記事

iPadは「ニュース砂漠」の拡大を防げるか

「News Desert」ー米国の町町から地元紙が経営難から廃刊し、地元ニュースが得られなくなっている状態ーというフレーズで有名になったNorth Carolina大のPenelope Muse Abernathy教授のチームは、このほど“News Deserts and Ghost Newspapers: Will Local News Survive?,”と題した新たなレポートを発表しました。

表題にあるように「ローカルニュース」とりわけローカルな新聞は生き残れるかについての部分を読んでいたら、アーカンソー州リトルロックが本社のArkansas Democrat-Gazette(以下ADGと略)の試みに言及している部分に興味が湧き、調べる気になりました。

調べると細かい部分でいくつか誤りがあることがあとで判明しましたが、Abernathyさんはこんな風に紹介していました。

<家族経営のADGは2019年、月〜土はデジタルに転換、日曜版だけ紙で発行するようになった。従来の紙の読者にiPadを渡すために1300万ドルを使った。iPadの使い方を教えるトレーナー70人を州内各地に派遣した。役員たちは読者の70%が今の購読料と同額でiPadに転換してくれれば利益が出ると計算した。昨年末には転換率は80%を超えた>

大要、こういうもので、続けて

<コロナによるパンデミックで経営的に追い詰められた他の日刊紙も似た動きをしているがADGのようなしっかりした調査に基づくものはない><ADGのようなデジタルのみの転換に成功すると、多くの日刊紙が生き延びられることになる>
と、大分、ADGを持ち上げていることに興味をひかれたのです。

実は紙からタブレットへの試みは新しいことではありません。このブログでも紹介しましたがフィラデルフィア・インクワイアラー(Philadelphia Inquirer)が2011年に試みました。当時499ドルのアンドロイド・タブレットを月額10ドルの購読料で2年契約してくれたら99ドルで譲ります。ただし先着5000名!というもの。当時のPR画面はこれです。

[画像をブログで見る]

この5000人なぞ「一週間で満杯になる」と当事者は踏んでいたらしいのですが、残念ながらその後のLAタイムズの報道によると「6週間経っても半分程度」ということに終わってしまい、「大失敗」とされています。(結局2000人しか応募しなかったよう)

そのほかこのブログで紹介したものとしてはカナダのフランス語新聞La Presseのケースがあります。こちらはそこそこの実績を挙げたようですが、経営を続けるのには政府や州の補助や一般からの寄付が必要だとして、それが可能になる非営利団体(NPO)に衣替えしてしましました。

こんな先例がある中で、ADGはどんな風にやったのか?いくつかの記事から整理してみます。

ADGはWEHCOという家族経営の小規模な新聞チェーンに属しています。WEHCOは日刊紙は10紙を所有。社名は先代の経営者Walter E.Hussman Conpanyから取ったものだそうで、現会長のWalter E.Hussman JRも絶大な権力を持っているよう。

そのハスマン氏がデジタルに目を向けたのは、E&Pの記事によれば「2018年に、この20年間で初めて赤字になったから」だそう。そこで「スタッフの削減やコンテンツの縮減に変わる、新聞が浮上できる大胆な方法を模索した」とあります。

ハスマン氏が注目したのは10万(実数は8万という説も)の購読者中、すでに4000人が新聞紙面がそのまま画面に出てくる新聞紙面をそのまま表示するレプリカ版を見ているという事実でした。Local News Initiativeによれば読者に印刷物からデジタルへ、そして伝統的な新聞のレイアウトからはるかに異なるオンライン形式へ、同時に2つのジャンプを強制すること」を避けて、紙面そのものをiPad画面で見せる戦略でした。

[画像をブログで見る]

もう一つのジャンプ、つまりデジタルへの転換は、とにかく先に一見、無料に見えるように、iPadを渡してしまうことでした。フィラデルフィア・インクワイアラーのように、購読料を安くして長期契約すればタブレットを安く売ってあげるーーという姑息な方法を取らなかったのです。

これは、最初に取り組んだ本社リトルロックから250km離れた人口14000 人、5000世帯で読者200人だけというの不採算地帯、ブライスビルでの実体験が生きているようです。この街の同紙の購読者200人を対象に勧誘します。その経緯は先のLocal News Initiativeに詳しいのですが、2回、勧誘に失敗して、3回目にiPadを先に渡してあらゆる質問に1対1で応対したら140軒が応じてくれたという大成功を収めます。

紙の読者の3割がデジタルに転換しなくとも7割が残れば利益が出る、と経営陣は計算し、全州的に広めることにしたわけです。そのために用意したのが1200万ドル、iPad36400台。 ハスマン氏は「ギャンブルかも」と内心では思っていたらしいですが。

そして今春の段階で州内75郡のうち63郡を網羅し転換率はなんと予測を上回る79%に達しているそう。残る12郡は、ADGの北西版であるNorthwest Arkansas Democrat-Gazetteのエリアですが、ここも転換中で8月中には終えて、ADG同様、紙の新聞は日曜日だけになるとのこと。また、Eldorado News-Timesなど姉妹紙にも追随するところが徐々に増えているようです。

こうした成果を認められて、ハスマン氏は今年2月にNews Media Alliance(米新聞協会)などが主催するKey Executives Mega ConferenceMega-Innovation Awardを受賞しました。

その時のスピーチでハスマン氏は言いました。「新聞は単なるビジネスじゃない。私たちの民主主義に不可欠なpublic trustなのだ。そこで、全75郡に配達できるsome way を試みた。そのsome wayがiPad initiativeなのだ」

また、つい先日のエルドラドロータリークラブでの講演では「新聞の印刷モデルはもう機能しない」と断言し、「デジタルには印刷に勝る経済的アドバンテージがある」とした上で、Eldorado News-TimesのiPad化についてこう意味付けしました。

「エルドラドのデジタル化にとても興奮している。なぜなら、エルドラドで機能すれば、その他の小さな新聞でも機能するということだからだ。もし機能すれば、Eldorado News-Timesの生き残り以上の多くのことが関わってくる」

冒頭に紹介した Abernathy教授教授の危惧するNews Desertの拡大を食い止める一助になるでしょうか。

あわせて読みたい

「iPad」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    スガ批判の左派に待つ皮肉な現実

    PRESIDENT Online

  2. 2

    毒メシをやめて成績UP? 医師苦言

    中村ゆきつぐ

  3. 3

    感染対策 レジのシートは逆効果

    かさこ

  4. 4

    竹中平蔵氏と会食の菅首相を批判

    藤田孝典

  5. 5

    劇団ひとりがED克服したキッカケ

    SmartFLASH

  6. 6

    消費税めぐる左翼層の主張に呆れ

    青山まさゆき

  7. 7

    人気寿司店も苦境 厳しい飲食業

    内藤忍

  8. 8

    ウイグル問題 世界的企業に打撃

    SmartFLASH

  9. 9

    安倍前首相の仮病を疑う声に反論

    木走正水(きばしりまさみず)

  10. 10

    ソフバ株売出し 驚きの人気ぶり

    近藤駿介

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。