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尖閣諸島で1ミリも妥協できない理由

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4)漁場の価値
わざわざ中国からも沢山の漁船が来ている訳ですから、この周辺の漁場には一定の価値があると思います。しかし漁業権というのは外交的な交渉の中でも、それほど難易度が高いものであるとは言えません。したがって尖閣諸島の領有が絶対に必要であるとは言えないような気がします。

5)海底油田の価値
尖閣諸島周辺の大陸棚には「非常に厚い堆積物がある」ので中東なみの油田・ガス田が眠っている可能性があるというのは1968年に国連のECAFEという下部組織の調査報告ですが、現在までに1本の試掘も行なっていませんので、巨大な油田・ガス田の有無というのは、実際のところはまったく不明です。仮に油田が見つかったとしても、自衛隊の護衛艦に守られながら石油を掘る会社は、日本には1社もありません。仮に中国からの武力威圧もなく、油田の開発に成功したとして、尖閣諸島から九州までの間には深い海溝があって海底パイプラインは無理なので、低コストで効率良く本土へ運んでくる事はできません。

そういう問題をすべて除外したとしても、もっとも大きな問題が残っています。国連海洋法では大陸棚条項と排他的経済水域のどちらが優先するか明示されていません。中国は沿岸から最大350海里までを権利主張できますが、沿岸から尖閣諸島までは195から220海里の範囲です。もし国連で中国の主張が認められれば、日本が尖閣を領有しつづけても、島周辺の領海(12カイリ)から外側の油田は、いまは日本の排他的経済水域として日本に権利が認められていますが、あとから中国に(国連海洋法に従い合法的に)取られるかもしれないという大きなリスクがあります。(これは春暁ガス田にも共通する問題です)

話しが長くなったのでまとめると、尖閣諸島周辺の大陸棚に中東なみの石油やガスがあるかもしれないというのは、「非常に厚い堆積物がある」というだけで、誰も実際に確認していません。もしあったとしても、中国の威圧や、あとから中国に取られるかもしれないというリスクがあるうちには、日本の会社は手を出す事はできません。あっても無いのと同じなら、何の意味があるのでしょう。

6)シーレーン防衛のリスク
尖閣諸島を取られるとシーレーン防衛に重大な問題が発生するという意見を目にしますが、実際問題としてどうなのでしょうか。中国が仮に尖閣諸島を領有して軍事基地をつくったとして、先島諸島と沖縄諸島の隙間が物理的に広がるという訳でもありません。この付近の海は内側から太平洋へ抜ける通路も限られており、潜水艦の出口には米軍の探知装置が見張っているそうなので、中国が尖閣諸島に潜水艦基地をつくったとして、何の意味があるのかわかりません。

7)台湾を中国の武力侵攻から守る為の戦略的重要性
中国の武力侵攻から台湾を守るのは自衛隊じゃなくて米軍の責任(仕事)だと思います。米軍から見て尖閣諸島を中国に奪われる事がそんなに大きな問題であるならば、10年も20年も前に、日本が安定して領有できるように、米政府による工作があってしかるべきではないでしょうか。米政府が「命がけで領土を守る覚悟が日本人になければ日米安保は発動しない」と言うのなら、そもそも尖閣諸島には、客観的に見て戦略的な重要性など無いという事かもしれませんね。

8)尖閣諸島の次は沖縄?
こういう事を言う人もいますが、意味不明です。日本国の一部である沖縄に武力侵攻すれば、日米同盟が100%発動する事は彼らも分かるでしょう。故に、そのような状況が起こる事はあり得ないでしょう。沖縄県が日本国から合法的に独立すれば話しは別ですが、どんな理由で独立するのであれ、独立した後でどうするかは沖縄人次第じゃないでしょうか。

9)尖閣で1ミリも譲歩できない本当の理由は何か?
上記で検討してきた内容に大きな間違いや見落としがない限り、実は日本が尖閣諸島を手放しても、経済的にも軍事的にもおおきなデメリットは無いのかもしれません。その一方で、尖閣問題で今後ともに中国と対立を続け、中国進出した日系企業の不利益や、日本企業が中国市場へアクセスを失う不利益を考えれば、日本側が尖閣で妥協するメリットは十分あり、日本の国益にかなうと感じられます。

現在のように反日騒動が大きくなってしまうと、中国政府は経済面よりも政治面のウェートが大きくなります。尖閣問題での(元の棚上げ状態へ戻るより大きな)妥協は共産党の敗北となり、一党独裁政権にとっては極めてまずい状況で、現時点では彼らの方が選択オプションの幅が狭いように思います。こういう時こそ、日本が尖閣の札を切って、別の利益を得るチャンスではないでしょうか。

しかし日本政府が妥協案を出すのを難しくしているのは、国益うんぬんという経済的な問題ではなく、ナショナリズムという感情問題ではないでしょうか。1ミリも譲れないというのは、実はここから来ているのだと思います。ところで、中国は最近、ロシアに実行支配されていた(もともと中国領土だった)島を、互いに譲歩する事で半分取り戻すという大きな成果をあげ、ロシアと中国は互いの国境線をすべて合意の上で確定しました。

反日騒動で盛り上がっている今のような時こそ、中国から見た尖閣カードの価値は、逆に高まっています。日本政府はそのカードをどのように切り、かわりに何を要求するのか。そういう事が、日本にとって本当の国益と言えるのではないかと思います。

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