記事
  • WEDGE Infinity
  • 2020年07月27日 06:52 (配信日時 07月27日 05:50)

阿炎「夜の店会食」で異例の休場即決、錣山親方の〝苦しい英断〟 - 新田日明 (スポーツライター)

言語道断だ。大相撲7月場所(東京・両国国技館)で東前頭5枚目の阿炎が知人と会食に行ったことなどにより、7日目の25日から休場となった。翌8日目の26日には会食の場所が接待を伴う店だったことに加え、他の部屋の幕下力士とともに場所中だけでなく場所前の2回にわたって出入りしていた事実も明らかになった。

いわゆる「夜の店」へ、能天気に1度ならず2度までも足を運んでいたというのである。日本相撲協会によれば、阿炎に37度6分、幕下力士には37度台の発熱があり、抗原検査を25日と26日に2回受けた結果、両者はいずれも陰性だったという。それでも後日に発症するケースがあるだけにまだ100%の安心はできない。


(BrianAJackson/gettyimages)

それにしても師匠の錣山親方(元・寺尾)は真っ当で迅速な英断を下したと思う。聞けば7日目25日、のほほんと会場入りしようとした阿炎を両国国技館の駐車場で待ち構え、その場で追い返したそうだ。同親方はこの日の午後2時頃に阿炎が知人らと会食に出かけていたことを知り、急遽休場させることを決断。奇しくも当日はNHKの大相撲中継で向正面の解説席に座っており、放送中に愛弟子の不祥事について事情説明と謝罪の言葉を口にし、険しい表情を浮かべる場面もあった。

もちろん師匠としての管理責任を問う声もあるだろう。だが、それよりもここは決断力のほうを高く評価したい。ここまで錣山親方は阿炎が〝角界のお騒がせ力士〟と呼ばれながらも、その才能にほれ込み我慢を重ねつつ硬軟の使い分けで巧みに育成し続けてきた。その愛弟子の不祥事を知るや否や躊躇することなく休場させ、すぐさま協会側に報告したことは率直に正しい行動だったと言い切れる。売り出し中の部屋の看板力士に対してならば、どうにか不祥事を内々で処理しようとする下心が師匠の中に生じてしまうことも邪推してしまいたくなるが、そのような悪しき考えは錣山親方の中に微塵もなかったようだ。

阿炎は26歳。20117年の秋場所で十両優勝すると18年夏場所、名古屋場所と2場所連続の金星獲得によって幕内でも頭角を現していき、19年名古屋場所には新小結に昇進している。つい1か月ほど前には一般女性との婚約を発表したばかりで、公私ともに勢いに乗っていこうとしていた矢先にこのような失態を犯してしまった。

ただ、阿炎に対しては才能に期待する声が多くある一方で大相撲関係者や好角家からは「何せ天然ボケなところがあるから、いずれ何かをやらかしてしまうのではないか」という不安の目も向けられていた。去年の11月にはインスタグラムで手首や足首、口元にテープを巻かれ、身動きが取れなくなっていた十両力士の様子を阿炎が投稿。暴力行為を連想させるなどとしてSNS上で猛烈な批判が沸き起こり、大騒動となったことで協会側から厳重注意を受け、反省文を提出している。

さらに今年2月にはSNSに関する講義が含まれていたはずのコンプライアンス研修会に出席後、大勢の報道陣の前で「爆睡してた。寝てたし、何も聞いてねーし」と言い放ち、その発言が報じられて再び猛バッシングを浴びたのも記憶に新しい。

これだけのお騒がせを繰り返す〝親不孝もの〟に今回ばかりは錣山親方も、さすがに堪忍袋の緒を切らしてしまっただろう。それは自らが弟子の休場を即決した厳しい姿勢にも現れている。

ちなみに一部からは阿炎の休場に関して「酷い」などといった批判的な意見も上がっている。だが、協会側は新型コロナウイルスの感染リスクを考慮し、あらかじめ7月場所の開催において不要不急の外出をしないようにガイドラインで定めており、全力士や関係者に厳守を徹底させているはずだ。

ただでさえ相撲は対戦相手の飛沫や汗を浴びまくるコンタクトスポーツとして、他競技と比べて感染リスクの非常に高い戦いを強いられる。誰かが決められたルールを守らなければ、他の力士たちはさらなる危険にさらされる可能性が高まるのは明白であり、本場所の開催は極めて困難になってしまう。

ましてや大相撲では今年5月、西三段目82枚目の力士、勝武士(しょうぶし)さんが新型コロナウイルス性肺炎による多臓器不全のため尊い命を奪われてしまっている。このような悲劇を繰り返してはならないと誰もが感染に神経を尖らせるのは当たり前の成り行きだ。だからこそ専門家のアドバイスを基に作成したガイドラインに則って今場所は全力士たちが感染に最大限の注意を払いながら、これまでにない窮屈な思いと我慢も重ねつつ15日間の取組に集中している。

その中でどうしても「こんなガイドラインはおかしい」などとワガママを貫き通し、暴走したいのであれば協会に属する「力士」を名乗る資格はない。これらの観点から、錣山親方の阿炎に対する〝休場通告〟は妥当な措置だと考える。

仮に錣山親方が気付かなかったら、それこそもっと大変なことになっていただろう。もしガイドラインに従わなかった阿炎らが7日目以降も強行出場し、感染が広がるようなことになれば相撲界の存続を大きく揺るがすような事態につながってしまっていたかもしれない。たとえ誰も感染しなかったとしても、後々に週刊誌などで阿炎らの2度に渡る〝夜の店会食〟が発覚すれば、それでアウトだ。

パワハラ問題も

現時点でも協会には別件で逆風が吹きつけている。中川親方の暴力パワハラ問題だ。あれだけ相撲界全体が再三、暴力根絶へ一丸となっていたにもかかわらず同親方は中川部屋の弟子たちに暴力や暴言を日常的に繰り返していたことが発覚。協会側は今月13日の臨時理事会で同部屋を閉鎖し、中川親方に「委員」から「年寄」への2階級降格の懲戒処分を下したが、懲戒解雇や退職勧告の厳罰ではなくまさかの相撲界残留を容認したことで世間から「大甘処分」とぶっ叩かれている。

阿炎らのガイドライン破りは間違いなく、とんでもない不祥事だ。それでなくてもコロナショック、そして暴力パワハラ問題と立て続けでダブルパンチに見舞われている協会側は頭が痛い。しかしながら師匠の錣山親方が包み隠すことなく協会側へ迅速に報告したことで、相撲界全体にとってのイメージダウンはとりあえず最小限で済んだと言えるのではないだろうか。

今場所を全休する阿炎への処分は千秋楽終了後の理事会で議論される方針。厳しい審判が下されそうだが、個人的には阿炎らの聞き取り調査を今後も継続し「夜の店」へ行った理由についてさらに深く追求して情報を入手すべきと考える。どういう経緯になっていたかは現時点で分からないが、もしも〝タニマチ〟と言われるような関係者からの誘いがあったとするなら、その再発防止を図る意味で協会側は「声をかけた側」への何らかの処罰も一考してほしい。そうでなければ、この手の問題は今後も繰り返されそうな気がする。

あわせて読みたい

「大相撲」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    日本人はナゼ「貧乏になったこと」に気が付かないのか?

    内藤忍

    06月21日 14:24

  2. 2

    劇場不発?小池百合子知事も「中止」選択は取らず 東京五輪の次なる焦点は観客の有無

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    06月22日 09:58

  3. 3

    リモート営業で絶対に使ってはいけないフレーズとその理由

    シェアーズカフェ・オンライン

    06月22日 08:31

  4. 4

    「児童手当無し、高校無償化も対象外」高所得者への"子育て罰ゲーム"が少子化を加速

    PRESIDENT Online

    06月22日 09:33

  5. 5

    年上の高齢男性から告白されるということについて

    紙屋高雪

    06月21日 09:11

  6. 6

    フェイク情報に騙されない教育とは:高校生の98%がネットで真偽を見誤る/米研究結果より

    ビッグイシュー・オンライン

    06月22日 08:18

  7. 7

    リニア工事の遅れが必至となった静岡県知事選 利便性が県民に知られない残念さ

    赤池 まさあき

    06月22日 14:15

  8. 8

    フランス人記者が菅首相の五輪めぐる答弁に憤り「私は日本国民のことを気にしている」

    ABEMA TIMES

    06月22日 10:32

  9. 9

    小川彩佳アナと離婚へ ベンチャー夫の呆れた一言「今からなら、遊んでも…」

    文春オンライン

    06月21日 19:30

  10. 10

    共同通信『慰安婦謝罪像、東京で展示を検討』 とんでもないことで許せぬ

    和田政宗

    06月21日 08:22

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。