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社会保障に依存しない生き方を選択。最後まで人の役に立つことが美しい人生です - 賢人論。第117回(中編)慶應義塾大学環境情報学部教授 ヤフー株式会社 CSO 安宅和人

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安宅氏の近著『シン・ニホン』は実に刺激的な1冊だ。わが国が置かれている現状を鋭く分析し、問題点を厳しく追究しながら、問題解決のための処方箋の提示を忘れない。だから読者は、日本の行く末を深刻に嘆き憂いながら、「自分にできることからやっていこう」と、未来を前向きにとらえることができる。ここでは、著書で取り上げられていたトピックの1つ、「生産年齢人口」にスポットを当て、お話を伺っていく。

取材・文/盛田栄一 撮影/公家勇人

平均寿命ではなく、最頻死亡年齢を基に生産年齢を検討する

みんなの介護 安宅さんは著書『シン・ニホン』で、「わが国は生産年齢人口の定義を変えるべきだ」と指摘されていて、まさにそのとおりだと感じました。

安宅 ありがとうございます。2018年のわが国の平均寿命は男性81.25歳、女性87.32歳。ただし、これはあくまでも平均値なので、男性はみんな81歳前後に、女性はみんな87歳前後に死んでいるわけではありません。若くして亡くなる方が一定数いれば、平均寿命はぐっと押し下げられる計算になります。

では、実際問題として、わが国では何歳くらいで死ぬ人が多いのか。それを明らかにするのが「死亡年齢分布」のデータです(『シン・ニホン』P.88を参照)。これを見ると、男性は88歳、女性は92歳で死ぬ人が最も多いことがわかる。つまり、大病や事故に遭わなければ、80歳以上は長生きするということですね。よほどの大病でない限り、寝たきりの生活が5年も10年も続くとは考えにくいですから、多くの場合、亡くなる2〜3年前までは普通に生活できると考えるべきでしょう。つまり、男性なら85〜86歳、女性なら89〜91歳くらいまで、比較的元気に暮らしていけるはずです。

みんなの介護 平均寿命を目にする機会はありますが、死亡年齢から高齢者の暮らしを考える機会は少ないです。多くの方がご高齢まで健在でいらっしゃるケースが多いということですね。

安宅 そうなんです。しかしその場合、現在の「生産年齢人口」の定義である「15歳以上65歳未満」という区分は、明らかに実態にそぐわないことになります。そもそも、高校進学率が97%を超えている今、中卒で15歳から働き出す人はほとんどいません。また、65歳で現役を引退するのは明らかに早すぎます。人生100年時代と言われて久しいですが、65歳から死ぬまでの数十年間を、無為に過ごせというのでしょうか。

死ぬ直前まで社会の役に立つことが、シニアの生きがいにつながる

みんなの介護 男性が88歳、女性が92歳で亡くなると想定すると、65歳でリタイアすればそれぞれ23年間と27年間の余生があることになりますね。

安宅 65歳でリタイアしても、良いことは何もありません。本人にとっても、社会にとっても大きなマイナスです。

私は「仕事=人の役に立つこと」と規定していますが、人は死ぬ直前まで、人や社会の役に立ちたいはず。それこそが「生きがい」であり、最後まで人の役に立って死ぬことが美しい人生、美しい生き方だと思います。逆に、「65歳になったから仕事をしなくていい」と言われることは、「もう社会の役に立たなくていい」と言われるようなもの。そんなことを言われて、余生を誇り高く生き抜くことができるでしょうか。人の人生を65歳で区切って社会からはじきだしておいて、それでも「生きがいを持て」というのは、明らかな論理破綻だと思います。

64歳まで何らかの仕事に就いていた人は、仕事を通してその人なりの知見や経験を持っているはず。そのリソースを社会のため、経済活動のために活かさないのはもったいない。

みんなの介護 実際問題として、企業を定年退職した途端、認知症の症状が出はじめる人も少なくないようです。

安宅 当然ですね。社会から強制的に切り離されて、社会の構成員としての責任感や緊張感を突然失ってしまえば、認知症の進行も促進するのだと思います。

みんなの介護 では具体的に、わが国の生産年齢人口はどのように設定すれば良いでしょうか。

安宅 20歳以上85歳未満が妥当な線でしょう。あるいは、25歳以上90歳未満でも良いですね。高齢者が最期まで誇りを持って生き続けるには、ぜひともこの年齢まで働くべき。それによって、僕たちの社会も経験豊かな労働力をより多く活用できることになる。これこそが完全な正義だと考えます。

もちろん、働くといっても、若い頃のように週5日フルに働く必要はありません。週1日でも週3日でもいいし、1日30分でもいい。また、1つの仕事に縛られることなく、いくつか仕事を掛け持ちしてもいい。それが高齢者の生きがいにつながるし、逆に社会保険料を払う側に回ってくれれば、わが国の財政面でも大きなプラスになります。

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