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「危機管理の文化」の不在が初動の遅れを招いた -尾身茂氏・石原信雄氏が政府のコロナ対応を総括

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「強い官邸」のもと、首相と行政組織全体が

意思決定や政策実行で連携する体制をどうつくるか

 一方、官房副長官などの立場で長く政府の危機管理に携わってきた石原氏は、内閣の体制づくりという観点から、政府の危機対応について言及しました。

 石原氏はまず、衛生対策を所管する厚労相ではなく、経済再生担当相である西村氏がコロナ対策を担当し、記者会見なども同氏が行っていることで、政府全体の取り組みというイメージが国民に伝わらず、また、政府が国民の健康や安全よりも経済への影響を重視しているという印象を与えてしまった、と指摘。

 「誰が司令塔になるべきだったか」という工藤の問いに対しては、今回のような、内閣全体に関係する危機の場合、本来、首相のもとで取りまとめ役を担うのは官房長官であるが、今回はその役割を西村氏が担っている、と答えました。

 続けて工藤は、内閣機能の強化は、危機管理の面でも重要だが、内閣の強化が進む中でむしろ、各省が官邸を忖度して批判を控えるようになったとの見方もある、と指摘。さらに、各省のヒアリングを進める中で、首相側近の行動を問題視する意見も見られる、と疑問を投げかけました。

 これに対して石原氏は、内閣の権限強化については、「政権の意向がスピーディーに浸透するというメリットはあるが、客観的に見て、それに対する冷静な立場での意見が言いにくくなっているデメリットも存在する」と説明。

さらに、「一旦、強くなった内閣の権限を元に戻せ、というわけではない」としながらも、閣議はあくまで合議制であり、各分野を担っている閣僚や各省の意見も十分踏まえて議論した上で、首相が意思決定し、それを所管大臣が実行していく、というプロセスが大事であり、権限が強くなった内閣の側がそれを自覚し、各省の担当者が意見を言いやすい環境をつくっていくべきだ、と訴えました。

 加えて石原氏は、首相補佐官の役割は、文字通り、首相が内閣の方針を実行する際に補佐することであり、補佐官が各省に「首相の意向」として指示した内容と、閣議の結果として大臣が指示した内容との間に齟齬が生ずれば「内閣の不統一」となり、「補佐官の考えで政策を実行するということは、制度的にはありえない」と語りました。

 続いて工藤は、今回の危機対応における国と地方の関係をどう見ればいいのか、旧自治省の事務次官を経験している石原氏に尋ねました。

 石原氏は、地域によって感染状況が異なるため、対策の実行段階では知事や市町村長の責任が大きくなるとしつつも、今回のような災難では、地元の意見は大いに尊重されなければならないが、大方針はあくまで国が決めるべきだ、と指摘。一方で、国と自治体の意見が食い違う場合には、内閣官房に国・地方の協議の場を設けるなど、国と地方自治体が歩調を合わせ、さらに住民に直接向き合う都道府県の衛生・環境担当と、内閣官房や厚労省との事務方同士の連携の重要性を強調しました。

 ただ、石原氏は、今回は、メディア報道を見る限り、西村大臣と小池知事との対談は表に出るが、政府の事務方と東京都の事務方との連携がどのようになっているのかが、全く見えないとし、「住民に対する実際の施策は地元のスタッフが行うのであり、こうした事務連携が大事だ」と話しました。

感染拡大を防止る3つの柱は、「検査」、「医療体制の確保」、「感染防止策」

 最後に工藤から、尾身氏には「日本のコロナ対応に残された課題は何か」、石原氏には「新たな危機への備えとして、今回の事態が持つ教訓は何か」と問いかけました。

 まず尾身氏は「今の最大の課題は、社会・経済をある程度オープンにしつつ、感染拡大を防止すること」だと明言。その三つの柱は、感染有無の検査や感染状況のモニタリング、医療体制の確保、そして感染防止策だ、と語りました。

 国民の関心事である検査について尾身氏は、感染者を早く見つけるためにも院内感染を起こした病院や、「夜の街」など、陽性率が高い人たちへの検査には時間や資金を投入する価値はあると説明。一方で、安心して社会生活を送ることを目的に検査を受けることについては、仮に日本人全員がPCR検査で陰性だったとしても、明日誰かが感染しない保証はなく、「不安を解消するためには永遠に検査を続けなければならず、現実的ではない」との見方を示しました。

その上で、誰に検査を受けさせるべきかというルールは、社会・経済を活発にする上で重要な人は誰か、という視点も踏まえ、各分野の専門家が参加する感染症対策本部が決めていくことになるだろう、と語りました。

危機管理はあらゆる壁を超えて取り組むもの

 石原氏は、全ての危機に共通して重要なのは、全体像を早期に見極めた上で、機敏に手を打つことだ、と重ねて強調。その意味で「内閣の危機管理能力は非常に大事だ」と語ります。そして、今回の事態では、官房長官のもとで危機管理全般を統括する内閣危機管理監の存在感が薄いことに触れ、自然災害を念頭につくられた役職だが、危機管理監である以上、感染症や経済危機などあらゆる危機に対応するのが本来の役割だ、と指摘。

 こうした点も踏まえ、「危機管理は国民の生命・財産を守るための最優先の政策。したがって、あらゆる壁を乗り越えなければならない」と、内閣の横断的な危機管理体制づくりの重要性を改めて訴え、インタビューを締めくくりました。

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