記事

大学入学後の中退や留年の実情を、高校側はぜんぜん知らない

2/2

具体的な数字が共有されていれば、進路指導の現場では、それを学びのための教材にできるんです。

たとえば、ある大学・学部の標準年限卒業率が65%だったとしましょう。その場合、

「35%の学生はどうしたのだろう? 仮になんらかのミスマッチや、つまずきがあったのなら、それはどういう理由からなのだろう?」

「どういう人が65%の側になり、どういう人が35%の方になりがちなのだろう? もしあなたがこの大学・学部に入学したとして、あなたはどっちになると思う?」

……なんてディスカッションがいくらでもできます。数字の大小を単純に比較することよりも、数字を分けている「理由」について考えることが大切だと私は思います。その理由を考えさせるような指導の仕方であれば、生徒達の進路検討のあり方や、日々の学習の態度にも良い影響が出るんじゃないか、と思うのです。

それに65%といっても、本人にとってはゼロか100かです。標準年限卒業率95%の大学であっても、あなたがサークルとバイトにしか興味がないのなら中退するかも知れません。ならば「自分はどうなるんだろう。何のために大学へ行くんだろう」とリアルに考えさせる教材として活用する方が、本質的なのではと思うのです。同じ大学に進学するのだとしても、こうしたプロセスを経ることで、進学後の意識や行動が変わってくると思うのです。

ちなみに

【A大学】30%が留年するけど、産業界から評価が高く、資格の合格率も高い

【B大学】10%しか留年しないけど、A大学ほど評価や合格率は高くない

……という2大学、さあ君ならどっちを選ぶ? ……なんてディスカッションもお勧めです。私、実際に高校生を集めてこういうワークショップをやってみたことがあるんですけど、

「A大学で留年しないようがんばれば良いんじゃない? でも、なんで留年しているのかな」
「私は奨学金を借りるから絶対に留年できない。私ならB大学のエースを目指す。あれ、ここが育てるエースってどんな人だっけ?」

……みたいな意見が参加者から出ていて、頼もしくなりました。進路学習、って本来こういうことなんだよなぁと、可能性を感じました。逆に言うと、「こういう、ちょっとした実践の積み重ねが、これまで高大の間で足りてなかったんだろうなぁ」とも思います。

ただ数字を配るだけなら、それは教育ではなく、情報の伝達に過ぎません。でも、こうして数字を題材にして考えさせれば、それは学びになり得ます。生徒を消費者として扱うのではなく、主体的な学習者として育てようと思えば、こうしたプロセスは避けて通れないと私は思うのです。

大学は中退率や留年率のように、ネガティブに見える数字を出したがりません。私も元・私立大学職員ですので、その理由はわかります。数字が一人歩きし、高校生が表面的なイメージで大学を評価しないかと、大学の方々は心配されるのでしょう。

でも、こうした実態がまったく知られていない結果、「大学って受かりさえすれば4年でみんな卒業できるんだよね」と、多くの高校生や保護者、高校教員が思ってしまっています。本当は、そんなことないのに。そのことは結果的に、大学側の教育や経営に影響を与えてしまっているのではないでしょうか。であれば、むしろ高大双方の関係者が同じテーブルを囲んで、一緒に数字を共有しながら生徒・学生のためにどう活用するか考えた方が建設的じゃないかなぁ、と思うのです。

実際、私も以前に「大学教員&職員、高校教員、大学生、高校生、そして一般参加、あわせて100人で大学進学後の実態データを見ながら、理想の高大接続について考えるワークショップ」ってのをやってみたことがあります。国の出方を待たなくたって高大接続は可能だよなぁ……と参加者が実感できるような、非常に建設的なコミュニケーションになっていました(そこでやったことと、起きたことについては今後また改めて、ぜひ多くの方へ共有させていただきたいです)。

高校の先生方にも、教学データの活用をお勧めしたいです。私は先生方から

「最近は早く合格を決めたいという理由で、AO入試や推薦入試を選ぶ生徒や家庭が増えている。指定校枠の中から、聞いたことがあるという程度の安易な理由で大学や学部を選ぶ生徒もいる」

「早めに合格した生徒が勉強をやめてしまい、遊んでしまう。本当は最後まで伸び続けるはずなのに。」

「ど派手なイベントで広報をしたり、都心の繁華街にキャンパスを持っていたりする大学や専門学校に生徒が流されがちだが、教育や研究水準でもっと進路をリサーチして欲しい」

「受験に向けて生徒が勉強するよう、彼らのモチベーションを上げたいが、上手くいかない」

……なんてお悩みをよく伺います。でもそれって、「受験の合格」がゴールになっちゃってるからではないでしょうか。合格はスタートであって、ゴールではない……という事実を、中退率や留年率のようなデータはダイレクトに伝えてくれると思うのです。データの読み解き方や伝え方に迷われる場合は、各地域で活動されているキャリア教育の専門家のような方々や、地元の大学の力を借りちゃっても良いと思います。

結論

  • 生徒・学生のために本来かなり重要であるはずのデータが、「一人歩きして欲しくないから」「ネガティブな情報で受験生を減らしたくないから」といった事情により、ほぼ高校生側に知られていない。
  • であれば、情報の使われ方を改善する工夫を具体的に考える方が建設的なのではないか。高校側にとっても大学側にとっても、もちろん生徒・学生にとっても。
  • 色々な実践例が既にあるよ。

これまで何百回という高校の進路講演で、私はその地域の大学の中退率などを高校生達へ伝えてきました。消費者ではなく、学習者になって欲しいからです。最初は「クレームになるだろうか……」とハラハラしながら話していたのですが、生徒・保護者のほか、高校の先生からも「今日、この話を聞けて良かった」「生徒の姿勢が変わった。進路指導ってこういうことだと目からウロコだった」という反応をいただいてきました。

身近な大学関係者からも、こうした試みについてしばしば意見を求めてきました。「広報の立場では言いにくい情報で、ずっと『伝えるべきではない』と思ってきた。でも大学全体を良くするという視点に基づけば、高校生のうちに知っていて欲しいことであることは間違いない」というのが、最も多く頂戴する意見です。「こんなデータを出して、誤解されないだろうか」と心配するのなら、誤解されないような関係性づくりや、データを通じてちゃんと考えてくれる若者の育成に協力する方が建設的です。

ほら、可能性を感じませんか?

高校と大学が入試を挟んで対峙しているだけなら、「営業と顧客」のような関係のままです。でも、生徒・学生の成長のために、同じ「教育者」としてお互いにできること考えたら、やれることって結構あるんじゃないか、と私は感じています。

以上、倉部からでした。

あわせて読みたい

「大学」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    河野大臣「ワクチンは十分に足りている」接種状況について説明

    河野太郎

    08月03日 09:13

  2. 2

    在宅勤務で生産性低下した国は日本だけ? 背景に対面コミュニケーション依存の働き方

    非国民通信

    08月02日 15:12

  3. 3

    森林大国ニッポンが木材不足のナゾ ウッドショックは林業に変革をもたらすか

    中川寛子

    08月03日 08:07

  4. 4

    男性視聴者の眼福になっても女子選手が「肌露出多めのユニフォーム」を支持する理由

    PRESIDENT Online

    08月02日 15:27

  5. 5

    この1週間を凌げば、オリンピックが終わります。もうしばらく我慢しましょう

    早川忠孝

    08月02日 14:37

  6. 6

    コロナ軽視派「6月で感染者数減少」予想大ハズレも、重症者数が大事、死亡者数が大事とすり替え

    かさこ

    08月02日 10:29

  7. 7

    何をやっても批判される「老夫婦とロバ状態」の日本

    内藤忍

    08月02日 11:52

  8. 8

    来るべき自動車産業戦国時代を勝ち抜ける日本がなぜEVなのか?

    ヒロ

    08月03日 11:52

  9. 9

    人権尊重、企業は本気か-DHCの不適切文書に批判

    山口利昭

    08月03日 08:42

  10. 10

    世界初の自動運転「レベル3」登場も複雑化する使用条件

    森口将之

    08月03日 10:28

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。