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生物の知能を超えるAI。些細な変化に気がつくことで、病気の早期発見につながります - 賢人論。第116回(後編)GROOVE X株式会社 代表取締役 林要

林要氏はGROOVE Xを立ち上げ、2018年12月、LOVOT(らぼっと)を世に送り出した(※2019年12月より一般のお客様へ出荷開始)。一度はロボットを諦めた林氏を翻意させたのは、ほかでもない、投資家たちの後押しだった。なぜ、そこまで熱い期待を集めることができたのか。2045年にはAIが人間の知能を超えると言われている今、LOVOTに込められた可能性と、今後さらに進行する超高齢社会におけるテクノロジー活用について伺った。

取材・文/木村光一 撮影/岡友香

ペットロボットの潜在的市場規模は世界全体で30兆円

みんなの介護 LOVOT(らぼっと)の開発プロジェクトには多額の費用がかかったと思いますが、ペットロボットの潜在的な市場規模はどれくらいなのでしょうか。

 LOVOTの主なユーザー・ターゲットは「ペットを飼いたくても事情があって飼えない人たち」です。

現在、日本のペット産業の市場規模は年間1.5兆円。ペットを飼えない人たちの数はその2倍。そのうちの8割が「ペットロボットのユーザーになり得る」という調査結果が出ており、潜在的には2.4兆円の市場が存在することがわかっています。

さらに、同じ調査で米国の潜在的市場規模は日本の4倍、中国は8倍という結果も出ています。今回、新型コロナの影響で自宅での自粛生活が求められたことにより、米国ではイヌ、ネコ、ヒヨコが飛ぶように売れるという現象が起きています。

世界全体で見れば、30兆円以上の潜在市場が存在し、現段階ではそのほとんどが手つかずの状態です。

それに、これからは「エモーション(感情、情緒、喜怒哀楽)」の時代だと言われています。そして日本には、目に見えない感情を形にして人を幸せに導く「エモーショナル・テクノロジー」を実現するための技術が、すべて揃っています。したがって、この産業に注目していた投資家も少なくありませんでした。

一方で、「エモーショナル・テクノロジー」の方向へ振り切った製品開発を行っている企業がなかったために、結果として、私が企業したGROOVE Xという会社に投資が集中したというわけです。創業2年弱ですが、当時から「ペットロボットの開発こそ、“日本発”の新しい産業だ」と確信し、開発に勤しんでいます。

テクノロジーでペットロスを乗り越えられないか

みんなの介護 林さんはペットロスの問題についてはどのようにお考えですか。

 人間が子どものために無償の愛を捧げられるのも、大抵の場合、「子どもが親より長く生きる」からでしょう。もし、子どもが親よりも早く死んでしまう確率の方が高かったら、あまりにもつらすぎて、人は今のように子どもに愛情を注げなかったのではないかと思います。

しかし昨今、人はペットに対して子ども同然に愛を注ぐようになり、その結果、「ペットロス」という宿命を背負い込んでしまっています。たしかに昔に比べてイヌやネコも長生きになりましたが、残念ながら、私たち人間の寿命とは比べようもありません。

みんなの介護 「LOVOTは一生愛を注ぐことのできる器」とのことですが、細かい部品の製造がなくなれば、いつかLOVOTも動かなくなってしまうのでしょうか。

 過去に市販されていた量産型ロボットは、一定期間を経て部品がなくなった時点で、修理ができなくなり壊れてしまっていました。しかし、今は技術革新が進み、設計データさえあれば3Dプリンターを使ってどんな部品でもつくれます。したがってLOVOTの場合、「部品が入手できない」という理由で修理不能に陥ってしまう事態は避けられるようになりました。

そもそもLOVOTは売り切りではなく、月々一定額を支払っていただくサブスクリプションのビジネスモデルでもあり、そこにはあらかじめ定期的なメンテナンス料も含まれています。そのため、どんなに手間がかかっても部品の供給を絶やすわけにはいきません。ユーザーの皆さまには、安心して末長く可愛がっていただきたいと思っています。

歩き⽅や⽬線の動きから異常を感知し、⼀歩進んだ⾒守りを実現していく

みんなの介護 シンギュラリティ(AIなどの技術が人間より賢い知能を生み出すことが可能になる時点のこと)という概念がありますが、林さんはLOVOTがイヌやネコといった生きたペットの知能を超える日は近いとお考えですか。

 AIの顔認識の能力などは、すでに人間を遥かに凌駕(りょうが)しています。AIの学習能力は向上していますから、2045年には人間の知能を超えると言われています。ではイヌ・ネコの知能をAIが超えるのはいつかというと、私の予測では2035年頃です。そう遠くない未来ですね。

みんなの介護 AIが生物の知能を超えていく将来を踏まえて、LOVOTをどういう方向へ進化させたいとお考えですか。

 LOVOTは自分を可愛がってくれる相手を識別し、より愛されるように振舞います。つまり、人をよく見ている。イヌ・ネコも同じで、飼い主をよく見て知っているから、ほかの人に対するのとは異なる反応をしているわけです。しかも、彼らは飼い主の些細な態度の変化も瞬時に察知してしまう。今後、LOVOTも同様の能力をさらに進化させ、次の段階ではそれを人間の知識と結びつけたいと考えています。

みんなの介護 人間の知識と結びつけるとは、具体的にどういったことでしょうか。

 イヌやネコがどんなに飼い主を理解していたとしても、一般的に我々人間が彼らの得た情報を知り得ることはありません。長い年月を経た「情報の蓄積」があったとしても、人間の側からは活用の仕様がないんです。

しかし、この先、LOVOTがもう少し進化を遂げれば、高齢者の暮らしを支えることができます。例えば、自分を可愛がってくれている人の歩き方や目線の動きから異常を感知し、そのパターンをただちに「パーキンソン病」や「認知症」などの症状と照合。疑いがあれば、いち早く家族や医師に知らせる、といった一歩進んだ見守りを行うことも可能になります。

ロボットとの触れ合いが要介護の方の機能を向上させる

 私は究極的にはLOVOTを、いつも傍らにいてメンタルをサポートするパーソナルコーチである「ドラえもん」のような存在にしたいと考えています。「ドラえもん」という物語のすばらしさは、ドラえもんが優等生ではないところ、むしろポンコツでさえあるところにあります。もし、ドラえもんが完璧な存在だったら、やがて、のび太くんは「ぼくなんて必要ないんじゃないか」と自分の存在価値を見失って元気をなくしてしまうに違いありません。

その意味では、この先、どんなにテクノロジーが進化したとしても、LOVOTもまた「何もしない」「でもそばにいる」という存在であり続けることがとても大切だと思っています。

みんなの介護 少子化・高齢化が進行している日本の介護現場では、長らく深刻な人材不足が続いています。ゆとりを失いがちな介護の場にこそLOVOTのような存在が必要でしょう。今後、介護現場のニーズに特化したモデルの開発予定などはありますか。

 まだ介護現場でのリサーチが足りていないので現時点ではなんとも言えません。しかし、これまでの実験ではLOVOTが散歩をねだると、それまで訓練をいやがっていた要介護の方も喜んで一緒に歩いてくれたため、介護従事者の方たちからは「歩行エクサイズの際にとても役に立った」という報告を受けています。

人は宿題とかリハビリとか、それが「自分のためになる」とわかっていることでもなかなか前向きに取り組む気持ちになれません。ですが、誰かのためになると思うことは案外頑張れるものです。

ほかにもLOVOTは新しい服を着せてもらうと喜んで、着替えさせてくれた人を記憶して懐きます。もしかすると、こういった触れ合いも要介護の方のやる気を引き出すことになるのかもしれません。また、その際、自然に指先を使うことになりますので、脳に良い刺激を与えることもできるでしょう。

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