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「コロナ感染は自業自得」世界で最も他人に冷たい日本人の異様さ

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体調管理でも露見する「体育会系の思考」

逆にドイツの学校では、授業中に具合が悪くなる生徒がいても、本人の責任を問うような発言は先生からも生徒からもありませんでした。冬休みにスキーやスノボに出かけ骨折をし、休み明けに学校を休んだり、ギプスをして学校に現れたりしても、「自己責任」の雰囲気は全くなく、同級生は「ギプスにサインをさせて」と大喜びでした(ドイツにはギプスにサインをして、回復を願う習慣があります)。

「自己責任」が問われないのは学校に限った話ではなく、メルケル首相が数年前のクリスマス休暇中にクロスカントリーで転倒し骨折をした際は、その後3週間公務を控え、外国訪問や外国の首相との会談が延期になりましたが、ドイツでメルケル首相を非難する声は皆無でした。

日本では、「風邪は万病の元」という言い回しがある一方で、風邪というものが軽く見られている気がします。ドイツでは風邪をひいた人は「今病気なんです」という言い方をするので、筆者も日本に来たばかりの頃は風邪をひいた時に「病気です」と言ったら、「風邪は病気ではない」「そんな大げさな」と叱られてしまいました。

その言葉からは、「風邪ぐらいたいしたことないのだから、同情を買おうとするな」「そんなのは精神力で乗り越えろ」というような体育会系的な思考が読み取れるのでした。

ドイツの集団感染で「責任」を押し付けられたマイノリティー

そうはいっても、ドイツでコロナに感染した人に責任を負わせようとする動きが全くないわけではありません。ドイツのノルトライン・ウェストファーレン州にあるTönnies社の食肉工場では6月に従業員1500人以上が新型コロナウイルスに感染していることが確認されました。

集団感染が発覚した後、同社の担当者が記者会見中に「工場で働くルーマニア人やブルガリア人が週末を利用して母国に帰り、その後すぐに仕事に復帰した」と話しましたが、この発言がドイツ非難を浴びました。それというのも、同社が東ヨーロッパからの労働者を劣悪な環境で働かせていたことは既に世間に知られていました。

外国人労働者とTönnies社の間には下請け企業がいくつも入っており、彼らの多くは請負契約でした。同社からあてがわれた部屋は日本で言う「タコ部屋」状態で、何人もの外国人が狭い部屋で寝泊まりを強いられていました。

経費削減の名のもとにそういった人権を無視した働かせ方をしていたのは会社の責任であるのに、担当者は記者会見で積極的にそのことに触れようとはせず、聞き手に外国人労働者が週末に家族に会いに行ったことに非があるかのような印象を与えました。

政治家もマイノリティーを「フル活用」している

そもそもルーマニアやブルガリアを含む東ヨーロッパではコロナウイルスの感染者の数は多くありません。同社で働く外国人はドイツ国内で感染したかもしれないのに、彼らの母国の名前を名指ししたことが差別的だと現地のメディアで問題視されました。

ドイツ人が大量に消費する肉のために、安い賃金で働かされている外国人労働者がいざとなれば今回のように罪をなすりつけられることについて同情をする声もあるものの、「コロナ集団感染は外国人労働者のせいだ」と考える人もおり、ドイツにもとからあった人種差別が露見した形となりました。

ドイツの一部の政治家の振る舞いも世間の外国人差別に拍車をかけています。コロナ対策が緩いことで知られていたノルトライン・ウェストファーレン州のArmin Laschet首相は記者会見の場で食肉工場の集団感染について問い詰められると、「感染は、私が州の規制を緩めたことが原因ではない」と語り、食肉工場の劣悪な労働条件に触れながらも「ルーマニア人とブルガリア人がドイツに入国したことによりウイルスが入ってきた」という言い方をしました。政治家としての自分の責任を追及されないために、東ヨーロッパの労働者の国を名指しし、世間に「外国人が悪い」という印象を与えてしまいました。

悪いのは本当に「夜の街」の人たちなのか

感染の拡大をいわば社会のマイノリティーのせいにしようとした前述のドイツの州首相ですが、どこかで聞いたことのある言い方だな、と思っていたら、それは会見で「夜の街の方々」を繰り返していた小池百合子都知事でした。

東京都知事も州首相も「マイノリティーに責任がある」とはっきり言ったわけではありません。けれども、繰り返し「国名」について発言をしたり、頻繁に「夜の街」という言葉を使うことで、世間に「責任は彼らにあるのだな」と印象づけることができました。政治家が自らの責任から逃げる手法としては実に有効です。

そうでなくても「自己責任論」が強い日本の場合、マジョリティー側にいる人間は「自分たちとは違う行動をするから、彼らは感染した」と考える傾向があり、前述のような政治家の発言は日本の「自己責任」の風潮にますます拍車をかけています。

自分が元気なうちは、コロナに感染した人を「自己責任」と切り捨てることを当たり前だと思ってしまいがちです。しかし、いつ自分が感染するかもわかりません。他人に厳しくしていると、まわりまわって自分の首を絞めることになるので、「自己責任」という言葉の使用もほどほどにしておきたいものです。

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サンドラ・ヘフェリン 著述家・コラムニスト
ドイツ・ミュンヘン出身。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「ハーフ」にまつわる問題に興味を持ち、「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。ホームページ「ハーフを考えよう!」 著書に『ハーフが美人なんて妄想ですから‼』(中公新書ラクレ)、『体育会系 日本を蝕む病』(光文社新書)など。
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