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沖ノ鳥島近海における海洋調査

 中国が沖ノ鳥島を基点とする排他的経済水域に置いて海洋調査をしている事が問題になっています。中国は沖ノ鳥島を、国連海洋法条約第121条3における「岩」だと主張しています。

【国連海洋法条約】
第百二十一条 島の制度
1 島とは、自然に形成された陸地であって、水に囲まれ、高潮時においても水面上にあるものをいう。
(略)
3 人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩は、排他的経済水域又は大陸棚を有しない。
 

 つまり、こういう事です。「沖ノ鳥島はたしかに日本の領土だ(注:中国もそれは否定していません)。ただし、沖ノ鳥島では(人工物が無ければ)『人間の居住又は独自の生活を維持すること』は出来ない。だから、排他的経済水域も大陸棚も有しない。だから、日本の主張する排他的経済水域のエリアで何しようがゴタゴタ言われる筋合いはない。」というのが中国の主張です。

 私は(自分で言うのも何ですが)沖ノ鳥島について結構、秀逸な質問主意書を出しています(質問答弁)。ちょっと解説します。

 まず、野田政権時の平成24年、日本は国連で沖ノ鳥島関係で結構な得点をしています。何かというと、大陸棚延長申請に関する大陸棚限界委員会という所から出た勧告で、「四国海盆海域について,沖ノ鳥島を基点とする我が国の大陸棚延長が認め」られました(外務報道官談話)。これは何かと言うと、沖ノ鳥島は大陸棚を持つような島だという事です。民主党政権が嫌いかどうかは結構ですので、当時の野田政権の成果としてここは素直に評価すべきでしょう。

 私はそれについて「勧告のどの部分を読めば分かるのか」という質問をしています(問二)。答えは「教えられません」なのですが、私は答えを知っています。それについては、過去に一文書いていますので参照ください。これは本当に信じられないくらいの成果です(多分、中韓は見逃したのでしょう)。

 そこで、私は「沖ノ鳥島が大陸棚を持つのであれば、国連海洋法条約第123条3で言う所の『人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩』ではないよね。」と聞いています(問三)。答えは「国連の委員会はそういう事を決める権限はない。ただ、日本として『人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩』だとは思っていない。」となっています。

 この国連海洋法条約第123条3は解釈が色々とあり得ます。中国は「人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない」ものが「岩」である、と考えているはずです。日本の解釈としてあり得るのは、「島」か「岩」については別途の定義があって、その「岩」の中でも「人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない」ものが排他的経済水域や大陸棚を有しない、という事ではないかなと思います。ただ、それらの解釈論がどうであっても、上記の勧告で日本は「沖ノ鳥島が大陸棚を有する島である」という重要な成果を取っています。大陸断を有する以上、排他的経済水域も有する事になるというのは当然です。

 ただし、このような事実があるにもかかわらず、中国は日本の同意を取り付けずに調査をしています。これは日本として全く受け入れられないのですが、この中国による日本近海での海洋調査については日本外交の「隠された事実」があります。知っている人は非常に少ないです(理由は後述)。何故、私が知っているかというと担当だったからです。そして、何故、こうやって紹介しているかというと、この文書は秘密文書ではないので、存在を明らかにしても国家公務員法の秘密保持違反にならないからです。

 国連海洋法条約上、この手の海洋調査については「6ヶ月前までに同意を求める」事が要件となっています。しかし、対中国では2001年、河野洋平外相時代に「海洋調査活動の相互事前通報の枠組みの実施のための口上書」というものを交わしていて、そこでは「2ヶ月前までに通報する」だけでOKとしています。通常ルールに比べると期間は短いし、通報だけでいいので日本の同意は不要です。

 この対中国での特別ルールが何故知られていないかというと、この口上書がウェブ上で一切公開されていないからです(なので、何処からもリンクが張れません。唯一出て来るのはこれです。)。なので、普通に調べようとしても内容を知りようがありません。口上書の名称でGoogle検索をしても出て来るのは私の書き込みが大半です。しかし、繰り返しになりますが、この口上書は秘密文書ではありません。

 ちょっと意地の悪い私は、これについて質問主意書を出しています(質問答弁)。木で鼻をくくったような答弁が返ってきていますけど、これだけ重要な文書なのに誰も調べられない状態に置かれているというのは、とどのつまり「知られると都合が悪いから」です。幾つか都合の悪い所がありまして、まず、日中間で平等になっていないのです(非常に雑に言うと、中国が調査できる海域と日本が調査できる海域の表現振りに差があります)。しかも、東シナ海の事を(日本側文書でも)「東海」と呼んでいます。私は冗談で「この『東海』は『トンへ(韓国版の日本海)』とでも発音するのか?」と揶揄した事もあります。なお、日中漁業協定でも東シナ海の事を「東海」と記述しています。

 そういう不平等かつ大優遇の口上書があって、中国は調査をする2ヶ月前に「今度、この辺りで調査します」と連絡するだけでOKになっています。実は手続きに沿って中国が今回の海域で調査をすると通報して来たら、日本に断る権限は一切ありません。ここはあまり知られていない事です。あまり言いたくないのですが、口上書で合意した内容を踏まえれば「通報するかしないかだけだろ。別にそこまで問題にしなくてもいいじゃないか。」という感情を中国側に持たせているのかもしれません。ただ、中国は何の通報もしていないので日本として今回の調査は認められないとするのは当然です。

 纏めると「中国は2ヶ月前までに『調査するからね』と連絡すれば良い事になっている。日本は中国の調査を拒否する事は出来ない。ただ、その連絡すらやってきていない。ただ、日本はそういう中国の主張を許さない材料をきちんと持っている。」という感じです。今、この件で世論が盛り上がっています。ともすれば扇情的になりがちなのですが、是非、こういった点を押さえた報道や議論を期待したいと思います。

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