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「胸が大きいだけの萌えキャラ」がセクハラ認定された本当の理由

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日本赤十字社が漫画『宇崎ちゃんは遊びたい!』を起用した2019年のポスターは、一部から「セクハラ」と批判され、第2弾では図案が大きく変更された。東京大学教授の瀬地山角氏は「性的なものが必ずしも女性蔑視になるわけではないが、PRする対象と場所によってはセクハラにもなり得る」と指摘する――。

※本稿は、瀬地山角『炎上CMでよみとくジェンダー論』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

日本赤十字社医療センター=2020年3月21日 - 写真=アフロ

見かけなくなったキャンペーンガール

日本では水着のグラビアやヌード写真などが掲載された男性誌やスポーツ新聞を、駅の売店でふつうに購入することができます。ですがこれが許容されるのは、世界的に珍しいことだと考えるべきだと思います。アメリカなら怪しげな特別な店に行かないと手に入れることはできません。2020年に予定されていた東京オリンピック・パラリンピックを前に、大手コンビニチェーンは成人向け雑誌の販売を原則中止しましたが、今後こうした流れは広がっていくでしょう。

かつては化粧品メーカー、飲料メーカーなどさまざまな企業が、水着キャンペーンガールを自社の宣伝やPRに起用していました。大手繊維メーカーのキャンペーンガールは、モデルや女優の登竜門ともいわれ、毎年話題になってきました。しかしある時期から、キャンペーンガールという宣伝方法そのものをやめる企業や、水着の着用をことさらアピールしない企業も多くなっているようです。

水着の女性の写真やポスターは昔から性的な存在として流通していました。そして、社会に幅を利かせていたおじさん層のおかげで、ふつうにあるものとして許されていたわけです。しかし、水着の女性を取り上げる雑誌は読者とともに年をとり、新しい雑誌も生まれてこなくなりました。ネットという新たな場ができたわけですが、そこでは雑誌だったら起きなかった問題──「見たくない人は見なければいい」というルールが通用しなくなるという問題を抱えることになります。受け手もメディアも変わり、情報の均衡点が変わったわけです。

炎上した日本赤十字社の献血ポスター

日本赤十字社は若い世代へ献血を募るために、漫画『宇崎ちゃんは遊びたい!』とコラボをし、献血協力者に主人公の女性「宇崎ちゃん」をデザインしたクリアファイルを配布するというキャンペーンを展開します。

発端は2019年10月14日、アメリカ人男性が東京・新宿東口駅前の献血ルーム前に掲示されていたキャンペーンポスターを見て、ツイッターで問題提起。2日後、それを引用する形で太田啓子が「日本赤十字社が『宇崎ちゃんは遊びたい』×献血コラボキャンペーンということでこういうポスターを貼ってるようですが、本当に無神経だと思います。なんであえてこういうイラストなのか、もう麻痺してるんでしょうけど公共空間で環境型セクハラしてるようなものですよ」とツイートし、大きな炎上案件に。

"漫画『宇崎ちゃんは遊びたい!』とコラボした血液センターのポスター(提供:アニメイトホールディングス、©Take)

性的表現=女性蔑視なのか

まず、議論の出発点で確認しておきたいのは、性的であることが必ずしも女性蔑視であるとは限らないということです。自ら性的なメッセージを発したい、もしくはセックスワークに従事したいと考える女性もいて、それが自由な意思に基づいていれば、それ自体が否定されることではありません。個人が性的である、性的情報を発信する主体となる自由は守られるべきです。当然ですが、そこに強制がないことが前提です。

次に何をもって「わいせつである」「性的である」といえるのでしょうか。ここには刑法175条のわいせつ物頒布等の罪をめぐるポリティクスと、セクシュアルハラスメントの一類型である環境型セクハラが関係しています。

まずわいせつ物頒布等の罪における、「わいせつ」という概念について見てみましょう。これは時代によって大きく変わっていくものです。イギリスの小説『チャタレイ夫人の恋人』の日本語訳本がわいせつ文書かどうかで争われたのは1950年。マルキ・ド・サドの『悪徳の栄え』の裁判が起きたのは1959年。さほど大昔のことではなく、日本では戦後になってもつい数十年前までは、文字で書かれた性的表現でもわいせつとされ、認められないケースがあったのです。

ロリコン嗜好を犯罪視することはできない

しかし現在ではおそらく、文字作品を「わいせつ物」として立件するのは不可能でしょう。現時点では、映像で性器が映ったら「わいせつ」というルールになっているわけですが、これまた変わったルールです。性器を映さないためにモザイクという処理がされています。このモザイクはアジアには若干ありますが、欧米にはない特殊なルールです。これによってコンドームの装着がきちんと描かれないといった問題点もあり、性器が見えるかどうかに議論が集中することはおかしいと私は考えます。

児童ポルノについては、そこに子どもが映っていたら明確な犯罪です。被害者が存在するわけですから。しかしその意味で逆に、いわゆるロリコン漫画は犯罪にはできません。オタクとかロリコン層をわざわざ礼讃する必要はもちろんありませんが、性的嗜好自体を犯罪視することは、決してやってはならず、犯罪が起きた時点で処罰すべきことです。小児性愛という欲望自体を処罰の対象とするのではなく、実写でないものに留めている限り犯罪にすべきではないと私は考えます。行為に及んだときに犯罪とするということを守らないと、人のファンタジーまで犯罪にすることになるからです。

公共での性的表現はどの程度許される?

2002年に成人向け漫画がわいせつ物にあたるとして訴えられ、有罪となった「松文館裁判」がありますが、この場合は漫画が「写実的」であることが問題とされました。写真と同じ扱いにされたわけです。ただ写真ではない二次元のものを犯罪にするのはかなり難しいはずです。なぜなら、被写体となる被害者が存在せず、保護法益(その罰則によって守られるもの)が「公序良俗(公共の秩序善良の風俗)」しかないからです。保護法益が公序良俗しかないのなら、基本的には発行そのものを禁止するのではなく、ゾーニングによって見たくない人が見ずにすむように、棲み分けをはかるべきだと考えます。

棲み分けるとなると、発信を禁止しない代わりに、公共の空間での性的情報は、発信する自由よりも、不快だと思う人の感覚を優先すべきだということになります。したがってさまざまな人の目にとまる電車の中で、雑誌広告に水着の写真を使うのはやめるべきでしょう。

いいかえればこれは日本の公共空間における性の露出を、どの程度許すのかという問題になります。駅の売店で売っているスポーツ新聞や週刊誌の性表現は、そうした観点から見たときに、明らかに度が過ぎるといわざるをえません。働く女性が増え通勤の場での女性のプレゼンスが高まったことも踏まえ、公共空間のルールや均衡点を変えていく必要があります。おじさんたちばかりの空間だったから許されたものが、「環境型セクハラ」と呼ばれるようになるのです。

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