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元特捜検事と元新聞記者が明かす「検察とメディアの癒着」

黒川事件、検察やメディアをどう見る(時事通信フォト)

長谷川氏(右)は記者と検察との関係を指摘

 東京高検の黒川弘務・前検事長の賭け麻雀問題を受けて有識者会議「法務・検察行政刷新会議」が開かれるなど、検察が抜本的改革を迫られている。中でも世間を驚かせたのが、検察とメディアの驚くべき癒着である。なぜ、こんな歪な関係が生まれたのか。元東京地検特捜部検事の郷原信郎氏と、官僚とメディアの関係性を問題提起してきたジャーナリストの長谷川幸洋氏(元東京新聞論説副主幹)が、一連の問題を語り合った。

【写真】クールビズスタイルの長谷川幸洋・元東京新聞論説副主幹と、髭を蓄えた郷原信郎氏の対談

 * * *

郷原:国民からの批判を受けた検察庁法改正の断念、賭け麻雀疑惑による黒川弘務・東京高検検事長の辞任を経て、林真琴氏の検事総長就任が決まりました。一連の件を踏まえて、検察とメディアのあり方をこの機会に見直そうと思っています。もともと長谷川さんと私は、安倍政権をめぐる論調は違うが、この点については、議論ができると思いました。

長谷川:メディアの側で言うと、大学を卒業して新聞社やテレビ局に入って最初に叩き込まれるのは「お前の調べはどうでもいい。お前自身は事件、事故を取材する『少年探偵団』ではない。警察、検察が何を調べているのかを聞いてくるのが、お前の仕事」ということなんです。これを誤解してマスコミに入ってくる者もいて、たとえば、現場の聞き込みで「そこに白いクルマが止まっていた」とか聞いてくると、それをそのまま記事に書こうとする。そこでデスクが「誰に聞いたんだ」と聞いて「私が聞いてきた」と答えたら「それではダメだ」ということなんです。

 最初のサツ回りでそれを徹底的に仕込まれるので、東京に上がって霞が関や検察、警察を取材するときにも、彼らの話を聞いてくることが仕事になる。相手の言っていることが正しいか、間違っているかは、つまるところ、どうでもいいんです。間違っていても、それは自分ではなく相手の問題だと。真実を伝えるというのは、あくまで建前にすぎず、真実は役所なり警察検察が調べることだというのが、メディアの大前提になっている。少なくとも、日本のマスコミはそうです。だから自然と官僚のポチになる。これは記者の構造そのものなんです。

郷原:それがはっきりした形でマスコミと検察との形で出たのが、司法クラブであり、今回の黒川氏と記者たちとの賭け麻雀ですね。

長谷川:記者からすれば、検察官と麻雀なんてできたら、最高なんです。何時間、一緒にいられることか。「俺もついにここまで来たか」という充実感で一杯のはずなんですよ。相手の懐に入って、本音でいろんな話ができ、雑談ができる。おそらく、あの週刊文春の記事を読んで一番びっくりしたのはライバル他社でしょう。デスクに、「あれだけ、食い込まれてたのをお前は知らなかったのか」と言われた記者もいるんじゃないかな。

郷原:私は特捜部の検事だった頃、そういう記者たちの姿を見て、もの凄い違和感を覚えました。特捜部の検事になった途端に、記者の夜回り(取材)が来る。夜も来るし、朝も駅までついてくる記者がいる。帰ってきたら、雨がひどく降っているのに、物陰から出てくる。なぜここまでやるのかと。

長谷川:むしろ、雨が降る日や雪が降る日は狙い目なんです。俺はここまでやっている、という相手に対する演出になるから。

郷原:それで、私もたまに何を聞きたいかと話すんだけど、彼らは自分の考えが全然ない。「捜査でいつ何があるんですか」それだけ。彼らの生態というのはそうなんだと強く感じてきた中で、私が付き合ってきた中にも、ごく僅かですが、問題意識を持つセンスのある記者もいました。特捜部は事実関係よりも特定のストーリーに合う調書を取るかどうかの問題で、事実の解明なんて何にも考えていないのではないか、と疑問を抱く記者ですね。しかしそういう記者は司法記者クラブからは外れていき、検察と同じ価値観に浸っちゃう記者だけが残る。

 私はそうした司法とメディアの癒着があることが、特捜部が暴走する原因だと思っていました。どこかで正していかねばならないと思っていた。日産のカルロス・ゴーン元会長については、新聞が特捜部の描く「強欲な独裁者」像に沿った報道をしていたことを『「深層」カルロス・ゴーンとの対話』(小学館刊)で指摘しました。

長谷川:そういう問題意識を持っているのは、検察の世界では、郷原さんぐらいしかいないんじゃないですか。

郷原:私はもともと検察官になりたいと思っていたのではなく、たまたま入り込んでしまったから。

長谷川:大方の検察官はそんなことを思っていないでしょう。さらにすごいのが財務省ですね。財務省は新聞記者が財政について意見するなんてとんでもないし、できるわけがないと思っている。それをするのは俺たちの仕事だと。省議や局内で決めたことがすべてで、そこで決めたことを通知する相手が記者です。財務省には、幹部が記者や評論家など部外者に説明するための「標準的な説明の流れ」という30枚から40枚くらいの文書があって、どの記者がどんな議論を吹っかけても、相手はそこに書いてあることしか答えない。財務省はそこまで意思が統一されています。

郷原:特捜部の捜査というのは、ボート型フォーメーションなんです。ボート競技のボートです。(最後尾で舵を取りながら漕ぎ手に指示を出す)コックスがいて掛け声をかけ、そのコックスの掛け声で必死に漕いでるだけで、どっちに向かって進んでいるのかすら分からない。上から言われた通りのストーリー通りに調書を取る、それが特捜部の所属検事なんです。そういう軍隊組織の形は、メディアとも似てますよね。メディアも上に言われたものを取ってくるだけで、上に言われたことを考えずにやるということは検察と同じ。捜査も取材も、個人が創意工夫して頭を使うから真実に迫れるし、いろんなことが明らかになる。それなのに特捜部は、先にストーリーを上の人間が決めてしまうので、新たな発見はない。

長谷川:新聞記者の場合は、支局に入社したときからデスクに徹底的に、さっき話したような取材のイロハを叩き込まれる。そのうち、俺は考えちゃいけないんだ、と思うようになる。検察も同じなんですね。

郷原:そうしたビヘイビア(振る舞い)が、身について来るんですね。検事の場合、任官してしばらくは、小さな事件でも自分でやるので、自分で考えて、自分で決める。ところが、特捜部のような大きな事件をやるときは違う。そこには個人の考えというのはほとんど関係ない。そこに違和感を覚える人間はいるんですが、その価値観を受け入れることができる人間が長く特捜部にいて主任、副部長、部長に出世していく。

長谷川:私もそういう中で、やってきました。でも、新聞の場合は論説委員室というのがあって、論説委員がいる。これはちょっと違って、一応、社内では自分の意見を述べるという建前になっている。まあ、本当はそうはなっていないんだけれど、自分の考えであるらしきものを会議でプレゼンして、それが採用されれば、それを社の意見として社説に書く。私はたまたま46歳で論説委員になってしまって、そういう仕事をやり始めたわけですけれど、当時は、実は財務省お気に入りの記者で、財政審の委員になっていたりしたんで、さっき言った「対外説明」の紙ももらっていたんです。これさえ持っていれば財務省に取材する必要なんてない、全部書いてあるから。自分で言うのもなんですけど、私は「スーパー特A級のポチ記者」でした。

 ところが、ある時、後に財務次官になる幹部と議論したんです。そこで「財政再建のためにも、政府のサイズをもっと小さくしたらいいんじゃないか」と言ったら、彼はその「対外的説明の流れ」に沿ってお話しをされた。それを聞いて「ああ、この人は私と全く議論する気がないんだな」と分かりました。私はまがりなりにも論説委員だし、財政制度等審議会の委員だったんですけど、そんなのはまったく関係ない、というか、ポチにすぎない。その経験があって、これが私の永遠のテーマになるんですけど「メディアの自立」ということに考えが至ったんです。

 メディアは、いかにして霞が関など権力や政治から独立してモノを考えられるか、こうすべきじゃないかという議論ができるようになるか。でも、そういうふうに自分を位置付けて、政府や検察にモノを言ってくのは、大変なリスクがある。間違えるリスクがあるし、サラリーマンで論説委員やっていれば、給料もらえますし、周りからちやほやされます。でも、いずれ組織から離れたときに食っていけるか、という別の問題もある。たまたま私は、それなりにやってきましたが、私から見て、自分でモノを考えて、ポチにならずに議論している記者って何人いるか。ほとんど、見当たりませんね。

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