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「初見でホームランを打っちゃった」藤井聡太、戴冠への道中で何が起きたのか 将棋記者が目撃した、天才・藤井聡太の進化 #1 - 岡部 敬史

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 藤井聡太七段が、渡辺明棋聖とのヒューリック杯棋聖戦五番勝負を制して、17歳11カ月で史上最年少でのタイトル獲得者となった。

 そんな彼については、連日「すごい」と賞賛する報道がなされているが、具体的に何がすごいのか――。よく言及される「終盤力」や「AIを用いた研究」というのは、彼の「すごさ」の一要素ではあるだろう。しかし、それがすべてではないことは、多くのファンが感じていることだろう。


史上最年少でのタイトル奪取を果たした藤井聡太棋聖 代表撮影

 本稿では、この「藤井聡太のすごさ」を改めて考えてみようと、彼の将棋をデビュー当時から見てきた記者が集まり、その「すごさ」を具体的に語ってもらった。記者が感じる藤井聡太の凄みは、果たしてどのようなものなのだろうか――。さっそく本論に入りたいところだが、その前に、編集部から提案されたひとつのルールについて触れておきたい。

「藤井聡太棋聖の快挙を報じる記事が増えるなか、私たち表現する側も試されているのではと感じています。食レポであれば『おいしい』ということばは使わずに味を表現するのが作法です。藤井棋聖は、デビュー以来数々の記録を打ち立てるたびに『すごい』と言われてきましたが、ことばの重みが薄れてきてしまっているのではないかと。そこで今回は、『すごい』という表現を使わないというルールを設けたいと思います」

 突然の提案に「えー!」と不満気な声も上がったが、こういったルール設定で鼎談は始まった。原稿内に時折出てくる、やや不自然な「めっちゃ」や「グレート」といったことばは、こういった縛りゆえとご理解いただきたい。

後編を読む)

小学校6年生のとき、とんでもないスピードで初優勝

まずは、各記者に藤井聡太という名前を知ったときと、デビュー当時の印象を語ってもらった。最初に話してくれた小島記者は、その当時は、今の力はつかみきれていなかったという。

小島渉 私は、詰将棋解答選手権の速報スタッフをしていたので、藤井さんの名前を知ったのはそのときでしょうか。彼が小学生のときだと思います。

君島俊介 私は詰将棋解答選手権に回答者として5回出場しました。詰将棋解答選手権のいいところは、同じ会場でプロ棋士も同じ問題を解いている空気を感じられる点ですね。たとえば、自分がまだ2問目を解いているときに、宮田敦史七段(第10回大会など過去6回優勝)が席を立ったりして、本当にすごいなって思える。藤井さんは小学校6年生のときに初優勝するんですが、宮田さんよりも早く解き終えた。藤井さんは別会場ではありましたが、とんでもないスピードなので、彼が小学生のときから、詰将棋の能力は実感として知っていました。

相崎修司 私も以前から名前は知っていましたが、初めて間近で見たのは、彼が四段になったその日です。マスコミがたくさん押し寄せた三段リーグ最終日。記者会見後、新四段を囲む関係者の打ち上げがあるんですが、そこにお邪魔して、大橋さんと一緒に飲み食いしているところを見ました。

報道陣が対局者をグルっと取り囲み

――一緒に四段に上がったのが、大橋貴洸六段でした。藤井さんは、まだ中学生でしたが、一人で参加を?

相崎 お父さんも一緒に来られていましたね。もちろん彼は未成年ですからジュースを飲んでいました。

――では、初めて藤井将棋を仕事で取材したのはいつでしたか。

小島 私が初めて藤井さんの棋譜中継を行なったのは、竜王戦6組決勝の近藤誠也戦でした。

相崎 私も藤井さんの将棋を初めて間近で見たのは小島記者と同じ竜王戦の近藤戦でした。この時を含め、それから合計5回、藤井さんの将棋を新聞観戦記で書く機会がありました。

――この対局は2017年の5月25日のことですね。デビューから続いていた連勝記録が19を数えたときですが、やはり注目度は高かったですか?

小島 報道陣が対局者をグルっと取り囲み、すごかったですよ。この日の将棋は、藤井さんがペースをつかんでから押し切って勝ちました。ただ、当然のことながら、研究勝負や作戦の相性が大きくて勝つというケースもあるわけです。ですからこの対局だけで、藤井さんの力は、よくわかりませんでした。中終盤でねじりあいになったときにどうなるか――。このあたりは、まだまだ未知数でしたね。

ちゃんと力が溜まっている状態で反撃に転じる

君島 私は、加藤一二三九段とのデビュー戦(2016年12月)の棋譜中継を担当したのが、最初ですね。そのとき感じたのは、受けがしっかりしているということでした。

――加藤先生の攻めをしっかり受け止めたと。

君島 そうですね。その印象は今でもあまり変わらず、藤井さんはよく「終盤の切れ味」とか「寄せ」と言われますが、受けに強みを発揮する方なのかなと思っています。そして、反撃に転じるタイミングを慌てない。ちゃんと力が溜まっている状態で反撃に転じて、勝ち切る――。そういうところはデビュー当時からあるのかなと感じています。

相崎 詰将棋を解く能力は藤井さんほどではないにしても、トップ棋士ならば、似たようなレベルの終盤力を持っていると思うんですよね。実際、藤井さんといえども終盤で常に最善手を指し続けているわけではない。自分が観戦した将棋で例を挙げると、昨年の竜王戦における対豊島戦がそうだと思います。混沌とした終盤で、最後に間違えたのが藤井さんという一局でした。

――つまり、終盤が藤井聡太棋聖の強みともいえないと。

相崎 ただ、終盤で間違える率はトップクラスの中でも極めて低い。かつ、中盤力もあるから、相手からするとやりようがない印象です。最近は、中盤において、リードしている場合はその差の広げ方が、また逆の場合は差の詰め方が、より向上しているかなと思います。おそらく藤井さんに序盤で作戦負けしてから巻き返して勝った人ってほとんどいないと思うんですよ。

「空白期間」によって実力が大幅に上がった

ちなみに相崎さんが直近で、藤井聡太棋聖の対局を観戦したのは、2020年2月18日に行われた王位リーグでの羽生善治九段との将棋。「イメージですが、羽生九段が普段以上に中盤を悲観的に見ていたような」という印象が残っているという。その後の緊急事態宣言により2カ月ほど対局はなかった時期が生じたが、その間に、実力が一段階、二段階上がったのではないかと指摘する。

君島 実は、似たような「空白期間」によって藤井さんの実力が大幅に上がったことは過去にもありました。藤井さんが三段に上がったときは、2015年後半の三段リーグが始まった直後で、次のリーグが始まるまで5カ月くらい奨励会での対局がなかったんですよ。そのときに師匠の杉本さん(昌隆八段)が、いろんな棋士と指す機会を設けたりして、結果的に三段リーグを一期抜けした。

――その期間が、藤井棋聖にとってよかったと。

君島 三段リーグを指す前のころは、突出して強いわけではなかったという話も聞きます。ですから三段リーグのときに強くなったのは、その前の指せない時期があったからなのかなと。こじつけかもしれませんが、少し今の状況と重なって見えますね。

顔がこわばっているように見えました

ーー君島さんは、藤井聡太棋聖にとって初めてのタイトル戦となったヒューリック杯棋聖戦の第1局で観戦記者を務めたそうですね。そのときはどのような印象でしたか。

君島 序盤は定跡形でしたが、戦いになってからは、藤井さんの間合いの取り方が普通じゃないなと感じました。それと終盤の踏み込み方が、あまり検討されていない手順で印象的でしたね。あと、緊張は感じました。

――藤井さんの緊張を?

君島 終盤の王手が続いていたときですね。ミスが許されない場面でした。本人的には詰まないと思っていたはずですが、顔がこわばっているように見えました。今までもそういったことはあったかもしれませんが、間近で見ていたのでそう感じましたね。

観戦記者ならではのことばである。

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