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コロナ後:観光公害のない観光政策へ(中)

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岐阜県の世界遺産の白川郷を大型バスで訪れる観光客の平均滞在時間は約40分だそうです。そんな短時間ではお金をあまり使いません。1人平均で数百円の消費しかしません。行政が大型駐車場や道路を整備しても、お金は地元に落ちません。大型バスの団体旅行という「クオンティティ・ツーリズム(量の観光)」では、地域はさほど活性化しません。

もう1つの「クオンティティ・ツーリズム(量の観光)」の典型はクルーズ船です。コロナ集団感染が起きた「ダイヤモンド・プリンセス」もクルーズ船でしたが、「三密」の典型のクルーズ船観光はしばらく回復しないでしょう。

そもそもコロナ危機の以前からクルーズ船観光には問題がありました。第1にクルーズ船観光は5000人、6000人といった大集団が一度に観光地に押し寄せます。一気にオーバーキャパシティ状態になり、観光地が混雑し、観光公害の原因になります。

第2にクルーズ船観光では、あまり地域にお金が落ちません。クルーズ船は、宿泊も食事も、エンターテインメントもショッピングも、船の中で自己完結します。上陸して観光するにしても、クルーズ船の運営会社の決めたお店や飲食店に乗客を誘導し、運営会社にお金が入るようになっています。

観光客が地元に落とすお金の最たるものが宿泊料です。クルーズ船だと船内に宿泊するので、ホテルや旅館にはお金が落ちません。ホテルや旅館に観光客が止まれば、スタッフの雇用につながります。朝食や夕食をホテルや旅館で食べれば、地域の食材も消費します。ホテル周辺の飲み屋さんに行くこともあるでしょう。そういう経済的な波及効果があまりないのが、クルーズ船観光です。

米国人ジャーナリストの調査によると、カリブ海のクルーズ船観光では、観光客が寄港地に落とすお金は1日あたり44ドルだそうです。わずか44ドルです。しかもクルーズ船ではその土地に通常は1日しか滞在しません。他方、一般の旅行者は、数日間滞在し、合計で653ドルを現地で消費するそうです。クルーズ船の観光客10人分以上の金額を1人の旅行者が落としてくれます。ほとんどお金を落とさないクルーズ船観光客も、一般の旅行者も、観光地の混雑を生み出す効果や自然環境への負荷は同じです。

イタリアのヴェネツィア市ではクルーズ船観光による観光公害が問題になりました。ヴェネツィア市当局が計算したところ、水道や光熱インフラをはじめ市がクルーズ船に提供する公共サービスのコストの方が、クルーズ船の寄港から得られるお金を上回っていたそうです。それ以後、ヴェネツィア市はクルーズ船の就航を厳しく制限しています。クルーズ船観光を推進してきた福岡市の収支計算はどうなんでしょうか?

*長くなったので、次回(下)に続く。

*参考文献:アレックス・カー、清野由美、2019年「観光亡国論」中公新書ラクレ

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