記事

性別が変わった私が体感した「女性を見下す視線」と「トランスジェンダーを審査する目」 - ゆな

1/2

「どちらまで?」「〇〇にある××というところまでお願いします」「あー、××ね。あそこきょう何かあるの?」「いや、単に仕事で」

 出張で初めて訪れた土地でタクシーに乗り、運転手さんとこのような会話を交わしました。そこでふと、そういえば最近やけにタクシーの運転手さんからため口で馴れ馴れしく話しかけられる、と気づいたのでした。以前はそうでもなかったのに……。

 そしてはっと思い至ったのです。「ああ、これがそうなのか」と。

 このお話をするためには、私がどういう人間なのかということを少しご説明しないといけないかと思います。「タクシーに乗るとため口で話しかけられる」ということから察していただけるかもしれませんが、私は女です。けれど、多くの女性たちとは違い、ちょっと特別な事情を抱えています。


©iStock.com

「ああ、これが女性は見下されるということなのか」

 私は女で、そしてトランスジェンダーです。

 生まれたときに、体の形状をもとに「この子は男の子だ」と判断されて、男の子として育てられてきました。子どものころからずっと得体の知れない苦痛を感じ続けていたのですが、20代後半でようやく意を決してジェンダー・クリニックに行き、性同一性障害の診断を受けました。その後、担当のお医者さんと相談しつつ少しずつホルモン治療を受けて、体の変化に合わせて服装なども変えていき、30歳ごろに周りにも打ち明けて女性として暮らし始めました。現在は戸籍も変えていて、法的にも女性となっています。

 そんなわけで、私は、人生のある時期までは周りから男のひとと認識されて、けれどある時期からは周りから女のひとと認識されるようになるという、ちょっと変わった経験をすることになりました。だからこそ思ったのです。「ああ、これが女性は見下されるということなのか」と。

 タクシーでため口で話されることが増えたというのは、本当に強く感じます。私自身は特に仕事を変えたわけでもないし、言動も以前と変わりません。身長などの体格も変わりません。違いらしい違いと言えば、ホルモン治療により顔や体が全体的に丸みを帯び、胸やお尻が膨らんだこと、それに合わせて服も女性ものを着たりするようになったことくらい、だと思っていました。

 でも違うんです。私の体つきや服装が変わっただけではない。周りが私のことを男と見るか、女と見るかが変わったのでした。そしてこの社会では、どうやらそれが大きな違いを生むようです。

変わったのはただ「性別」だけだったのに

 こんなこともありました。本屋さんが主催する読書会イベントに参加したときのこと。参加していたのは、確か、私のほかは私と同世代の女性がひとり、もっと若い女性がふたり、初老の男性がひとりでした。男性は、女性が感想を語り終えるたびに、即座に発言をし、関係あるのかないのかわからない蘊蓄を披露していました。そんななかで、私も感想を語りました。男性は同じように蘊蓄を語ってきましたが、たまたま私は男性の語っている事柄をよく知っていたので、そのように伝えつつ、自分と男性の意見が合う点、合わない点を伝えました。男性はむっとした表情でさらに別の蘊蓄を語り、私はそれにも何かを返しました。すると男性はさらにまったく別の話をし、それは私にはぜんぜん馴染みのないことだったので、「そうなんですか。知りませんでした」と返しました。そこでようやく男性は満足げな表情で、発言をやめたのでした。

 たぶん、私に何かを「教える」ということをしたかったのでしょう。そう、「マンスプレイニング」というやつです。けれどそうした経験が少なかった私は、それに気づかないまま言い返していて、それが男性の気に障ったのだろうと思います。こうしたことも、周りに女性と見られるようになって初めて起こるようになりました。

 でも私の言動は以前と特に変わっていないのです。職業だって、知識の程度や趣味だって変わっていません。変わったのはただ、男のひとと認識されるか、女のひとと認識されるか。どうやら、それだけで、タクシーの運転手さんはため口になり、見知らぬ男性は私に知識で上回ろうとしたくなるようです。

 そういうふうにして、私は「女性は見下される」ということを、身をもって経験することになりました。「女性である自分に対する男性たちの態度と、男性の知人に対する男性たちの態度との違いに気づいて愕然とする」というエピソードをよく聞きますが、なんと私は自分の身ひとつでその落差を味わったのでした。

男性が女性を見下すように、女性が向ける「審査の目」

 こうした経験をする一方で、性別移行して経験するようになったけれど、たぶん多くのひとにはなじみがないのではないかということもあります。

 もともと、周りに女性として見られるようになって、自分の外見が「審査」の対象となり始めたらしいということには気づいていました。見知らぬ男性たちが私を見ながら、「背高え。でもああいうのもありだよな」「いや、あれはなしだわ」などと言う。私はとにかく背が高いので、主に身長に関して「あり」か「なし」かを語られるのですが、もちろん顔や服装について何かを言われることもあります。何にしても、どうやら彼らにとって私は大っぴらに外見を論評し、「審査」をしていい対象と思われているようです。

 そして実は同じような視線は、私がトランスジェンダーだと知っているシスジェンダーの女性からも向けられることがある、と気づいたのでした。というのも、不自然なほどに外見を誉められ、ちやほやされることがあるのです。私を取り囲み、「わー、すっかり綺麗になって」「いやもう、本物の女のひとより綺麗」「ああでも手は大きい」などと。好意を向けられているのはわかっています。けれど、そこには男性たちが女性を論評するときと似た、「審査会」の雰囲気が確かにありました。そして、「本物の女ではない」という、おそらく無自覚の見下しも。だからこそ、自分たちを「審査」する側に、私を「審査」される側に置いてはばからなかったのでしょう。

 もちろん、男性がみな女性を見下しているわけではないように、シスジェンダーがみなトランスジェンダーを見下しているわけでもなく、大げさに聞こえるかもしれません。とはいえ、ひとつひとつは小さなことでも、見下されたという経験は降り積もります。女性としてのそれも降り積もり、トランスジェンダーとしてのそれも降り積もり、両方合わせると、結果的に大きな山になっていきます。

あわせて読みたい

「性差別」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    入店拒否めぐる堀江氏SNSに疑問

    かさこ

  2. 2

    いつか撮られる…瀬戸大也の評価

    文春オンライン

  3. 3

    枕営業NGが…少女に欲情し犯罪へ

    阿曽山大噴火

  4. 4

    菅政権攻勢 石破氏に出番あるか

    早川忠孝

  5. 5

    元TOKIO山口氏 異例の家宅捜索

    渡邉裕二

  6. 6

    「TENET」は観客に不親切な映画

    fujipon

  7. 7

    山尾氏が比例1位 新立民へ配慮か

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  8. 8

    JRの安全を脅かす強引な人事異動

    田中龍作

  9. 9

    Amazonの防犯用ドローンは問題作

    後藤文俊

  10. 10

    日本は中国の覇権主義に向き合え

    赤池 まさあき

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。