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国際的サプライチェーンから日本が突如外される時

世界的な混乱の後は必ず新しい秩序が生まれます。

幕末然り、大東亜戦争然り、冷戦の終結然り、そして今回の武漢ウィルスによる世界的な混乱を経て、日本は、いや全世界が大きな節目を迎えています。

自民党新国際秩序創造戦略本部での議論と資料を元に、経済インテリジェンスについて考えてみたいと思います。

1991年は冷戦が終結した時期であり、米国も軍事力から経済力をテコにした経済安全保障の概念が必要であるとの認識を持ちました。当時、対ロシア戦力の役割を終えたCIAは、余剰人員を経済インテリジェンスにシフトさせました。そして1996年に、経済スパイ活動法を制定し、犯罪の場所がアメリカ国内、インターネット上、海外であっても対処する権限を政府に与えたのです。

その結果、CIAには毎年約1兆6,000億円、人員は約2万1,600人の予算が投じられ、あらゆるインテリジェンス情報収集に当たっています。因みに、英国秘密情報局は毎年約4,000億円、人員約7,300人、ドイツ憲法擁護庁は毎年約500億円、人員約3,100人の予算を講じていますが、日本の内閣情報調査室は毎年約35.3億円、人員約250人、公安調査庁は毎年約153億円、人員は約1,600人。警察等も含めて日本のインテリジェンスの総予算は約330億円程度と推定されています。

米国は約1兆6,000億円。

日本は約330億円。

この差は経済インテリジェンスに対する「優先順位・意識の差」と言うことになります。

米国は特にこの20年間経済スパイ対策のインテリジェンス機関と民間企業の連携を強めてきました。米国には17のインテリジェンス機関が存在しており、そこに対する予算はインテリジェンスに関する予算だけで、総額8.7兆円規模に足しています。そして特筆すべきはFBIは、50の異なる業種、509社の企業と、週2回、20年間の打ち合わせの中で情報交換をしてきたのです。

509社の従業員総数は約2億人、GDPの50%以上を占めるに達する規模です。現在では約400万人規模のインテリジェンスコミュニティーを、「官民の間で形成」してきたのです。

現在米国では、「経済スパイ対策や会社のセキュリティーの質が“信頼という企業価値“を高める」という認識が広がっており、インテリジェンス企業からだけでなくFBIからの採用も活発化してきています。それほど企業インテリジェンスの重要度が高いのです。

さらに米国は経済スパイ対策だけでなく、新興技術の標準獲得、IT機器の新たな供給体制構築、機密情報を積極的に開示した企業や同盟国の巻き込みを図ろうとしており、インテリジェンス機関の経済分野での役割をさらに拡大しています。

では、日本の現状は?

このようなインテリジェンス機関を作ろうという気づきだけはあるのですが、日本のインテリジェンス機能を高めるためには、現在制度面において構造的な課題が存在しており、経済インテリジェンス向上の障壁となっています。

例えば、わが国には「仮想身分捜査(おとり捜査)法」がないため、組織内部に入り込んだ操作ができません。更には、個人情報保護法の「目的外利用規制」によって、ある人物を調査してほしいというニーズがあっても、基礎情報を共有することが原則許されていません。政府機関内でも機関によっては開示されないこともあるのです。更に、不正競争防止法では秘密情報の保有者の能動的な協力なくしては操作が困難です。流出情報の情報提供を受けたとしても、当該情報が秘密情報に該当するか否かの詳細な確認が必要であり、保有者自身の能動的な協力がない限り捜査の発動は困難なのです。

次に、日本の経済インテリジェンス活動を高めるための根本的な問題点について。情報を安全に管理するためのセキュリティーを含めたITインフラ投資の予算が少なすぎると言う致命的な欠陥がある事。日本のインテリジェンス機関の運用には、FBIのような民間企業と情報交換する枠組みが存在していないので、非常に限られた予算と「官に閉じた世界」で行われており、情報収集も極めて限定的なものになっていることなどが挙げられます。

これから日本の経済インテリジェンス機能を強化させるためには、「経済スパイ脅威分析に特化した新組織」を政府の中に作らなければなりません。言わずもがな、国家安全保障局(NSS)の中の経済班が日本の経済インテリジェンス機能の中枢になるのです。

そして行政だけが旗を振るのでは意味がありません。企業も大学、あらゆる機微な技術、最先端技術に関する情報に接する関係者たちが、ことの重要性を認識した上で、心を一つにし共有概念を持って運用をしていかなければならないのです。

繰り返しますが米国は20年かけて今日に至っているのです。わが国の周回遅れは実に深刻です。しかし、これまでの政治行政の不作為を恥じてでも、どれだけお叱りを受けてでも、今からでもやらなければなりません。

米国の国防権限法が世界に与える影響を鑑みると、日本の企業も大学も、そして政治・行政も、能天気でいると「国際サプライチェーンから突如外される」可能性があることを充分認識し、経済インテリジェンス構築に邁進していかなければならないのです。

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