうと思います」

移住から2週間はじっと「STAY HOME」

頼りになるリーダーのいる町に、今年3月、東京と北海道から2組の家族が移住した。長崎県五島市玉之浦町に住む門原淳一さん(48)は、その2家族をサポートしたという。

門原さんの本業は、社会福祉法人の理事長。特別養護老人ホームと保育所を経営している。本州最西端の福江島に移住者を迎えたいと、「SMOUT」に地域ユーザーとして登録。2018年秋から、移住希望者によるメールや電話での相談に応じてきた。その結果、3家族14人が新しい住民となった。

Photo by (c)Tomo.Yun

そのうち2家族が3月に移住したというわけだ。3月と言えば、全国的にコロナ感染拡大の不安が広がり始めた時期。移住者に対する誤解が生まれないよう仲立ちをしたと、門原さんは語る。

「はっきり言って、無神経なコロナ移住者と受け取られたら、狭い島では、すぐに後ろ指を指されますからね。そのことは伝えてあったので、ファミリーは移住してきてから2週間、じっと自宅待機していました。私が代理で買い物に行ったりしましたが、本人たちも、ここで何かやらかしたら後がないと、本当に慎重に行動していましたね」

門原さんが20〜30代と若い移住者に期待するのは、「できたら、島で赤ちゃんを生んで育ててくれることなんです」と言う。

「持続可能な限界集落にしたいですね。現在の人口は最盛期の十分の一となる1260人。このまま行けば、2030人には800人にまで減少すると言われています。これを千人にまで引き上げてモデル地区になることを目指したい」

Photo by (c)Tomo.Yun

玉之浦町の場合、移住者の「関わりしろ」は「家族」だった。重要なのは、移住する本人の覚悟だと門原さんは感じている。

「非常事態宣言の後は、確かに移住相談の件数は増えました。ただし、外因によって移住する人は、外因によってまた出て行く可能性が高いと思います。なので、確たる信念がない問い合わせに対しては、あえて厳しめなことを言います。〝こんな田舎に住めますか〟とか、〝島の生活は不便ですよ〟〝子どもさんは習い事ができませんよ〟というスタンスです」

門原さんの話を伺っていると、感染者の出ていない静かな田舎ほど、都会からの移住者を警戒するという当然のことを改めて感じさせられる。

7月、北海道の過疎地に移住するアーチストに、その前夜、都内で話を聞いた。何度も集落に通い、空き家を借りてアトリエに改装したという。ところが、彼女から移住後に連絡がきた。「コロナ移住と間違われては困るので、いまは記事にしないでほしい」と。都市部との温度差は、移住してみなければ本当のところは分からないのだろう。彼女の移住もうまくいきそうだ。

  

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