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「国際協調は必要だ」との認識で一致 ~座談会「コロナ危機の世界史的な意味と世界の今後をどう見るか」~

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 コロナ禍によって活動の自粛を余儀なくされてきた言論NPOは7月2日、活動の再開として「コロナ後の国際秩序をどう見ればいいのか」と題し、Web座談会を開催しました。公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構の五百旗頭真理事長、青山学院大学国際政治経済学部・古城佳子教授、神奈川大学・下斗米伸夫特別招聘教授に上智大学国際関係研究所・納家政嗣客員研究員の四氏が参加し、司会は言論NPO代表の工藤泰志が務めました。

 今回のコロナ危機で、国際協調そのものの限界が言われる中で参加者は国際協調こそが必要との見解で一致。しかし、現状ではWHO等の国際機関の在り方、さらに各国の国内格差などから生じる国内の「分断」から国際協調が非常に困難な状況に陥っており、今後、新しい国際協力の仕組みを模索していく必要があるとの認識が示されました。

 また、今回のコロナ対策における危機管理について、民主主義よりも強権的に動ける権威主義体制の方が有利だ、との見解に対しては、民主主義の弱点は危機が起きた瞬間に、権威主義体制のように大胆な対策はとれないが、政府が市民に信頼できる情報を提供し、市民との相互作用の中で危機に対応する民主主義国は政府の信頼を回復していること、さらに科学的な専門家との知見と政府が連携する民主主義の成熟さも評価すべきとの見方が示されました。今後は、政府の役割や市民の役割、公共圏の在り方などをしっかりと考えていく必要性も言及されました。

 議論に入る前に工藤は、コロナ危機の真っただ中で感染が拡大し、出口が簡単に見えない時にこれから国際秩序の問題はどのように変容していくのか、そこで日本はどう対応していくのか、その手掛かりを得たいというのが会議の問題意識になると説明。その上で、最初の質問として、国際秩序にとって今回のコロナ危機が持つ意味を、どう捉えられているのか、五百旗頭氏に問いました。

国際秩序にとってコロナ危機が持つ意味とは

 五百旗頭氏は、100年前の第一次世界大戦の最中に発生したスペイン風邪によって何千万人という人の命が失われた結果、1918年11月の休戦合意でスペイン風邪は戦争を止め、平和と協調の方向に機能したと指摘。しかし、今回のコロナウイルスは、欧州でのポピュリズムの台頭、トランプ大統領の選出で米中対立に拍車がかけられている中で世界に蔓延したことで、新しい世界秩序の再編への努力が必要だとの認識を示し、米中にはそのリーダーシップを期待できないため、欧州や日本がその役割を発揮すべきではないか、と語りました。

 次いで下斗米氏は、第1次大戦では、人々が戦争というところでのみグローバルにぶつかったが、現在は地政学でいう「海」と「陸」という領域を超え、インターネット上という接触がない空間に、グローバル化の舞台が移り、経済やネット社会という非政治的なパラメータを巡る争いがきっかけとなって、これだけの政治的な大きな変動になっていると指摘。政治の行方が不透明となる中で、経済的な次元での対立にコロナウイルスが倍加して、国際的な混沌を象徴しているのだろうとの見方を示しました。

 納家氏は、「コロナ以前に、グローバル経済は行き詰っていた」と説明。グローバル経済のリセットには、原理・原則をどうするのかということが重要であり、技術突破で経済成長を回復するのではなくて、個人の生活、人間の自由、人権、そういう視点で再編されるべきであり、今回のコロナ危機は、リベラリズムの再定義に踏み込んでいくという意味で、いいきっかけになるのではないか、と新たな哲学が問われているという視点を披露しました。

 「これまで人の移動とか商品の流れの自由化を是としてやってきた世界経済が、感染の拡大で遮断せざるを得なくなった」と話す古城氏は、こうした大きな変化を元に戻していく時に、何を基準にしていくのか、各国政府は考えざるを得ないとし、グローバル化が基盤にしてきたことが問い直されていると指摘しました。

 さらに古城氏は、経済の見直しが、安全保障に関わってくるため、経済を回復する時に、サプライチェーンを政府がコントロールで排除する等の制約となり、今までのグローバライゼーションのあり方と大きく変わってくるのではないか、と語りました。

国際協調は幻想だったのか

 次に工藤は、感染症のように人類共通の脅威に対して、本来であれば、世界が連帯とか国際協調によって力を合わせることが必要であるにも関わらず、世界的な協調のリーダーシップを発揮する指導者がいない、ということを指摘し、「国際協調は幻想だったのか」と問いかけました。

 これについて、古城氏は、「これまでの国際協調の考え方が甘いのであれば、そのあり方を詰めていくべきだ」との見方を示しました。その上で、国際協調のためには国内の支持が必要であるが、米国内にもトランプ大統領のナショナリズムを支持している人たちが存在しており、社会が一丸となっていく時に「分断」は大きな影響を与えるとの懸念を示しました。そして、「格差の問題などに対処し、国際協調が共同利益になるというような体制をつくらないと、その実現は難しい」と、古城氏は重い口調で語りました。

 一方、納家氏は、コロナへの対応では、最初に交流、交通を絶ったから国際協調に踏み込めなかったし、コロナ以前から米中対立が激化していた中で、感染拡大しているからといって、リーダーシップの取れる状況でもなかったとして、「国際協調は滞っている」としながらも、コロナの収束段階に入っていけば、ワクチン開発などで国際協調は不可欠になってくる、との期待を示しました。

 五百旗頭氏は、コロナは、より有効な国際協調、グローバル協力なしに抑え込むことはできないとの見方を示しました。しかし、現状では、米中対立が象徴するように悪いのは中国、米国などと攻撃しあっていること、さらに欧米や韓国などの市民レベルでは、左右の分断が激しく、視野狭小に陥っていることなどを挙げ、第二次大戦後の国連体制や自由貿易体制を、政治がつぶしやしないか、国際的にも、国内的にも、「分断」をどう超えるかが課題だと強く主張しました。

コロナが強権政治を生んでいる?

 ここで司会の工藤は、「コロナ対策の虚を突いて強権的な動きがあるのは、なぜなのか」と疑問を呈しました。下斗米氏は、強権政治や権威主義と民主主義のどちらが危機に対応できるか、という議論に対しては、コロナによる死者の数などでアジアは少なく、欧米は危機対応に苦しんでいることから、「権威主義の方が」という単純化された見方が出ているのだと指摘。その上で、米中対立が国際政治の基本になっていることは間違いないものの、それぞれの国内事情を詳しく見ていく必要があるとの見方を示しました。

 これに対し、納家氏は、ロックダウンする上で、権威主義体制は効率がいい印象を与えた。しかし、感染症対策には、政治が信頼できる情報を流し、市民との相互作用が必要だと説明し、そうした柔軟な対応をするには、「民主主義体制しかない」と断言します。さらに納家氏は、「G0の状況になっている今、第三極は作れないが、ミドルクラスの民主主義国が協調レジームを作っていけるかどうか、カギになる。戦略を立てる余地はある」と、今後の展望を語りました。

 中国のコロナへの対応について五百旗頭氏は、最初の二カ月は武漢での出来事を隠していながら、三月になってからは、一党独裁の強みでロックダウンを断行してコロナの感染を食いとめ、経済活動を再開したことを中国は売りにしていることを挙げ、「これからは米中の力のバランスが中国に傾いていく」と中国に付き従う途上国や周辺国はあるだろうと指摘します。一方で、コロナ禍で困っている時に、火事場泥棒のように香港に強権を発揮し、南シナ海、東シナ海でも支配拡大に動いている現状を指摘し、「たちの悪い大国では世界の指導者とは言えない」と、世界の心ある人々や心ある国は思っていると強調。その上で、日本は信頼性を失っている中国に対して、誠意を持って反省を促し、「強大な国になる夢だけではなく、世界の道義的なリーダーシップを発揮することを考えたらどうか」と語り掛けると同時に、米国民に対しても(トランプは)四年で打ち止めにして、政治的変化を呼びかける必要があると、世界政治の大局的見地から日本の役割を語りました。

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