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「原発ゼロ」をどう考えるか-政府試算からみた影響 - 片岡剛士

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周知のとおり、昨年の3月11日に東日本大震災が生じた後、われわれの眼前には大きな2つの課題がのしかかることになった。1つは復興をどのように進めていくのかという課題、そしてもう1つが東京電力福島第1原子力発電所事故に端を発したエネルギーに関する課題である。

今年の8月28日には「エネルギー・環境戦略」策定に関する国民の意見を検証する政府の専門家会議で「少なくとも過半の国民は原発に依存しない社会の実現を望んでいる」との検証結果がまとめられた。

検証では、脱原発の時期や実現可能性について「意見が分かれている」と分析され、政府が2030年の原発比率で三つの選択肢(「0%」「15%」「20~25%」)を示したことについては、「国民は各電源の割合よりもどのような経済社会を築くかの関心の方が高い」との意見がだされた。 検証結果では、政府が募集したパブリックコメントで原発ゼロを支持する意見が9割近くに達した要因として「原子力に関する政策決定のあり方への不信、原発への不安が極めて大きい」との分析がなされている。

今後のエネルギー政策がどうあるべきかを考える際には、発電電力量に占める原子力発電の比重が低下する場合にどのような経済的影響が生じうるのかを検討しておくことが有益だろう。資源エネルギー庁基本問題委員会では、5月9日開催の21回委員会資料(http://www.enecho.meti.go.jp/info/committee/kihonmondai/21th.htm)で包括的に経済モデルの試算結果がその方法と合わせて提示されている。

また、試算結果は「話そう”エネルギーと環境のみらい”」の「重要文書・データ」欄にある「経済影響分析結果一覧」(http://www.sentakushi.go.jp/database/#database1)で一望することが可能だ。

以下では主にこれらの資料を参照しつつ、筆者が重要と考える特徴を抽出した上で考えてみることにしたい。

試算に用いられている経済モデルの特徴



さて紹介した資料では、経済モデルによる試算として、4つの機関による試算結果が紹介されている。試算に用いられた経済モデルは概ね経済全体を幾つかの産業に分け、家計・企業・政府の相互依存関係を分析する「一般均衡モデル」という枠組みに沿ったものだ。

これは例えば、内閣府が半年に一回公表している経済財政の中長期試算(http://www5.cao.go.jp/keizai2/keizai-syakai/shisan.html)で用いられている「マクロ計量モデル」とは異なる。マクロ計量モデルでは消費、投資、GDP、財政・社会保障といったマクロ変数を対象に、経済・財政の絵姿を試算するものである。

他方で一般均衡モデルは一般均衡理論に基づき産業別にモデル化がなされている事が特徴の一つであり、電源構成変化のシミュレーションでは、エネルギーを沢山消費する産業や、あまり消費しない産業といった産業毎の特色を踏まえた試算を合わせて行うことが可能である。

詳細については資源エネルギー庁基本問題委員会21回委員会資料(http://www.enecho.meti.go.jp/info/committee/kihonmondai/21th.htm)にある事務局提出資料や4機関の試算資料を参照いただきたいが、4機関の一般均衡モデルにはいくつかの点について相違がある。この点についてふれておこう。

まず大阪大学・伴教授(伴)モデル、国立環境研究所(AIM)モデル、地球環境産業技術研究機構(DEARS)モデルは一時点のデータベースと経済主体の行動を規定するパラメーターを用いて一般均衡を満たすようにカリブレートされたCGE(Computable General Equilibrium:計算可能な一般均衡)モデルであるのに対して、KEOモデルの場合は時系列のデータベースから推計・構築された一般均衡モデルである。

労働市場のモデル化については、慶應義塾大学野村准教授(KEO)モデルは不完全雇用(失業の存在)が考慮されているが、その他のモデルでは失業は存在せず、労働需給を満たすように賃金が調整される形となっている。

経済主体の行動としては、モデルが解かれる全期間を通じて効用最大化を実現するようなフォワード・ルッキング型(将来に対する予想が現在の行動を規定する)を伴モデル及びDEARSモデルは採用しているのに対して、KEOモデル及びAIMモデルでは家計及び企業は毎年単位での効用・利潤を最大化するように行動すると仮定されている。

経済モデルに基づく将来試算は将来予測ではない



そして一般均衡モデル、マクロ計量モデルといった経済モデルの試算は、「将来予測ではない」ことに留意すべきである。しばしばこのような試算が出されると、「電力価格が2倍になる」といった試算結果を予測結果であるとミスリードさせるかのような報道や、「経済モデルに基づく将来試算は当たった試しが無いから意味がない」、「政府による試算であるから政府の都合の良い前提が織り込まれているはずだ」といった指摘がなされることがある。そうした批判は時には当たっている場合もあるが、むしろその前に、試算の内容や結果を十分に吟味することが必要だ。

では「将来予測」ではないとすると、経済モデルに基づく試算はどういったものなのだろうか。経済モデルの試算はa)「現時点で考えられる将来要素を考慮した絵姿」を推計ないしは想定した上で基準となるシナリオを作り、b)a)に加えてインパクトとなる要素を変化させた別の絵姿をモデルから推計した後にa)とb)とを比較することで、インパクトの経済的影響をみるといった形で行われる。

つまり2030年時点の電源構成(発電電力量に占める原発、火力、再生可能エネルギーの比率)を原発0%、原発比率15%、原発比率20~25%とした場合の経済モデルの試算とは、2010年~2030年時点の電源構成が現状と同じである場合の経済成長の動向(実質GDP成長率等:実質GDP成長率は大体年率1%程度)や人口・世帯数、燃料費(原油・LNG・石炭価格)、交通需要(貨物・旅客輸送量)の値をa)「現時点で考えられる要素を考慮した絵姿」として設定の上で、b)2030年時点に原発ゼロ、原発比率15%、原発比率20~25%という電源構成の変化と、電源構成の変化に対応した、電力系統増強・電圧対策・余剰電力対策・需要・出力変動対策にかかるコスト(系統対策費用)、再生可能エネルギー推進や省エネ促進のための投資を考慮した「現時点で考えられる電源構成を変化させた場合の絵姿」を求め、b)からa)を差し引く事で経済へのインパクトを求めるというものになるわけだ。

図表1は経済効果のイメージを作図したものである。図表では公表されたデータを得ることができる最新時点を2010年としている。黒線は現時点でa)2030年の電源構成を2010年と同じ形で維持するという前提のもとで試算した経済指標(例えば実質GDP)の推移を示しているとお考えいただきたい。

図表中ではこの場合に経済モデルから得られた2030年の実質GDPがa点ということになる。一方でa)に加えて電源構成を変化させた際に達成された2030年の実質GDPがb点ということになる。この図では、電源構成を変化させた場合の経済効果はa点とb点の差になるというわけだ。

図表1 電源構成変化の経済効果シミュレーションのイメージ



なお、ここで示したa点に該当する数字は、国家戦略室「エネルギー・環境に関する選択肢[概要]」(http://www.enecho.meti.go.jp/info/committee/kihonmondai/28th/28-1-1.pdf)の16頁にある自然体ケースの実質GDP(事務局が設定した外生変数に沿って各モデルで試算した結果であるため試算によってバラツキがあるが、609兆円~636兆円)に該当し、b点が各試算における2030年までに原発比率ゼロ%の場合(ゼロシナリオ)、15%の場合(15シナリオ)、20から25%の場合(20~25シナリオ)における実質GDPの数値にそれぞれ該当する。

2010年の実質GDPが512兆円程度であるため、自然体ケースでは2010年から2030年までの平均実質GDP成長率(年率)を0.9%から1.1%程度と見込んでいるということになる。ちなみに2000年から2010年の平均実質GDP成長率(年率)は0.8%だから、それよりもわずかに高めの実質GDP成長率が見込まれている。だが、この数字は想定に基づく値であり、2030年時点の自然体ケースの実質GDPが必ず2010年を上回る事を保証するものではないことに留意すべきだろう。

試算結果の概観



試算結果を概観する際には、”エネルギーと環境のみらい”の重要文書・データにある「経済影響分析結果一覧」が役立つ。この資料は各ケースの電源構成が【分析したシナリオの前提】として示されており、推計した結果がCO2排出量、GDP等、産業別影響等、電力価格等、光熱費等、就業者数等に分けて示されている。それぞれについて筆者がポイントとなると考える点を中心に見ていこう。

GDP等への影響



まずGDP等への影響を見ていく。資料では2020年時点及び2030年時点の自然体ケースの経済指標からの変化率という形で示されている。図表2は2030年時点の実質GDP(炭素制約あり・なし)、家計消費支出(実質)、貿易収支のGDP増減への寄与(実質)につき、2030年時点の自然体ケースとの変化率をまとめている。なお、「ゼロシナリオ」とあるのは2030年までに原発比率をゼロにした場合、「ゼロシナリオ’(ダッシュ)」とあるのは2020年までに原発比率をゼロにした場合である。

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