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「韓国の経済的自殺」を招く李明博の暴挙―三橋貴明(経済評論家)

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※公開日:2012年9月10日

グローバル資本の植民地


レームダック化と大統領退任後の「運命」に悩む李明博韓国大統領は、対日関係において、決して踏み越えてはならない線をまたいでしまった。

8月10日。韓国の李明博大統領は、日本国島根県竹島に上陸した。さらに、李大統領は8月14日、「(天皇陛下が)韓国を訪問したいのなら、独立運動で亡くなった方々に対し心からの謝罪をする必要があると(日本側に)伝えた」と暴言を吐き、日本国民の神経を逆なでした。

結果、あれほどまでに弱腰外交を貫いていた民主党政権が、韓国に対する制裁措置を検討しはじめたわけである。野田政権は21日、韓国が不法占拠している竹島の領有権問題について、国際司法裁判所(ICJ)に共同付託する提案書を韓国側に届けることを確認した。韓国側が応じない場合(100%応じないが)、単独提訴の手続きを開始するという(単独提訴は国際法に沿った訴状が必要で、手続きに時間がかかる)。さらに安住淳財務相は、韓国との通貨スワップ協定の見直し検討を表明するなど、経済的な圧力を強めつつある。

日本側が経済的な圧力をかけている(厳密には圧力をかけると予告しているわけだが)最中に、韓国経済の屋台骨を揺るがすような事態が発生した。スマートフォン(多機能携帯電話)の特許侵害に関する訴訟で、8月25日、アメリカのカリフォルニア州連邦地裁が、サムスン電子はアップルに10億5,000万ドルの賠償を支払うべきとの判断を下したのだ。これを受け、週明け27日のソウル株式市場において、サムスン電子の株価は7.5%も急落した。

サムスン電子は現在、膨大な数の特許訴訟を抱えており、その数は3,000件を上回る。韓国人特有の「パクリ体質」は、ついに韓国経済の中心である大手輸出企業の足元をも揺るがしつつあるのだ。

現在の韓国は、大手輸出企業に投資している「外国人」への配当金を最大化するために「構造改革」された、事実上の「グローバル資本の植民地」である。韓国を事実上支配しているグローバル投資家が、もっとも所得(配当金)を得るにはどうしたらいいのか。

アジア通貨危機以降の韓国では、李明博政権に至るまで、以下の「構造改革」が推進されてきた。実際に「構造改革」を実施したのは政府だが、その背後に「韓国政府と結びついたグローバル資本」の存在があるわけだ。

・国内の市場を寡占化し、市場競争を減らすことで大手企業の利益を最大化する(高い買い物をさせられる消費者が損をする)
・労働市場の流動化や派遣社員解禁で、労働分配率引き下げを可能とする(従業員が損をする)
・政府の政策として電力料金を低く抑える(政府および税金を支払う国民が損をする)
・政府の政策として法人税を低く抑える(政府および税金を支払う国民が損をする)
・政府の政策として通貨安政策を採り、グローバル市場における競争力を高める(輸入物価上昇により国民が損をする)

上記のとおり、国民や政府が損をする各種の政策を推進し、大手輸出企業の純利益(注:競争力ではない)を最大化し、外国人に巨額の配当金を支払う。現在の韓国は、べつに煽りでも何でもなく、グローバル資本の植民地なのだ。

「取り付け騒ぎ」の理由


韓国が上記の「構造」になってしまったのは、もちろんアジア通貨危機でIMF(国際通貨基金)管理に陥り、各種の「構造改革」が行なわれたのが始まりだ。さらに、李明博大統領による大手輸出企業に傾注した政策推進も大きく影響している。

韓国では2007年から翌年にかけ、グローバル資本が外国に一気に逃避するキャピタルフライトが発生した。結果的に、韓国は2度目の「通貨危機」に突入したのである(ちなみに、筆者の処女作である『本当はヤバイ! 韓国経済――迫り来る通貨危機再来の恐怖』〔彩図社/07年6月〕は、これを予見したものだ)。外国投資家は韓国株を売り払い、次々にウォンを外貨に両替していった。07年秋には1ドル=900ウォンを切った韓国ウォンの為替レートは、08年終わりには1ドル=1,500ウォン超にまで暴落した。

まさに、第二次通貨危機の最中(08年2月)に大統領に就任した李明博は、2度目のIMF管理を回避するために、グローバル資本と「融合」する成長戦略を採った。結果的に、韓国の「グローバル資本による植民地化」はさらに進行し、韓国国民は経済成長しているにもかかわらず、「不幸」になってしまう。グローバル化の進展により、韓国では格差が急拡大し、失業率は実質20%超、自殺率はOECD(経済協力開発機構)加盟国中、1位という事態に陥ったのだ。李大統領の手法は、あらためて考えると、いわゆる「ショック・ドクトリン」だったわけだ。ショック・ドクトリンとは、国民がショックを受けたタイミング(例:2度目の通貨危機)を「活用」し、グローバル化や構造改革を一気に進めてしまう手法だ。

李明博大統領の「グローバル資本による植民地」化路線は、最終的には米韓FTA(自由貿易協定)というかたちで結実した。米韓FTAにより、韓国は製造業のみならず、サービス分野においても外国資本を全面的に受け入れ、さらにISD(投資家対国家間の紛争解決)条項締結で外国人投資家により国内の政策を左右される事態に至ってしまった。まさに「グローバル資本の植民地」である。

韓国国民が「不幸」になった結果、李明博大統領は国民の支持を失った。4月の総選挙では、与党の朴槿恵派までもが「反李路線」を打ち出す始末である(結果的に、総選挙で与党セヌリ党は勝利することができた)。

朴槿恵氏が大統領選に勝利するかどうか、現時点ではわからない。だが、いずれにしても大統領選挙のあと、李明博大統領は過去の韓国大統領と同じ道(恐らく逮捕)を歩む可能性が高い。なにしろ、現在の李大統領は、野党はもちろんのこと、与党からまで孤立してしまっている有様なのだ。

朴槿恵氏が新大統領になった場合、李路線との決別を宣言するためにも、なんらかのアクションを取らざるをえない。前任者を批判し、攻撃し、自らの権力を強化することは、中国や朝鮮半島の歴史的な伝統である。

すなわち、李大統領の「グローバル資本の植民地」化政策は、韓国国民を不幸にした挙げ句、自らの立場も危うくしてしまっているのだ。不毛としか表現のしようがない。

韓国国民がつくづく不幸だと思うのは、アジア通貨危機で大手企業のバランスシート(貸借対照表)の調整(要は借金返済)を余儀なくされて以降、「負債の担い手」の役目まで負わされてきたことである。資本主義経済は「誰か」が負債を拡大し、投資をしなければ、成長しようがない。通常の資本主義国において、負債や投資拡大の担い手は、もちろん一般企業である。ところが韓国では、IMF管理下で企業の負債が「調整」され、さらに政府も緊縮財政路線を強いられた(現在のギリシャのように)。そのため、もっとも脆弱な経済主体である家計がリスクを背負わされる状況を続けてきたのだ。

じつは、07年のバブル崩壊前のアメリカやイギリスも、主に家計の負債拡大に依存した経済成長を続けてきた。とはいえ、バブル崩壊により、家計は完全に「借金返済モード」に移行し、現在は日本さながらに「政府の負債」で経済を下支えすることを続けている。両国ともに、いまや家計は負債残高を減らしていっている。

韓国の場合、欧米諸国ではすでに終わりを迎えた「家計の負債拡大に依存した経済」をいまだに続けているのだ。結果、韓国の家計の負債残高は増加の一途をたどり、11年には可処分所得の164%に達した。信じがたいことに、この164%という値は、サブプライム危機発生時のアメリカの水準を上回っている。

イギリスのロイヤル・バンク・オブ・スコットランドのエリック・ルース氏(アジア担当エコノミスト)は、韓国の家計の負債問題について、

「韓国政府は問題に適切に対処できていない。家計債務(負債)はすでに持続不可能なほど高い水準に迫っている」と、語っている。

韓国の家計の負債が増えているのは、大手輸出企業に偏向した経済モデルの下で、国民の実質賃金が上がらないにもかかわらず、家庭の両親が子供のために巨額の教育費を捻出しなければならず、全労働人口の3分の1に達する自営業者が、事業資金を借り入れなければならないなど、韓国経済の「構造」に起因している。さらに、現在は崩壊を始めた韓国の不動産バブルも、家計の負債増加にひと役買っていた。

12年5月、韓国の金融委員会は、貯蓄銀行業界首位のソロモン貯蓄銀行など4行を不健全金融機関に認定し、半年間の営業停止処分を下した。10年以降、すでに韓国では20を超える貯蓄銀行が営業停止処分を受け、その多くで取り付け騒ぎが発生している。理由はもちろん、韓国の貯蓄銀行の利用者の多くが家計や自営業者だったためである。韓国経済の負債拡大の役目を負わされてきた韓国の家計が負担に堪えかね、彼らへの融資が不良債権化しているのである。

しかも、現在、韓国は主力産業である石油化学、鉄鋼、造船といった分野が世界的な経済沈滞の煽りを受け、輸出額が大きく減少している。LG経済研究院などの韓国のシンクタンクは、このまま輸出減少が続くと、韓国経済は12年下半期にゼロ成長に陥る可能性があるとみている。

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