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H&Mがついにユニクロに抜かれる? 明暗分けたトレンド戦略

2008年に日本に上陸したH&Mだが、1号店の銀座店は2年前に閉店

 新型コロナによる販売減で経営難に陥る企業が相次ぐアパレル業界。それは国内に限らず海外の大手ブランドも同様だ。スウェーデン発のファストファッションチェーン、H&M(エイチ・アンド・エム)も2019年上期の決算で大幅な赤字に転落し、世界中で店舗閉鎖を計画しているという。だが、不振の原因は決してコロナのせいばかりではない。ファッションジャーナリストの南充浩氏がレポートする。

【写真】ファストファッションで世界1位のZARA

 * * *
 コロナによる店舗休業や外国のロックダウンを受けて、アパレル各社の今春の業績はガタガタになっています。他のアクシデントと異なり、コロナショックは主要国ほとんどで起き、特に欧米では日本よりも被害が甚大でしたから、国内アパレルだけではなく海外のアパレルブランドも相応のダメージを受けています。

 海外アパレルの上位3社であるZARA(インディテックス)、H&M、ユニクロ(ファーストリテイリング)も同様の厳しい業績ですが、ファーストリテイリングは他の2社と比べて落ち込みは軽微です。インディテックスも落ち込んでいますが、コロナ以前は業績が好調に推移していましたから、世界1位の業績は堅持できるでしょう。

 しかし、2位のH&Mは今後も苦戦が予想されます。このところ業績が悪化傾向で推移していたところへ新型コロナショックですから、かなり見通しは厳しいといえます。3位だったファーストリテイリングは以前からH&Mを射程圏内に捉えていたので、ついに追い抜くことができるかもしれません。

 H&Mの苦戦とその原因について、業績や店頭での販売動向などを見ながら考えてみたいと思います。

 まず、インディテックスの2020年第1四半期(2月~4月)の売上高は前年同期比44.7%減と大きく沈みました。これは新型コロナの大流行による店舗閉鎖やロックダウンの影響です。H&Mの2020年第2四半期(3月~5月)の売上高は前年同期比50.1%減とインディテックスを上回る減収幅となりました。これも時期的にコロナによる影響です。

 一方、ファーストリテイリングは2020年8月期決算の下半期である3月~8月の売上高を13.8%減と見込んでいますが、減収幅が3社のうちでもっとも軽微となります。

 その理由はいろいろとありますが、ZARA、H&Mの両方の主要販売地域がコロナ被害の甚大だった欧米であるのに対して、ファーストリテイリングは欧米での販売店舗数は少なく、日本や中国などの被害が軽微だったアジア地区に偏っていたことが幸いしました。

 また、自粛明けの6月の日本国内アパレル各社の月次速報を見ていると、売上高はほぼ前年並みというところが多く、日本国内ではZARA、H&Mよりも圧倒的に強いユニクロにとっては有利な条件が揃っています。

 H&Mはコロナ前から業績が停滞しつつあり、日本市場においては存在感が希薄化していたように感じられます。2008年に日本初上陸した際の過熱したフィーバーぶりが10年後にはすっかり静まりかえってしまいました。

 それは直近10年前後の業績推移を見ても明らかです。決算を比較してみると、H&Mの営業利益のピークは2015年11月期。その後、出店加速による売上増は続くものの、営業利益は一度もピークを超えることが出来ずに現在に至っています。

 さらに、商品の在庫日数もピーク時に比べると格段に落ちていることを指摘する人もいます。

 在庫日数というのは、短ければ短いほど商品が高速で売れているということになりますが、H&Mで2014年から2015年にかけて90日台で回っていた在庫は、2017年には130日近くまで伸びていたといいます。これは、売り切れるまでの期間が1か月以上伸びたということになり、相当に売れ行きが鈍ったことが分かります。

 そもそも2008年の日本上陸当時にH&Mが大人気となった理由は、「商品の安さ」と「トレンド商品投入の速さ」でした。ファストファッションと呼ばれて持てはやされた所以です。

 ZARAは欧米のコレクションブランドのコピーによって安さとモード感を得意とし、ユニクロはベーシックカジュアルの大量生産によって安さと高品質を打ち出しています。そんな中、H&Mはいわば、モードではなく“トレンドカジュアル”をファッションテイストにしてきましたが、定期的に国内の売り場を観察していると、2016年以降は「トレンドの速さ」が薄れてきたように感じられます。特にメンズはベーシックカジュアル商品が増えた印象です。

 そして業績がピークアウトしたころから、商品が全般的によりベーシック寄りになったと感じています。しかし、ベーシックカジュアルに寄ってしまうと、そこにはアジア地区では強さを誇るユニクロが待ち構えています。定価は同じくらいだったとしても、品質では比べ物になりません。似たような物が似たような値段で販売されていれば、普通は品質の高いほうを選びます。そうなると必然的にH&Mはユニクロには勝てないということになります。

 そして、売れ行きが鈍ってくると、残った商品を売りさばくために値引きを頻繁に行う悪循環に陥ります。値引きはその都度利益を削ることになるため、利益を確保するために製造原価率を下げる手法を使わざるを得ないのです。

 洋服の製造原価率を下げる手法は様々ありますが、もっともポピュラーで誰でも思いつくのが、「もっと大量に作る」「生地や縫製のクオリティをさらに下げる」という2つの手法です。

 しかし、この2つは単なる悪手でしかありません。大量に作ればもっと大量に売れ残りますし、生地や縫製のクオリティを下げれば、さらに商品の評価が低くなり売れ残る可能性が高まります。その結果、また値引きを重ねることになります。そして業績がどんどん悪化するという“悪循環スパイラル”に突入してしまうのです。

 安く大量に作ろうとすると、いまや中国ではなくバングラデシュなど東南アジアで製造するのが一般的な潮流ですが、そうした国々の工場では、安くて大量に作れる代わりにデザインの凝った物は不得意でベーシックな物が主流になってしまいます。

 H&Mの商品からデザインの凝った物が減り、ベーシックな物が増えたのもそのためだと考えられます。そしてベーシック商品を増やせばユニクロと直接対決することになり、勝ち目は薄いという結果になるのです。

 個人的な話で恐縮ですが、私は昨年夏にH&Mで派手な総柄プリントのTシャツを何枚か買いました。こういう商品はユニクロや無印良品には並んでいなかったからです。しかし、秋冬商品になるとベーシック品が棚を占めていました。同じベーシック品を買うなら、迷わずにH&Mよりも品質の高いユニクロか無印良品で買うのが無難だと考えるのは私だけではないはずです。

 こうした商品戦略を続ける限り、H&Mの業績回復は難しいでしょうし、今後長期間に渡って停滞し続ければ、近い将来、世界2位の座をファーストリテイリングに明け渡すのではないでしょうか。

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