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プリントアウトした方が間違いに気づきやすいワケ

もう随分前の話になるが、モニタ上で見るよりも、紙で確認したほうが間違いに気づきやすいのはなぜかという議論が盛り上がった。

考えうる理由についてはおおよそ挙げられているようだ。既出の論点の中では、身体性に関する指摘が重要であるように思われる。身体性とは、認知科学において近年注目されている概念で、身体という物理的存在が周囲の環境とインタラクションすることによって、学習や知識構築を行うことを指す。物理的な紙にプリントアウトされた情報を読むときには、本を持つ、ページをめくる、文字をなぞるなどの物理的なインタラクションを行なっており、ページの厚みや重さといった電子情報には無い要素が間違い発見のしやすさに影響しているのではないか、という指摘だ。

しかし、上記議論においては上げられなかったが、一つ重要な観点がある。本エントリでは、プリントアウトた方がモニタで見るよりも間違いに気づきやすいもう一つの理由について取り上げたい。

メディア論で知られるマーシャル・マクルーハン(Herbert Marshall McLuhan)は、その理由について、反射光と透過光の違いを挙げている。以下、世界のしくみが見える「メディア論」―有馬哲夫教授の早大講義録画像を見るから引用する。

マクルーハンの説明はこうです。紙に印刷して読むとき──つまり、反射光で文字を読むとき、私たちの受容モードは自動的に、そして脳生理学的に「分析モード」になり、心理的モードは「批判モード」に切り替わる。したがって、ミスプリントを見つけやすい。

反射光とは、本のページを読むときのように、紙に反射して、そしてインクが染み込んだ文字を浮かび上がらせて私たちの目に飛び込んでくる光をいいます。

分析モードとは、スキャナーが文書や画像の全体をスキャンするように、ドット単位で読み取っていくような情報の受け取り方をいいます。批判モードとは、能動的にチェックしつつ取り込んでいくような情報の受けとめ方をいいます。

これに対し、透過光とは、テレビを見たり、コンピュータのモニター画面で何かを見たりするときのように、ブラウン管やモニター画面から発せられる光線が、私たちの目に映像として入ってくるものをいいます。この場合、私たちの認識モードは、自動的にパターン認識モード、くつろぎモードに切り替わります。

パターン認識モードとは、細かい部分は多少無視して、全体的なパターンや流れを追うような読み取り方をいいます。分析モードの対極にあるもので、多量の情報を短時間に処理しなければならないときは、このモードになりやすいといえます。

くつろぎモードとは、あらゆる刺激に対して感覚器官を開放し、受動的に、送られてくるものをそのまま受け止めようとするような情報の取り込み方をいいます。

ここから、私たちが透過光で文字を読む場合は、何となく全体の流れを追うだけになってしまい、細部にあまり注意を向けることはできません。したがって、ミスプリントを見逃してしまうということになります。

我々の脳内の情報処理モードは特定の条件によって切り替わる。その条件の1つが、注視している対象が透過光か反射光ということらしい。ここでは透過光という表現が使われているが、発光型デバイスか反射型デバイスかと言い換えることができるだろう。ちなみにiPadに利用されている液晶ディスプレイ(LCD)は発光型デバイスであり、Amazon Kindleや楽天koboに利用されている電子ペーパー(E Ink)は反射型デバイスである。

マクルーハンは、我々が映画を見る時とTVを見る時とでは脳の受容モードが異なると指摘し、米国の広告研究家であるハーバート・クルッグマン(Herbert Krugman)の研究を引用している。クルッグマンは被験者を2つのグループに分け、同じ映画を見せた。ただし、一方のグループにはスクリーンに投影した反射光として見せ、もう一方のグループには半透明スクリーンの裏から投射した透過光として見せたのである。

画像を見る
反射光と透過光(世界のしくみが見える「メディア論」画像を見るより作図)

同じ映画を見たにもかかわらず、2つのグループの映画に対する反応は全く異なっていた。反射光グループは映画の内容を理性的に分析し批判的に捉えたのに対し、透過光グループは映画の内容を情緒的に捉え好き嫌いを問題にしたという。これは、透過光か反射光かの違いによって、見る人の脳内処理モードが、分析・批評モードか、パタン認識・くつろぎモードに別れることを意味する。

次の表は透過光と反射光の特性の違いを示したものだ。

反射光と透過光の特性の違い(世界のしくみが見える「メディア論」画像を見るより一部改変)
反射光透過光
映画、印刷物テレビ、モニタ
目がテレビカメラ目がスクリーン
文字、左脳、理性的絵柄、右脳、情緒的
分析モード
批評モード
パタン認識モード
くつろぎモード
Amazon Kindle
楽天kobo
iPad
Androidタブレット

つまり、発光型デバイスであるモニタを見るときには、脳はパタン認識・くつろぎモードになるため、文書を見ても全体を絵柄として捉え細部に注意がいかなくなり、ぼんやりとくつろいで見ることになり間違いに気づきにくくなる。一方、紙にプリントアウトすると、それは反射光となるため、脳は分析・批評モードに切り替わり、文書を細部まで細かくチェックすることが可能となる。そのため、間違いに気づきやすいというわけだ。文章をチェックするときに、一旦紙にプリントアウトして見ることは、理に適った行動なのだ。

Amazon Kindleや楽天koboが採用している電子ペーパーは、反射型デバイスであるため、脳は分析・批評モードで動作することになる。これは論文や技術書、教科書などを読むには適したデバイスであると言えるかもしれない。また、文章の校正を行う際にも有用だろう。

一方、iPadやAndroidタブレットが採用する液晶ディスプレイは発光型デバイスであり、脳はパタン認識・くつろぎモードで動作することとなる。小説や詩などの感情に訴える作品を読む場合にはこちらのほうが適している可能性がある。相手に不利な内容の契約書を見せる際にも良いかも知れない。

完全に同じ条件においては、入射光が直射光なのか反射光なのか区別が付くとは考えにくいが、おそらく解像度や輝度、同期周波数などが影響してると考えられる。最近話題になっているブルーライトによる刺激が関係している可能性もあるだろう。マクルーハンは解像度の違いを最も重視していたが、Ratinaディスプレイなど紙に匹敵する解像度を有する発光型デバイスの特性がどのようになるのかは興味深いところだ。

以上見てきたように、脳の動作モードの違いが、プリントアウトした方が間違いに気づきやすいという理由の一つである可能性がある。現状の電子書籍端末は電子ペーパーと液晶という2つの特性の異なる表示デバイスを有しており、どのようなコンテンツを主に読むかということを考えて端末を選ぶと良いだろう。

もっとも、まともにコンテンツが揃ってなければただの板だけど。

参考文献

リンク先を見る世界のしくみが見える「メディア論」―有馬哲夫教授の早大講義録 (宝島社新書 252)
有馬 哲夫

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