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『やまとなでしこ』は、姫・松嶋菜々子の“賢い忠犬”を演じきっている堤真一がとにかく凄い どこか既視感を覚える『愛の不時着』との共通点 - 木俣 冬

 松嶋菜々子と堤真一による『やまとなでしこ 20周年特別編』(フジテレビ系)は2000年に高視聴率を獲得した伝説のロマンティック・コメディー。絶大な人気を誇りながらも出演者のひとり押尾学が逮捕されたこともあってか長らく再放送されることがなかった。それが、このたびのコロナ禍におけるなつかしのテレビドラマ再放送祭りのひとつとしてついに登場したときの世間の盛り上がりといったらそれはもう祭りであった。

【写真】20年前の松嶋菜々子と堤真一の2ショットを見る(全7枚)

 貧しい家に生まれ育ち「お金がすべて」という信念のもと、最高のお金持ちとの結婚を目指して“合コンの女王”となった桜子(松嶋菜々子)と、将来を嘱望された優秀な数学者だったが家の都合で魚屋を継いだ欧介(堤真一)。桜子はてっきり欧介が資産家の医者と思い込みロックオンするが、欧介は桜子の期待に応えようと魚屋であることを隠して医者のフリをしてしまう。魚屋ならではの魚のさばき方がメスさばきと重なるという設定が可笑しい。ふたりはちぐはぐなコミュニケーションを繰り返しながら徐々に惹かれ合い、離れがたくなっていく。

ドラマ『やまとなでしこ』製作発表会見

「姫の忠犬」を徹底的に演じている堤真一の凄さ

 ラブストーリーの出来はヒロインの相手役(王子様)がいかに魅力的であるかに左右されるといっていい。それこそ、先日まで盛りに盛り上がった25年も前の名作『愛していると言ってくれ 特別編』の豊川悦司がそうであった。最近だと『恋はつづくよどこまでも』の佐藤健、『逃げるは恥だが役に立つ』の星野源などもそうで、「ああ、この人と一緒にいたら幸福だなあ」と思わせる人たちだ。

この『やまとなでしこ』においても、堤真一はその役割を十分に果たしている。彼の醸し出す朴訥さは安心感そのもの。頭も良くて、いまは街の小売業者だが、数学者になりさえすれば経済的には大逆転というキャラ設定にも夢がある。

 そうはいっても、『やまとなでしこ』の場合、ドラマを牽引するのは圧倒的に松嶋菜々子なのである。堤の凄さは一見クールに見えて熱情が滲み出る演技のみならず、松嶋が演じる姫(桜子)の賢い忠犬としてのポジションを徹底的に演じていることでもある。小型犬ではなくコリーやシェパードのような頼れる大型犬。ご主人に意地悪されて黒い瞳を濡らしながらも耐える感じが萌える。こんなふうに妄想してしまうのは、堤が『もふもふモフモフ』というペット番組で声の案内人をしているからだろうか。

桜子を見ていて思い出す、2人の“百合”

 松嶋演じる桜子は、昭和のバブルを未だ引きずった価値観の持ち主で、豊かな衣食住を遮二無二求め、ときにはあからさまに、小売業の欧介を小馬鹿にする。その態度は、桜子たちと同時代を生きた者以外、赦せるものではないかもしれない。

 いまはむしろ、昔ながらの小売業を大事にしようとする時代である。そのうえ、女の賞味期限は27歳まででそこを過ぎると値崩れするという桜子の考え方は、『逃げ恥』で大絶賛された、アラフィフで独身の百合(石田ゆり子)のセリフ「若さを過大評価していつかはあなたも辿り着く未来を否定する。自分に呪いをかけないで。そんなものからはさっさと逃げてしまいなさい」とは真逆である。

 合コン相手に合わせてファッションを徹底的にコーディネートして臨み、一回着た服は二度と着ない。そして「洋服は私のすべてなの。人生そのものなの」と言ってのける桜子には、もう一人の女性を想起させる。

何を言うかではなく、何を着るか、どんな髪型にするか。それが人の心を左右するという考えは母の教えであり、テレビ界で竹村健一から学んだことだった

(「女帝・小池百合子」石井妙子著 文藝春秋)

 選挙戦でかつてはミニスカ、いまはマスクと、ビジュアルイメージを押し出して、東京都知事2期目に入った小池百合子氏だ。

 若さばかりが価値ではないと言う『逃げ恥』の百合、ビジュアルを大事にする都知事・百合子。奇しくもどちらも“百合”なのだが、『やまとなでしこ』は百合ではなく“桜”子。彼女は00年代を象徴するアイコンでありながら、20年代の今も、いいか悪いかはさておいて、なんだか気になる人物なのである。

最大の魅力は、桜子が“自分にかけた呪いを解かれる”こと

 松嶋菜々子がどんなに高飛車に振る舞っても、下品にならず清潔感と可愛げがあり、凛としていることがポイントなのだが、『やまとなでしこ』のもう一つの肝は、若さとお金に物を言わせ、自分が値崩れする前に、資産家と結婚して人生を逃げ切ろうとしていた桜子が、“自分にかけた呪いを解かれる”ことだ。

 実は、7月6日に放送された特別編の前編に出てきた欧介からのプレゼント“カメレオン”によって桜子の呪いは解けている。高級アンティーク腕時計カメレオンを望んだ桜子だったが、欧介は勘違いしてアンティークのおもちゃのカメレオンを贈る。とぼけたおもちゃの表情を見たときの桜子の笑顔はこれまで見せたことのないものであった。はたして、大事なものは若さかお金か。

 答えは、桜子が合コンで狙った獲物に語りかけるコトバにある。「たった一人の(運命の)人に巡り会えたような気がする」。恋のライバル・東十条(東幹久)や若葉(矢田亜希子)がどんなにいい人でもそんなの関係ない。「たった一人の」「運命の人」に「巡り会う」ことこそが大事。これがすべてで、これしかない。これさえあればラブストーリーというご飯はいくらでも食べられる。

20年前の作品『やまとなでしこ』と『愛の不時着』は似ていた

 余談ではあるが、「たったひとりの人に巡り会う」こと――。これはいま中毒者が続出中のNetflixの韓国ドラマ『愛の不時着』にも共通する。『やまとなでしこ 20周年特別編』を見ていて再放送が久方ぶりにもかかわらず、なぜかこのノリに既視感を覚えたのは、桜子と欧介が『愛の不時着』のユン・セリ(ソン・イェジン)とリ・ジョンヒョク(ヒョンビン)と重なったからであった。

高飛車な女と実直な男。違いといえば、ユン・セリは大金持ちで自ら会社を率いているが、桜子は客室乗務員として自立はしているもののお金持ちと結婚することを第一に考えていること。そこが大きな違いだが、ふたりとも心に穴が空いていて、それを埋めようともがいている点においては同じなのである。埋めてくれるのは、経済ではない。「たったひとりの運命の人」なのである。

(木俣 冬)

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