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「『未来ある若者の邪魔はしない』。個人の能動的な行動が日本を再び“ヤバい”国にする」 - 賢人論。第117回(後編)慶應義塾大学環境情報学部教授 ヤフー株式会社 CSO 安宅和人

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安宅氏の著書『シン・ニホン』では、実にさまざまな問題提起がなされている。「国家予算という限られたリソースをどう配分するか」についても、超高齢社会を迎えたわが国では避けて通れない問題だろう。内閣府総合科学技術イノベーション会議など、政府関連の数多くの会議や委員会に参画している安宅氏は、この問題にどう斬り込むのか。未来に対する希望の持ち方と併せて、率直に語っていただいた。

取材・文/盛田栄一 撮影/公家勇人

国全体として使えるお金のうち8割以上が社会保障に使われている

みんなの介護 安宅さんは著書『シン・ニホン』の中で、「わが国が65歳以上のシニア層に社会保障費などのお金をかけすぎている問題」に言及されています。国家予算の配分について、改めて解説していただけますか。

安宅 数字を挙げて解説してみましょう。

2016年のわが国の予算は、一般会計で96.7兆円。歳入の内訳は税収57.6兆円、税外収入4.7兆円、借金(国債発行)34.4兆円。そして歳出の内訳は社会保障給付費32.2兆円、地方交付金15.3兆円、残債払(過去の社会保障給付金)23.6兆円、真水(国と地方の財政支出)25.9兆円。真水のうち防衛費が約5兆円ですから、自由に使える国家予算は約21兆円しか残りません。

一般会計約97兆円のうち、自由に使える予算は全体の5分の1程度しかないのです。

しかしここで気づいていただきたいのは、社会保障給付費32.2兆円は、明らかに少なすぎるということです。国民医療費だけで30兆円を超えているはず。さらに年金の支払いを加えれば、32兆円で収まるはずがありません。

実は一般会計には、社会保険料として徴収されたお金が含まれていません。大まかに言って、一般会計と社会保険料を加えた歳入合計は約170兆円。そのうち約118兆円が社会保障給付費に使われています。また、残債払の23.6兆円も、実質的に過去に社会保障費の穴埋めに使った借金(国債)の返済ですから、これも半ば社会保障給付費といえます。結果、国全体として使えるお金のうち、約142兆円が社会保障に使われていたということができます。

みんなの介護 つまり、使えるお金の8割が社会保障に使われたわけですね。驚きです。

安宅 しかも、年金のほぼ100%と医療費の60%以上が、65歳以上のシニアのために使われています。その金額は約80兆円以上。先程の残債払いを加えると軽く100兆円を超えています。

一方、2016年のわが国の科学技術予算は、わずか約4兆円。これは中国のおよそ4分の1、アメリカの5分の1に過ぎません。シニア層は我々の恩人たち、社会功労者であり、恩に報いるべきことは事実なのですが、明らかに、国家予算の未来に使われている割合が小さすぎると言えます。技術革新とその利活用が世界を激しく動かし、さまざまな課題解決の鍵になるこの時代にこれでいいわけがありません。

社会保障費に潜む「無駄」を省くことで、2・3兆円をねん出できる

みんなの介護 この問題に対して、安宅さんは「シニア向け予算を合理的に見直すことで、教育や科学技術のための予算をもっと増やすべき」と主張されていますね。

安宅 はい。私としても、「社会保障費をいきなり1割削減しろ」とか、そんな乱暴な議論をするつもりはありません。私にも高齢の親がいるので、その手厚さのありがたさはわかっています。ただ、私の計算では、社会保障費の数%、年間2~3兆円を教育と科学技術分野に振り分けるだけで、わが国の未来は大きく変わります。

みんなの介護 母数の大きさを考えればそれくらいであれば、何とか生み出せそうですね。

安宅 社会保障費の中身をデータドリブン(データをもとにアクションを起こすこと)な視点で見ていけば、かならずクオリティを犠牲にせずに手を入れうる部分が見つかるはず。そこを見直していけば良いでしょう。

たとえばここに、「認知症高齢者の入院日数 国別比較」のデータがあります。これをみると、日本の認知症高齢者は「血管性」で平均350日、「アルツハイマー病」で平均252日入院していることがわかります。一方、欧米は日本に比べて入院日数が驚くほど短い。イギリスは平均72日、オランダは平均19日、スウェーデンは平均13日、デンマークは平均8日、アメリカは平均6日。日本の認知症高齢者が欧米より40倍も治りにくいなんて、医学的・生物学的にあり得ない。だとすれば、平均350日の原因と思われる人為的理由を解消することで入院日数を短縮でき、その分、医療費を削減できるはずです。

また、東京大学、自治医大、医療経済機構の共同研究チームが日本のすべてのレセプトデータ(医療報酬の明細書データ)を解析したところ、外来患者に対する抗菌薬投与の5割以上が、通常は抗菌薬が不要な感染症に対して処方されていたこと、、また抗菌薬が必要な感染症に対しても7割以上に耐性菌が発生・増殖しやすい不必要に広域の抗菌薬が処方されていることがわかりました。つまりここでも、無駄な医療費がかかっていたわけですね。それどころか、不必要な抗生物質の乱用は耐性菌の発生を招くため、むしろ禁忌と言えます。この分の医療費は、予防医学の観点からも見直すべきですね。

みんなの介護 データを丁寧に分析していくことで無駄をはぶくことができれば、2~3兆円を捻出することはできそうですね。

安宅 一応お断りしておきますが、高齢者に多額の社会保障費がかかることは、私も当然のことと認識しています。人間は物理的な存在でもありますから、生まれて70年も経てば、あちこち弱ってくるのは自然の摂理。若い人よりお金がかかるのは当たり前です。ただし、システム全体としてシニアかどうかにかかわらず無駄にお金をかけすぎている部分があるので、「その分を未来のために使うべき」と考えています。

研究者の待遇改善に年間2,000億円、PhD学生の育成グラントに年間3,750億円、大学・国立研究所の交付金を以前の水準に戻すのに年間3,000億円、これらの機関のスタッフ強化・業務改善に1,100億円、初等・中等教育(小中高)のAI-ready化に年間4,500億円など、総額約2兆円の教育&科学技術予算が追加できれば、日本はふたたび現在のように極端に現場に負荷をかけることなく世界と勝負できる準備が整うようになるというのが私の試算結果です。

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