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特集
日本の見えない移民たち
日本が新たな在留資格「特定技能」を創設し、外国人労働者の受入拡大を開始してから今年4月で1年。在留外国人数は5年連続で過去最多を更新し、2019年末現在で293万3137人となりました。ともに暮らしているけれど、もしかしたら見過ごしてしまっているかもしれない。そんな日本の「見えない」移民たちの現在を追いました。

「人権が守られているとは思わない」 LGBTQ迫害でアフリカを追われた難民申請者が語る日本生活の孤独と希望

  • 2020年07月21日 07:16
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紛争、弾圧、治安悪化など、何らかの理由で避難を余儀なくされた人の数は、2019年末時点、世界で7950万人となり、1950年の国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)創設以来、最多を記録した。安全を求めて自国を離れることを余儀なくされた人々は地球上の97人に1人に値し、ここ日本にも来ている。

1年前、東アフリカの母国から日本に逃れ、現在、難民申請中の女性、キャシーさん(仮名)もその一人だ。すべてをなげうって国を逃れた理由、アフリカとのギャップ、そして「人権が守られているとは感じない」という日本での生活。難民申請者として日本で新しい暮らしを築くために奮闘するキャシーさんに話を聞いた。

【取材/渡邊雄介・清水駿貴】

性的マイノリティへの迫害で命の危機 母国から逃れたどり着いた日本

東京都内の取材先にターバン姿で現れたキャシーさんは、勉強中だという日本語で「こんにちは」とあいさつ。「難民」という言葉に筆者が抱いていた不幸でネガティブなイメージを微塵も感じさせない明るい笑顔を浮かべながら、英語でインタビューに答えてくれた。

キャシーさんは母国で性的指向を理由に迫害を受け日本へ逃れた。難民申請中の現在、政府からの委託を受けて難民や難民申請者の支援を行う難民事業本部(RHQ)から1日1600円ほどの給付を受けてひとり暮らしをしている。

日本にきて「誰も危害を加えない状況になったことで、やっと未来のキャリアについても明るい兆しが見えてきた」と語るが、同時に、日本で仕事が見つからず退去を命じられる可能性に「恐怖を感じている」と明かす。すべてをおいて逃げ出した国には「もはや帰る場所がない」。取材で名前と国名を明かさないのは、身元が割れると危険が及ぶ可能性があるからだ。

母国では近年、反LGBTQ(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー・クエスチョニング)の気運が高まっている。キャシーさんが暮らしていた国では、LGBTQであれば通報されてしまう。同性愛者であることが特定されれば、最悪の場合、終身の禁固刑が科せられるという。

キャシーさんは「もし逮捕されれば、30年は牢獄に入れられることになります。時には命の危機にさらされることもあります」と自身が感じた恐怖を語る。

「もしいま、日本から祖国に送還された場合、私には2つしか選択肢が残されません。自殺するか刑務所に送られるかです」

アフリカとのギャップ 日本の暮らしで感じる孤独

性的指向を原因とした迫害によって自身や家族の身の危険を感じたキャシーさんが向かった先は、テレビで見たことしかなかった日本。以前、マーケットリサーチャーとして勤めていた貿易会社の仕事で中国出張の経験があり、アジアへのビザを一度取得しているならば日本のビザが取れるかもしれないと考えたからだ。

日本に入国できたものの、言葉も文化もわからない。渡航中に出会ったアフリカ人男性に騙されて危険な目にあいかけたことなどもあり、イスラム教徒の礼拝施設で身を隠す日々を送った。そこで、難民支援協会を紹介され、ようやく住居や日本語教室などのサポートを受けることができた。

日本での暮らしは、アフリカとのギャップから「孤独を感じることが多い」と話す。当初、キャシーさんが抱いた日本人のイメージは「自己中心的」。知らない人同士でもあいさつを交わし交流するアフリカの文化で育ったキャシーさんの目には、日本人の距離感が友好的ではないものに映った。

印象的だったのが温泉に行った時のことだ。「私は5時間いたのですが、その間、誰一人として声をかけてくれませんでした。知らない人同士でもあいさつを交わすアフリカであれば信じられないことです。でも、その場で“こんにちは”と言ってくれる日本人はいませんでした」

「5時間ですよ!誰一人話しかけてはきませんでした」とキャシーさんは力を込めてその時のことを語った

しかし、最近は日本人に対するイメージも変わってきたという。「単純に言語の壁が邪魔しているのだということを意識するようになりました。日本人が私にあまりしゃべりかけないのは、言語が違うからだと。今では覚えた日本語でこちらから積極的に話しかけたりしています」

1日1000円以下で暮らす難民申請者の暮らし

現在、キャシーさんの1日のスケジュールは6時半に起床、1時間ほどお祈りをした後、メールやインスタグラムなどのSNSをチェックする。昼すぎから、YouTubeで動画を見るなどして日本語を勉強。その後、出かけるなどした後、帰ってきて家で夕食をとり、日付が変わるころに眠りにつく。

ストレス発散といえば、チャットアプリで母国の友達と話したり、インスタグラムを見たりすることくらいだ。「買い物に出かけても、欲しい物は沢山あるのだけど、あまり買えない」とキャシーさんはためいきをつく。RHQから支給される1日1600円の補助の大半は光熱費や食費などの生活費として消える。それでもお金を貯めるため、キャシーさんは1日1000円以下で生活をやりくりしている。「暮らしはとても厳しいです」

難民のなかには母国を逃れてたどり着いた日本でも、希望ある未来を描くことができず、孤独感と将来の見えない日々に押しつぶされてしまう人も少なくない。

キャシーさんは現在、就労許可をもつ難民申請者を就職面などでサポートするNPO法人WELgeeを通じて就職活動中だ。「マーケットリサーチャーとして働いてきた自分の専門性を活かせる仕事に就きたい。でも、まずは生きていくための仕事が必要です」。

そのために日本語を学ぶ必要があると語るキャシーさん。日中に語学学校に通うなどして勉強するとなれば、残されるのは夜勤の仕事だ。「自分のキャリアを殺したくはないのですが…」。キャシーさんの言葉に苦悩がにじむ。

人権が守られない日本へ 「もう少しわたしたちのことを信頼してほしい」

日本での生活の大変さを語りながらも、キャシーさんは笑顔を絶やさない。しかし、取材中、何度か力を込める場面があった。人権について尋ねた時だ。

「日本で難民申請者は必ずしも人権が守られているとは感じません。もう少し私たちのことを信用してほしい」

19年、1万人以上いる難民申請者のうち、同年に日本が難民認定したのは44人。認定率は1%以下である。「日本政府は私たちの話に耳を傾けてほしい」とキャシーさんは訴える。

日本の難民認定の立証にはまだまだ課題が多い。

日本では難民認定の是非について、「個別具体の迫害」を重視する。

「個別具体の迫害」とは、申請者が政府当局やテロリストグループなどの迫害主体から個人的に把握され、狙われている状態のことだ。

日本政府は、申請者の個別具体的な迫害事情を確認することができなければ、多くの場合、難民不認定の判断を下している。

さらに立証の際、主観的な恐怖や事情、出身国の情勢にまつわる一般的な情報だけでは不十分だ。それ以上に、自分が恐怖を感じる事情があったことを示す、類似したケースや脅迫状などの客観的な証拠を提示するように求められるのだ。

しかし、着の身着のまま逃れた難民は、客観的な証拠を持ち合わせていないことが多いため、立証が難しいのが現状だ。また、難民申請の期間は時に数年に及ぶことがある。

「祖国に帰りなさい」と言われてもどこに帰ればいいのですか?

「『祖国に帰りなさい』と日本政府に言われたとして、どこに私の家はあるのでしょうか。いったいどの家に帰れというのでしょう。私はすべてを捨てて祖国を出ました。そんな私が提示できる迫害の証拠とは何ですか? 具体的にどんな証拠を求められているのか、それさえわからないのです」

難民条約には「ノン・ルフールマン(non-refoulement)」という原則が定められており、「締約国は、難民を、いかなる方法によっても、人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見のためにその生命または自由が脅威にさらされるおそれのある領域の国境へ追放しまたは送還してはならない。(条約第33条1項)」。

そのため海外では、難民の立証の裏付けとなる証拠が少ない申請者に対しても、申請者の置かれている状況を最大限考慮して、難民認定が行われる例も多いという。

「日本人には難民がどんな人で、どんな人生を歩んできたのかを知ってほしい。そして家族として迎え入れてほしいのです。私たちは孤独だから」

難民は悲惨なだけの存在ではない 産業のグローバル化が求められる日本と世界をつなぐ架け橋に

キャシーさんのようなアフリカからの難民のなかにはビジネスマンや、医者、法律家、教師など母国での社会的地位が高い職歴をもつ人も多い。

キャシーさんは難民が「悲惨」なだけの存在では決してなく、日本の経済や産業に貢献する可能性も秘めていることを指摘する。

「難民たちは貧困から逃れるために来たわけではないのです。キャリアを築いてきた人や、専門性がある人も多いことを知ってほしい」

キャシーさんのような難民たちは、日本企業にとってはアフリカその他、新しい市場を開拓するうえでの力強いパートナーと成り得る。

産業のグローバル化が求められている日本で、難民は世界とつながる架け橋となる存在として、捉え直される時代が来ているのかもしれない。

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