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ドキュメント「シリア難民からのSOS」の衝撃(2)「難民女性が“売春”や”人身売買”まで」

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 7月12日にNHKのBS1スペシャルで放送された「レバノンからのSOS~コロナ禍 追いつめられるシリア難民~」(再放送は18日)。

 こうした難民たちの苦況などの取材では日本一と言われる名手である金本麻理子さんの長期撮影が記録した様々な衝撃的な事実がつまったすばらしいドキュメンタリーだった。これまでテレビや新聞のニュースなどで国内では大きく報道されることがなかった事実を数多く伝えている。前回はその中でシリア難民が生活困窮の末に自分の「臓器」を売りに出している実態や難民の子どもが誘拐されて臓器を摘出された姿の遺体で見つかるという実態について紹介した。ヤフーニュース個人(7月24日)ドキュメント「シリア難民からのSOS」の衝撃(1)「難民の子が誘拐されて臓器を摘出されて死んでいた」

 引き続いて、さらなるショッキングな事実の数々を伝えていきたい。 

極貧の果てに「子ども」だけが働く実態!

 レバノンではシリア難民に対して複数の自治体が門限や移動制限を課しているが、これが差別的で難民がスケープゴートにされれいると国際人権NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は警告を発している。

 9人家族で働き頭だった兄が誘拐されて、臓器を摘出された姿の遺体で発見されたシェイマの一家を訪ねてみると、両親はコロナ禍でその後も仕事がなく、シェイマは食料品店から野菜の下ごしらえの仕事を請け負って、妹たちとニンニクの皮むきなどの作業を行っていた。

(シェイマ)

「偉いね。頑張ってむいているね。さあ、もう少し頑張って」

 妹たちに声をかけて励ましながら皮むき作業を続ける場面。姉らしくふるまうシェイマの健気な様子は見ていて胸が熱くなる。

生活のため売春のほかに選択肢がない女性たち

 5年前にシリアから3人の子どもたちとレバノンに逃れてきたジャミーラ(仮名)。

 シリアで商店を営んでいた夫は兵役に獲られたまま消息不明だ。子どもたちは食べものでチキンの煮込みが好物だと語るが、実際には「5か月間で2回しか食べられない」とこぼす。極端に貧しい生活を強いられているからだ。

 ジャミーラは子どもたちに掃除婦として働いていると説明しているが、実際には売春で生活費を稼いでいる。

 いろいろな男性と寝ているうちに妊娠して、誰の子か分からなくなってしまった。父親が分からない子を流産した時に子宮を傷つけ失っていた。

 番組ではジャミーラが洋服店に声をかけて仕事がないかを探す場面が出てくる。

 清掃、家事、店番などを探してもどこも雇ってくれない。その都度、返ってくるのは「ないね」とか「必要な時に電話する」という答え。

 彼女は3人の子どもを学校に通わせているが、公立の学校には受け入れてもらえず、ボランティアや国連が運営する学校に通わせている。学校の費用、家賃や光熱費で月に5万円は必要になってくる。食料はUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)から支給されたカードで月1万円ほどを買うことができる。

(ジャミーラ)

「これでは足りません。少しは助かりますが、借金なしでは厳しいです」

 子どもたちを送り出すと、ジャミーラは仕事の支度を始める。鏡に向かって濃いめの化粧を施こす。

 客はみなレバノン人。電話で予約する常連客が指定するホテルなどの場所に出向いて売春する。

 10日間に1、2度客をとって、1日得られるのは2~3000円。 

 難民の女性の中には人身売買の犠牲となって、拘束された中で性を売ることを強いられているシリア人の女性たちもいる。レバノンのコンテナで売春をさせられている女性が登場する。兄が2000ドルでシリアからここに売ったという。まだ22歳なのに殴られる日々で白髪が増えたと頭部を見せる。知り合いも金もなく、逃げることもできない。そんな絶望的な境遇にいる女性を金本さんのカメラは記録している。話す相手は犬と猫とだけ。「死人のように生きている」と話す。

こうしたケースが後を絶たないのに女性たちが助けを求めるケースはほとんどないからだという。人身売買された女性の救援活動をしているNGOも「家族が社会的非難を受けることを怖れることや売春した女性も犯罪者と見なされてしまう。それは難民が援助を受ける上で大きな障害になる」と支援の困難さを説明する。

 このドキュメンタリーのすぐれたところは、それぞれの当事者を登場させた後でレバノン国内のシリア難民の窮状に詳しい専門的な団体などに話を聞いて状況分析や解決策を模索しているところだ。つまり「報道(ジャーナリズム)の作品」として成立しているのだ。

 臓器売買、難民への差別や迫害、人身売買…。登場する一つひとつがこれまで難民をめぐるニュースであまり焦点が当たってこなかったテーマだ。テレビのニュース特集や新聞記事であればそれぞれ独立して報道すべき問題だろう。それをこの番組では数多いシーンの一つとして登場させいる。

シリア難民の現状をめぐって、これほど深刻な問題が様々な形で重なって存在することを見せつけるドキュメンタリーは珍しい。報道的な価値が大きいものだ。日本人ジャーナリストが国内メディア向けに制作したというよりも、国際的に見ても十分に通用する。これほど深刻な現実を難民の生活に迫って伝えるドキュメンタリーは滅多にない。

 さらにこうした問題ごとに生きている当事者一人ひとりを時間をかけて、たびたび訪問して映像で記録し、NGOなどの支援の手が及ばない現実も伝えることができている。特に子どもたちや女性たちへの共感的な「まなざし」を向けているが、他方で冷静な取材姿勢を崩さない。

 新型コロナウイルスの感染が拡大する中で、わが子に隠して売春までして生活費を稼いでいたジャミーラが援助を求めようと支援団体に電話しても、コロナウイルスのせいで事務所がすべて閉まっていて録音された音声メッセージが流れるだけだった。

 新型コロナウイルスの流行でジャミーラの客も減って、彼女はいつもはしなかった路上での「客取り」を行って、見知らぬ男の車に乗ったところ客の暴力による脅しを体験する。その後に精神的な打撃で部屋で起きあがることも出来ずに彼女が寝込んでいる様子までカメラは撮影している。母親が寝込んでいる間に子ども同士で起きていたけんかの様子まで記録している。

シリア難民同士の「近所づきあい」まで記録!

 ジャミーラが相談相手として頼っているシリア難民の女性がいた。マラク(仮名)だ。難民キャンプなどのシリア人女性の相談相手になり、ジャミーラも売春の事実を打ち明けていた。シリア内戦で夫を爆撃で亡くし、4人の子どもとレバノンに逃れてきた。裁縫が得意で近隣のレバノン人から仕立ての注文をとって生計を営んでいる。

 マラクの元を頻繁に訪れる少女ハナーン(仮名・17)。病気を抱える母親と3つ上の兄と弟妹4人の家計のために売春をしているが、稼ぎがなく、同居する兄はハナーンが渡すお金がない時にはナイフで切りつけてくる。彼女の腕は兄につけられた傷だらけだ。カメラはハナーンの家族の様子まで撮影している。夜になって酔って帰宅した兄がハナーンに金を求める場面。「ない」と言うとハナーンや弟妹を殴る場面。食器を壊す場面。様々な家庭内の暴力の場面が赤裸々に記録されている。怯えるハナーンら家族の表情。

 ハナーンによれば、シリアにいた頃の兄は優しかったという。兄はレバノンに来てから、ある日、公安に拘束されたことをきっかけに人が変わってしまったという。滞在許可証を持っていなかったため、今度見つけたらシリアに送還すると脅された。公安への恐怖から物乞いをして買った酒で酔っては家族に暴力をふるっていたのだ。

 レバノン政府はシリア難民に滞在許可証の取得を求めている。しかし、その費用を払うことができず8割近い人たちが滞在許可証を持たないまま避難生活を続けているというデータがある。

相談相手マラクの仲介で暴力的な兄との「対決」

 兄の暴力がひどくなったことでハナーンはマラクの家に寝泊まりするようになる。

 だが、マラクはハナーンに対して、兄から逃げずに自分の思いを伝えるように勧める。

 マラクの家に兄を呼び出してハナーンとマラクは兄に語り続ける。その間もタバコを吸い続ける兄。

 その兄にマラクとハナーンが語りかける。

(マラク)

「誰がタバコ代を稼いでいるの?」

「あなたの姉弟が3日間食べていないことあるのを知っている?」

(ハナーン)

「以前のお兄ちゃんに戻ってほしい。私たちを心配して愛してくれた」

 今度殴ったら警察に通報するとマラクに言われて、兄は「たたかないようにする」とだけ言って会話を終えた。

 宙を見つめるようなハナーンの目。絶望の中にいる人の目の表情だ。国連機関の調査でもシリア難民の女性への暴力が増加している実態があるとナレーションで伝えた。

 精神科医は「男性は精神的な治療を受けることを恥と感じがちだが、実は難民男性の多くが精神的な問題を抱えている」と見解を紹介している。男性のうつ病など精神的な問題が家庭内暴力などにつながって家族へのストレスとなる「ストレスの連鎖」があるのだと言う。

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