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藤井聡太棋聖には「羽生世代」に相当するライバルは存在するのか 将棋記者が目撃した、天才・藤井聡太の進化 #2 - 岡部 敬史

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「初見でホームランを打っちゃった」藤井聡太、戴冠への道中で何が起きたのか から続く

 観戦記者・中継記者が感じる「藤井聡太のすごさ」。後編となる本稿では、初タイトルを手にした藤井聡太棋聖は今後どうなるのか、相崎修司、君島俊介、小島渉の記者三氏に現在地に対する感想とともに聞いていこう。

(前編を読む)

「いつの間にか」というのが怖い

――いよいよ史上最年少のタイトルホルダー、藤井聡太棋聖が誕生しました。歴史的な一局となったヒューリック杯棋聖戦第4局は、どうご覧になりましたか。

君島俊介 第4局では、渡辺明棋聖が第2局で敗れた作戦を改良してきました。かなり複雑な応酬が続き、渡辺棋聖も十分戦える展開だったはずですが、いつの間にか藤井七段が有利になっていました。「いつの間にか」というのが怖いです。投了の局面を見ると藤井七段が渡辺棋聖の玉を左右から挟み撃ちにして、教科書通りの攻めなのですが、その過程はかなりマネしにくいものだと感じます。

相崎修司 あの将棋を勝つのは、やはり「持っている」のかなと感じましたね。

小島渉 渡辺棋聖に狙い撃ちされても、藤井七段が盤面全体で揺さぶり、複雑な終盤を勝ち切ったのがアンビリバボーですね。渡辺明ブログの「負け方がどれも想像を超えてるので、もうなんなんだろうね、という感じです」に驚くと同時に、当日中にヒューリック杯棋聖戦を赤裸々に振り返ったことにトップ棋士としての責任を感じました。

久々に勝負術を見ました

――王位戦七番勝負でも2連勝と勢いに乗っています。

君島 木村一基王位の巧みな指し回しに藤井七段は苦戦に陥りましたが、中盤以降に勝負手を何回も繰り出しました。それによって、局面を複雑にし、相手にプレッシャーを与え、わずかなスキを突いて逆転に成功したと思います。リスクを負ってでも逆転を狙う、勝負師の面や勝負術が出た一戦だと感じました。

小島 藤井将棋は中盤から押し切ることが多いので、王位戦第2局で久々に勝負術を見ました。木村王位は出だし2連敗ですが、昨年の王位戦もそうでした。そこから踏ん張ってフルセットのすえに初タイトルをもぎ取ったので、引き続き七番勝負に注目しています

相崎 私は王位戦七番勝負では間近で観戦できる機会に恵まれたので、どのような将棋が見られるか、いま楽しみです。

――藤井聡太棋聖の「現在地」については、どのような感想をお持ちですか。

小島 あの29連勝したときも、これほど早くタイトル戦の舞台に登場してくるとは、思っていませんでした。だって、いくら連勝してもトップを何人も倒さないとタイトル戦に出られないですからね。やっぱりトップに勝ち続けるのって、めっちゃ大変ですから。

――その壁はもっと厚いと。

小島 みなさん苦労されていますから。16歳でプロ入りして20歳のときにタイトル初挑戦を果たした豊島将之竜王・名人も、初めてタイトルを獲得したのは2018年、28歳になってからです。

今度は経験豊富な天才棋士が追う側になる

――これから2、3年先には、どうなるとお考えですか。

小島 天才が天才を怒らせたら怖いから、上の世代がもっと巻き返すんじゃないかという気がしています。谷川浩司九段も、羽生善治九段に七冠独占を許して、一時、無冠になりましたよね。でも、そのあとに、竜王、名人とタイトルを取り戻していった。羽生世代が刺激になって、またトップに返り咲いていったわけですから。

 今、タイトルを持っている人は、追われる側じゃないですか。仮に、藤井さんが複数タイトルを取ると、立場が逆転します。今度は経験豊富な天才棋士が追う側になって、挑戦者として思いっきりぶつかってくる。それを跳ね返すのはいくら藤井さんでも大変だと思うんですよ。だから、上の世代の復権があるんじゃないかと私は感じています。

相崎 私は、今の藤井さんの現在地は、「あり得る可能性のひとつ」ではあったと思います。棋士になって初参加の朝日杯将棋オープン戦を勝つような力を持っていましたからね。仮にそこから半年後にタイトルを取っても、それほど驚きではない。彼がデビュー直後に「すぐに全棋士参加棋戦で優勝する」と言っても、誰も信用しなかったと思いますが……。

――今後はどうなっていくと思いますか。

相崎 今の状況というのは、タイトル戦にしては将棋に集中できていると思います。新型コロナの影響で、前夜祭での挨拶など、タイトル戦に不慣れな挑戦者にとってはプレッシャーになるような状況がないことも、藤井さんにプラスに働いているはず。そうでも思わなきゃやってられない部分もあるんじゃないかなと(笑)。ですから、本当の意味でハードスケジュールになったとき、藤井さんが今のような強さを発揮できるかどうかということが一つのキーなのかなと。渡辺明さんも7年前に三冠を取った時は本当に忙しくなり、「研究不足がその後に生じた不調の一因となった」といっていますから。

「10代でプロ棋戦を指せるのはすごく羨ましい」

ただ、相崎さんは、強い人と指しているこの環境が、藤井聡太を強くしているのではとも分析する。

相崎 藤井さんが四段に上がったとき、奨励会幹事だった近藤正和六段が「10代でプロ棋戦を指せるのはすごく羨ましい」とおっしゃっていたのが印象的でした。つまり、棋士は、強い人と指すことで強くなるわけです。ABEMAさんが、藤井さんのデビュー直後に企画した「藤井聡太四段炎の七番勝負」(増田康宏四段、永瀬拓矢六段、斎藤慎太郎六段、中村太地六段、深浦康市九段、佐藤康光九段、羽生善治三冠と対局して、永瀬六段に敗れたのみの6勝1敗という成績を残す。段位は当時)がありましたが、あのように強い相手と指して強くなった。

 緊急事態宣言後に、強い相手とばかり対局していますが、それによってますます強くなっているのではないかとも感じます。だから、タイトル戦のような大舞台で、強い人と指すことで、これまで以上に強くなることも考えられますよね。

君島 藤井さんがタイトル戦に出てくるのに時間がかかったとみる向きもあると思いますが、羽生さんが初めて竜王のタイトルを取ったのは、棋士になって4年後のことです。藤井さんは、棋士になって4年経ってないですが、3年半くらいですよね。羽生さんと比べても遅いとは思いません。本田奎さん(五段)が、デビューしてすぐに棋王戦でタイトル挑戦したことが大変な快挙というわけです。

現役の最年少棋士を4年くらいやっている

――2、3年後には、どうなっているでしょうか。

君島 歴史的に見ると、一回抜かれると、抜き返すのは大変。だから先輩方が、抜かれないように踏ん張っている今のせめぎ合いが面白いのかなと思っています。2、3年後とか、もうちょっと先の話でいえば、藤井さんと同世代の棋士が、どれくらい出てきて、どれくらい活躍するのかにはとても興味があります。

――ライバルのような存在ですか。

君島 羽生さんには、「羽生世代」と呼ばれる棋士が同世代にいて、羽生、佐藤康光(九段)、郷田真隆(九段)、森内俊之(九段)、村山聖(九段)といった人たちと切磋琢磨して、世に出ていった。しかし、今の藤井さんにはそういった存在がいない。藤井さんって、四段に昇段してから現役の最年少棋士を4年くらいやっているわけです。藤井さんの次に若い棋士は、ずっと4歳上の斎藤明日斗さん(四段)で、今年ようやく3歳上の服部慎一郎さん(四段)が加わりましたが、どちらも20代。10代の棋士は藤井さんだけで、同世代の人って、まだ出ていないんですよ。

――それは何か要因があるのでしょうか。

君島 よく棋士よりも強くなった将棋ソフトを活用していることが藤井さんの強さと言われますが、それならば同世代やもっと下の世代からも、プロ棋士が出てこないとおかしい。ソフトを使うというメソッドがあるならば、もっと下の世代が出てきてもいいはずです。でも藤井さんは最年少棋士を4年間もやっている。それはどういうことかといえば、やはりソフトがあるからといって、簡単に棋士になれるということではないということに尽きるんでしょうね。

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