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「写真という表現方法にはこだわらない」ヨシダナギが惹かれたドラァグクイーンたちの生き様と自信

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アフリカをはじめとした世界の少数民族の写真を撮影し続けてきた写真家のヨシダナギ。

次にレンズを向けたのは、豪華な衣装やメイクに身を包むドラァグクイーンたちのきらびやかな世界だった。

昨年、ニューヨークとパリの二都市で撮影を行った写真集『DRAG QUEEN -No Light, No Queen-』が2020年5月に刊行。クイーンたちへのインタビュー動画も特典として収録された。

これまで「写真が嫌い」とフォトグラファーらしからぬ発言を公にしてきたヨシダナギが、なぜドラァグクイーンという新しい世界を切り取ろうと思ったのか。

レンズを通して彼女が追い続けている「美」について聞いた。

※今回インタビューしたヨシダナギさんのサインが入った写真集『DRAG QUEEN -No Light, No Queen』を抽選で1名様にプレゼントします。記事末尾をご確認のうえ、奮ってご応募ください。

新作を求められ悩んだ3年 たどり着いた「ドラァグクイーン」の世界

ーー今まで少数民族の写真を撮影されてきたヨシダさんが今回、新しいテーマでの写真集に挑戦した理由を教えてください。

ヨシダ:3年ほど前から周囲から「少数民族以外をテーマにした新しい作品が見たい」と言われるようになりました。

でも私は少数民族が大好きで追い掛けていた結果、たまたまカメラマンになってしまった。だからそれ以外のテーマを撮影することに、何かモヤモヤしたものを抱えていました。一方で、新しい作品を世の中から求められている。その葛藤がずっとありました。

そうやって過ごしているとき、6年ぐらい前に『プリシラ』というドラァグクイーンが主人公の映画を見たときの気持ちをふと思い出しました。

当時、映画を通して「ドラァグクイーン」という言葉を知って、すごくかっこいいなと衝撃を受けた。その感覚が頭に浮かんで、「私、ドラァグクイーンだったら撮影したいかも」と思ったんです。

マネージャーのキミノやメディアに出る前から私に目を掛けてくれていたキュレーターの方に伝えたところ「いいと思う」と言われて、そこから企画が急に動き出しました。

ーー今回、ニューヨークとパリの二つの都市で計18人のドラァグクイーンを撮影されていますが、モデル探しはどのようにされたのでしょうか

ヨシダ:アフリカであればコーディネーターやガイドのつてがありますが、今回は全く未知の世界。最初に撮影したニューヨークに関しては、キュレーターの知人にイメージを伝えて、コーディネーターとして撮影場所などをアサインしてもらいました。

モデルに関しては、最初、Instagramで「#dragqueennyc」と調べて、気になる方に現地キュレーターを通してコンタクトを取ってもらうという形を最初は取っていました。

60人ぐらいに依頼しましたが、返事がパタリと止まったり、当日になって連絡取れなくなったりして結局、最初にお願いした60人からはモデルは決まりませんでした。

でもニューヨーク行きのチケットはもう取ってある…という状態で、実際にモデルが決まったのは、現地に着いてからになりました。

ーー最終的にどういう風にモデルを見つけられたのですか。

ヨシダ:現地のキュレーターさんが、私の送った60人のリストを見て、撮りたい人を理解してくれていました。その方がパーティーに行ってスカウトしたり、スカウトした人のつてをたどったりで、ニューヨークでは6人のモデルさんが協力してくれました。

パリでも最初は同じようにInstagramで「#dragqueenparis」とかで調べていたんですが、思ってた以上に見つからなくて。

コーディネーターさんに教えてもらったフランス語のハッシュタグをたどって、モデル候補をピックアップするというやりとりを行って12人のモデルを決めました。

場所もモデルも決まらずニューヨークへ 帰国時には虫の息

ーーニューヨークではモデルが決まっていない状態で現地に?

ヨシダ:撮影場所もモデルも決まってない状態でした。滞在期間は5日だけ。本当に目まぐるしくかったです。

朝4時に起きて、場所が決まっていないときはその日にロケハン(現場の下見)。撮影して、いったん3時間ぐらい休憩して、また夕方から夜まで撮影して、ホテルに帰ってくるというスケジュールでした。

日本に帰るときには虫の息で、パリではお金が掛かるのは承知で期間を延ばしました。

ニューヨークとパリ 撮影を通して感じたクイーンたちの違い

ニューヨーク(上)とパリ(下)で多くの違いを実感した

ーーニューヨークとパリでは違いはありましたか

ヨシダ:全然違いました。

たまたまかもしれませんが、ニューヨークの6人のうち半数くらいの人たちがドラマチックな壮絶な人生を歩んでいて。「ドラァグクイーンの姿を見ることですごく自分が励まされたから、自分も今、人を励ましたくてやっている」と。生き様ですね。

パリに関しては、キャバレー文化が根付いているので、メイクがニューヨークとは明らかに違いました。「今、4カ月目」とか「今、6カ月目」という新しいドラァグクイーンが多くて。

「何でドラァグクイーン始めたの?」と聞いたら、テレビで見て(ドラァグクイーンの)化粧を私たちもできるんじゃないとメイクしてみたらきれいにできたと。

穏やかなノリで始めた子たちが多かったです。だからどちらかというと、美しさやアートの視点でドラァグクイーンをしている人が多い気がしました。もちろん、これは私が撮影の中で出会ったクイーンから受けた印象で、国にかかわらずいろんな背景や想いを持ってクイーンをしている人が多いと思いますが。

ーーそういった違いは写真に反映されたりするんですか

ヨシダ:何も知らない人が見たときにこの人はパリ、この人はニューヨークって分かるようにしたいなと漠然と思っていましたが、違いを出せるかどうか心配でした。

でもやっぱりニューヨークとパリのメイクやスタイルは違うし、街の景色や空気感も違うので、自然と「あ、この人はパリっぽい」みたいな感じに収まったんじゃないかなと思います。

「自分と違う文化を知ろうとするあなたのその姿が私は好き」


ーー撮影モデルの依頼したときや、実際に現場で会ったときに、モデルからはどういう風な反応がありましたか

ヨシダ:まず皆さん、私がどんなカメラマンなのかを知らない。自己紹介はしましたが、これまで少数民族という全然違うテーマでの撮影をメインにしてきていたので、それがちょっと何だろう…。ある種の後ろめたい気持ちもありました。

私はドラァグクイーンという文化をすごく深く知ってるわけではないし、もちろん撮影前に勉強しましたが、何かうわべの情報しかないような気がして。

だから正直に「ドラァグクイーンって何ですか」というところから聞いて、学んでいこうというスタンスで行きました。

最初は「少数民族を撮ってた人が来るってどういうこと?」というような感じで反発もあるかなと思っていたんですけど、「よく私たちに興味を持ってくれたわね」と、全く別の世界から来たことを逆に受け入れてくれました。

モデルの中には、私や私の写真のことをYouTubeとかで徹底的に調べてきた人がいて、その人は「自分と違う文化を知ろうとする、受け入れようとしている、あなたのその姿が私は好き」と言ってくれました。

ーー「ドラァグクイーンって何ですか」という質問は、人それぞれ答えが違うのかなと思ういますが、どういった答えが返ってきましたか

ヨシダ:それぞれ言葉は違うけれど、「自己表現」「アート」と答える人が圧倒的に多かったです。

私は「ドラァグクイーン」という世界に興味を持ったと自分では思っていたんですけど、インタビューをしていて、結局、私は個の人間が好きなんだなという。少数民族も、◯◯族と分けられていますが、同じように個々の人たちが好きで。

だから、たまたま私が惹かれたのがクイーンだっただけであって、その18人全員の個性に私は惹かれたんだなというのをインタビューしていて思いました。

現場では「美」のすり合わせ 「あんた、いい仕事してんじゃん」


ーー実際にモデルに会う前にヨシダさんが想定していた以上に、美しい姿を撮ることができたという瞬間は、今回の撮影ではありましたか

ヨシダ:モデルさんたちが思っていた以上にきれいだったんですよ。美意識が圧倒的に高くて。化粧なんかも、私はメイク学校に通っていた時期があったんですけど、そんなレベルじゃないぐらいみんなメイクが上手。

衣装も、やっぱり自分に似合うものを知っている方たちなので、想像以上にきれい過ぎて、あまり構図を考えなくても、不思議と絵になってしまった。だから悩まずに撮影ができたところがあります。

ーー美を普段から意識されてる方たちを美しく撮るというのは、カメラマンとしてのプレッシャーも大きかったのではないでしょうか

ヨシダ:パリでは特に、SNS世代の若い人たちが、多かったんですけど、こだわりが私たちの世代以上にすごくて。

全員が自分の細く見える角度や好きな角度を持っているんですけれど、加工するのが当たり前、レタッチ前提なので、撮影前に「鼻、ウエスト、腕」とか自分の気になるポイントを全部書き出して、「これをこう見せてほしい」と契約書を結んだ子もいます。

そのままで美しいんですけれど、それぞれの思う美があるので極力合わせてあげたい。きれいに見える角度を探して、本人が気にしている部分を気にならないように撮影しなきゃなって。

でも、すり合わせが必要なときもあります。

あるモデルさんは反対側の顔を撮られたくないと、私が顔の向きを指示しても、こっそり戻すんですよ。「私の顔はこっちなの」って。

それに対して「分かっている。でも、この場所だといつもと逆の角度のほうが、あなたが気にしているところが写らないと思う。一度撮った写真見てくれる?」と伝えて、実際に写真を見せることで、「あんた、いい仕事してんじゃん」とモデルから信用を得たこともありました。

ーー撮影で難しさを感じた部分はありますか

ヨシダ:「自分の力不足」を痛感したのが、言葉でのコミュニケーションです。

少数民族の撮影の話になると、よく「言葉が通じないのにどうしているんですか」と聞かれるんですけど、言葉が通じないからこそ私にとってはすごく楽な部分があって。

身振り手振り、表情などを少数民族はすごく見ているんです。だから、彼らのことが好きで、一緒に行動したいと思って過ごしていれば、言葉がなくても受け入れてもらえることが多かった。言葉のコミュニケーションが苦手な私としては、そっちのほうがありがたかったし、得意だと思っていました。

一方、ドラァグクイーンの方たちは基本的に英語を話すことができます。私の英語が拙いというのもあるんですが、それ以前に私には日本語のボキャブラリーもないので(笑)。

インタビューであれば会話できるんですけど、いざプライベートでしゃべるとなるとうまく会話がつづけられなくて。

それで、最初のほうは「この子は何でしゃべらないの?」とモデルを不安にさせてしまいました。「私、何かやっちゃった?」みたいな。

でも短い時間ですが過ごしていく中で、「あ、あの子はあんまりしゃべらないタイプね。でも何か熱いものはあるのね」という風に、最終的には受け入れてくれました。

写真集に「動画」を付録 手段にはこだわらないヨシダナギの目標

ーー今回の写真集ではドラァグクイーンへのインタビュー動画が付録としてついています

写真だけでは切り取れないクイーンたちの声や動く姿を動画で伝えることができたら、人間性や魅力がより伝わるかと思い、動画を付けることになりました。

写真家としては写真だけで語らないと本当はダメなのかもしれませんが‥‥でも私の最大で唯一の目標はモデルの「魅力を伝えること」。クイーンたちがいかに素晴らしくて、かっこよくて、誇り高く、美しいかを伝えることです。

ーー「写真」という表現方法にはこだわらない?

ヨシダ:魅力を伝えられるなら歌でも絵でも良いけれど、私にはそのスキルがありません。でも今のカメラは性能がいいので、モデルさえ良ければ、ボタンひとつで伝えることができる。私にとってはその手軽さが魅力的でした。

でも逆に、動画では伝えきれない魅力を写真だったら切り取ることができる瞬間も絶対にある。モデルが動いているときと、本気でポーズを決めたときの魅力の違いも私は見てほしいと思っています。

本当にかっこいい人はカメラの前に立ったときに生き様が表れる


ーー少数民族やドラァグクイーンの魅力を伝えてきたヨシダさんにとっての美しさ、かっこよさとは何でしょう

ヨシダ:私の中でかっこいいっていうのは、生き様や自信があふれ出ていて、カメラの前に立ったときにそれが立ち姿にガンッと表れていることです。その種のかっこよさって、本当に限られた人しか持っていないと思っています。

少数民族の方もそうですが、ドラァグクイーンとして今回モデルをしてもらった人たち全員がその生き様が表れるかっこよさを持っていました。

ーーレンズを通して人と対峙してきたからこそ分かる美しさですね

立ち姿がかっこいい人って、フレームインしたときから違う。

逆に私が被写体として撮られることもありますが、まあ情けないんですよ。それが自分の中でコンプレックスなので、自分にないもの持っている人たちに憧れがあります。

モデルの背負っているものや信念の強さというものはそんな簡単に手に入るものじゃない。だからこそ、かっこいいし美しいと思っています。

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