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「次代を担うIT起業家」4人の肖像[2]リブセンス社長・村上太一―速水健朗(ライター)

すり込まれた起業家のDNA/村上太一(リブセンス社長)≫

「なんでも自社でやる」姿勢

リブセンスは、従来の求人広告分野に成果報酬型広告を持ち込むという、ユニークなアイデアで成功したネットメディア企業である。

成果報酬型広告とは、企業が広告掲載時に料金を支払うのではなく、実際に求人応募があり、採用が成立した際に課金が発生するというもの。そして、採用された人(応募者)にも「採用祝い金」が支払われるという仕組みも人気になっている。

リブセンスは、営業中心で求人広告を集め事業を拡大するという、従来の広告会社、メディア企業のイメージとはかけ離れた経営を行なっている。代表の村上太一(25歳)の経営手法とは、営業の人海戦術とはもっとも遠い、技術主導というスタイルである。

「ウェブの広告求人は大手が強いという業界だったので、企業に営業をかけるというよりも、とにかくユーザーを先に集めるということをやりました。それも、人が来る仕組みをつくるというかたちでですね」

村上が会社を立ち上げたのは大学時代。資本金300万円で始まったこの会社は、村上が自己資金200万円を出し、残りの100万円をほかの立ち上げメンバー二人が半分ずつ出した。初めは給料もなし。学内のオフィスで四六時中働く。まさに、小さな小さな学生ベンチャーとして始まったのだ。

そのリブセンスが軌道に乗りはじめたのは、サービス開始から1年後のこと。地道に人を集める仕組みに手をかけてきたのが功を奏したのだ。

「当社の場合、なんでも自社でやるというのが強みなんです。サービスを立ち上げる場合に、システム、デザイン、運用、SEO(検索エンジン最適化)などいろいろな過程があるので、その一部をアウトソーシングするのが普通なんですけど、当社は全部やるんです。そうすることで、ノウハウを蓄積できるんです」

ビジネスのコアになっている部分は、「成果報酬型広告」というアイデアなのだが、「成果報酬」モデルは、特許などによって独占できる類いのものではない。したがって、すでに他社に真似されてしまっているのだ。

「成果報酬だけではすぐに真似されてしまうので、ほかのことで勝たなくてはいけなかったんです。強みといえるのは、開発なんです。初めは、お金がないから構築からSEOまでを自社で行なっていたんですけど、いま思えばその蓄積がよかったんですね」

リブセンスは、「成果報酬型」を他分野に水平展開させることに成功したが、その場合、少しでも参入して成功する可能性がある分野にとにかく足を突っ込むのではなく、まったくその反対だ。

「リサーチをして、業界環境や成長余地など状況、条件を慎重に見極めてから、『ゴー』かどうかを判別しますね。いままで参入した市場で、失敗して撤退した事業はありません」

社会を便利にする仕組みをつくる


リブセンスは、「成果報酬」という基盤となるアイデアを応用しながら、不動産賃貸、中古車販売など、ほかの商品分野に水平展開させ、それぞれの市場でシェアを拡大しつつある。最近は、口コミ情報を利用したサービスなどにも手を広げている。とはいえ、リブセンスが注目を集めている理由の一つに、代表である村上の25歳という年齢がある。

ウィンドウズ95の発売時も、ITバブルのころも、まだ小学生だった世代。とはいえ、村上が最初に起業を思い描いたのは、小学生時代だったという。

「純粋に人に影響を与えるようなことがやりたい、と漠然と考えていたんです。そのときに、ミュージシャンにも憧れたんですが、ミュージシャンはなりたいからなれるってものじゃなさそうだな、じゃあ会社をつくろうかなって思ったんです。父方、母方、両祖父が経営者をやっていて、とくに父方の祖父は、高卒で成り上がった経歴の人。もし身近にミュージシャンが多かったら、そっちを選んでいたんでしょうけど」

高校時代は、起業に役立ちそうな簿記やシステムアドミニストレーターの資格取得や、メンバー集めなど、具体的に起業準備をスタートした。

その成果は大学に入ってすぐに表われた。大学1年生のときに、早稲田大学の「ベンチャー起業家養成基礎講座」が実施したビジネスプランコンテストで優勝した。村上は、その優勝したビジネスモデルを事業化するために、集めたメンバーとともにリブセンスを立ち上げた。設立年月日は、ライブドアショック直後の2006年2月である。しかし、この事件が彼に与えた影響は皆無だった。

「まったく関係なかったですね。そもそも、堀江さんにしても、スティーブ・ジョブズにしても、私は人に憧れることってないんです。成功した経営者の自伝はよく読みますよ。ビジネスを立ち上げて、どういうふうに展開していったのかを知ることには、すごい興味があるのですが、特定の人に憧れると、その人以上にはなれない気がして……」

村上の起業の意識は、ドラマチックでヒロイックなものというわけではない。しかし、大学時代にすでに道は決まっていた。同学年の仲間たちが、大学3年の秋を迎え、そろそろ就職活動を始めるという時期に、村上の親が彼に「就職しろ」などということはなかったという。その時期すでに、村上の会社は1億5000万円の経常利益を挙げていたのだ。

早くから会社経営のための準備を念入りに行ない、憧れというよりも、ごく当たり前に、すんなりと起業した村上だが、彼が会社経営によって辿り着きたいと考えているその先とは何なのだろう。

「社会にインパクトを与える事業をやりたい、世の中を便利にするための仕組みを生み出したいというのが、起業の動機です。便利にする対象を大きくしたいというのが大前提としてあるので、結果、大きな会社へ成長させていくというのは、経営上、当たり前になっていると思います」

競争社会に勝ち抜いていくことに喜びを見出していくという“起業家スピリッツ”をもったタイプではない。いまどき注目を集める、社会に貢献することが収益を挙げるより大切という社会起業家タイプとも違い、事業拡大の野心は強くもっている。さらには、高級なクルマを乗り回したいだとか、豪華なマンションに住みたいといったような、華やかな生活への憧れとも遠いタイプだ。
「フェラーリとかはあんまりほしくないですね。なんか乗ると疲れそうだし。乗り心地って、あれ、いいんですかね」

一方で、好奇心は強いタイプだという。

「命の食べ方を学ぼうっていうテーマで、鳥の屠殺を経験したことがあります。日常的に食べているものに対して、“いただきます”の意味をあらためて考えてみようって。肉っていうものにリアリティーなく触れるのではなく、そういう現場はみておいたほうがいいだろうって」

捉えどころのないタイプとはいえるだろうが、キャラをつくったり、ウケを狙って大きいことをいうということはしない。そのあたりが、村上の会社経営のスタイルとも共通しているようにみえる。ただ突出してみえるのは、極端なほど周りに影響されない性質だろうか。

「私、あんまり気にしないタイプなんですよね、周りを。小学校のときから、ずっと半袖短パン靴下なしで小学校4年生まで生活していたりとか。日本って、ベンチャースピリッツがないっていうわけじゃなくて、みんなで“人はみな同じ”というルールを勝手につくって共有しているだけなんじゃないですかね。私だけ、そこの輪に入らなかったというか、むしろ会社をつくりたいという思いは、理由とかではなくDNAレベルですり込まれていた感じです」

速水健朗(はやみず・けんろう):ライター。
1973年、石川県生まれ。パソコン誌編集者を経て、2001年よりフリーランスのライター、編集者として活動。主な分野は、メディア論、20世紀消費社会研究、都市論、ポピュラー音楽など。著書に、『都市と消費とディズニーの夢』(角川oneテーマ21)ほか多数。

『Voice』2012年10月号
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◆総力特集は「さらば、「反日」韓国」 「不退転の覚悟で臨む」。韓国との非難の応酬が続く竹島問題で、野田総理は消費増税の際と同じ言葉を使い、竹島が日本固有の領土であることを国民の前で力説したものの、挑発行為は繰り返され、戦後最悪となった日韓関係にいま、われわれはいかに対処すべきなのでしょうか――。今月の総力特集では、防衛問題や政治家の資質、経済政策など、あらゆる角度から、日本の主権を守り抜き、新たな日韓関係を築くための方策を論じます。もう1本の特集は、「来る総選挙、甦れ日本」。民主&自民両党の代表選後は、いよいよ総選挙か!? との観点から、国民が信頼するに足る、新政権のあるべき姿を議論しました。今月号も、エキサイティングな議論をご堪能ください。

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