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夢洲の夢と現実

大阪メトロが、2024年度中に開業を予定していた大阪市・夢洲での55階建てタワービルの建設計画について、規模や時期を再検討することとなった。

 新型コロナウイルスの世界的な蔓延の影響を受け、夢洲への誘致計画のあるIRについては大幅に遅れる見通しとなり、先行きが見えないことが理由とされている。夢物語の絵姿となった「夢洲タワー」。しかし、コロナの影響に関係なく、大阪メトロの不動産事業は抜本的に見直す必要があるのではないかと感じる。


民営化により動き出した不動産事業

 大阪市が一つの株式会社だとするならば、社長は市長、従業員は職員、顧客であり株主は市民の皆様であると言える。大阪市会議員は、市民代表として大阪市の運営に対して提言をしたり、チェックしたりする株主の代表のような立場。大阪市会は、株主総会のような場であるという言い方ができるかもしれません。

 では、大阪市が100%の株を保有する株式会社の場合はどうでしょうか。もちろん、会社として自主自立の意識をもち、責任をもって会社経営にあたることになる一方で、経営を株主から委託されているという視点に立てば、株主である大阪市、大阪市民の意向を踏まえる必要があるということにもなる。

 2018年に民営化された大阪メトロは大阪市が100%株主となる株式会社である。民営化された効果をより早期に目に見える形で打ち出そうとしている意図があるのかどうかは明確ではないが、早くも不動産事業に前のめりになっている点に不安を感じる。

 昨年11月に大阪市浪速区において土地を購入し、2021年当初に開業を目指しマンションを建て、20億円強を費やし、民泊事業への参入をしようとしている。民泊事業で得たノウハウを活かして、その後はホテルやアミューズメント施設にも参入する方針であり、2025年の大阪・関西万博に向けては中央線を延伸して、夢洲にできる駅にはホテルや商業施設などが入るタワービルを建設する構想がある。そして、それらを推進すべく、この春には、ホテル・レジャー事業部、夢洲・森之宮開発部といった組織を立ち上げている。

大阪メトロ中期経営計画

今回の中期経営計画を見ると、「交通を核にした生活まちづくり企業」への変革を目指すとあるが、メトロが目指す「生活まちづくり企業」とは、具体的にはどのようなまちづくりを目指しているのか、どれだけの人が理解しているのだろうか。本当に、株主である大阪市や、市民・利用者の真の期待・要求に対し応えたものなのだろうか、単に自分たちが行いたいことを列挙しているだけではないだろうかと感じるところもある。
  
 大阪メトロが不動産事業に力を入れる様子は、嘗て大阪市交通局が土地信託事業での失敗を思い出させ、本当に大丈夫なのだろうかと不安を感じる人は少なくないのではないだろうか。

実際に、2019年8月2日に開催された、大阪市会と大阪メトロとの連絡会議においては、出席した議員からその点に対する懸念の声が聴かれる。

自民:田中委員…「民間事業者に乗せられて土地を買って失敗するのではないかという危惧がある。」
自民:多賀谷委員…「夢洲にかなり入りすぎているのではないか。鉄道を敷くというのは鉄道事業者としてやらなければならないが、ホテルなどの開発にのめり込んでいく印象だ。」
大阪メトロ側からは、「外部人材を積極的に採用することでノウハウを貯め、慎重に進めて、リスク管理をしていく。」「専門家にも入ってもらってやっている。様々な場合も想定し慎重にやっていく。」とは答えているもののリスクは、想定しないような形で発現するものである。

 この度のコロナ禍を受けて、インバウンドは4月5月で99.9%の落ち込みだと言われている。全国的には観光の2割がインバウンドで、8割は国内であることからインバウンド減の影響も耐えうる範囲であるという見方がある。

しかし、大阪はインバウンド、とりわけ中国との関係が非常に大きな割合を占めており、コロナ禍による観光関連産業に対する影響は甚大である。これに加えて、鉄道事業としては、人口減少のほか、コロナを機にテレワークやネットによる買い物が定着すれば通勤や買い物での利用者が減少となり大きな痛手となる。

 これまでの鉄道事業に依存した収益構造からの脱却として不動産事業を加速させることを考えてきたのだろうが、今回のコロナのような急激な変化は誰が予測できたであろうか。

大阪メトロが特区民泊事業を進めてきた新世界界隈においても、倒産案件などが見られる。2020年のドバイ万博も一年延期となり、2025年の大阪・関西万博についても当初の予定からの変更もあり得るし、IR誘致の状況に至っては現状見通しが立たないというのが現実ではないだろうか。

中期経営計画の中では、今年度から、「将来に向けた本格的な成長」に乗り出すとして、その一つに、「経営安定化のための事業多角化を加速」を掲げている。

 民営化されたことによって、柔軟に多角化経営を自律的に進めていくことは必要なことではあるものの、景気に左右され大きなリスクを伴う不動産事業に、今、大きく舵を切ろうとしている点については、見直す必要も出てくるのではないかと思われる。

 いみじくも中期経営計画のなかに、「ブレーキ・アクセル両面の経営」と書かれている。上述の「外部人材」については、それぞれ思いがあっての入社であろうことから主にアクセル役であろう、私としては、民営化の経緯・背景が身に染みてわかっている交通局出身者に冷静にブレーキ役を担ってほしい。

ある意味、ブレーキ役は専門の外部人材を説得させるだけの知識とそれに伴う責任が伴うことから、非常に難しい役回りであり、また人望もいると思われる。そして、その基盤となるのが、公民問わず、組織としての風通しのよさであろうが、言葉では簡単だが、どのような組織でも難しい中、元市職員、外部人材が交錯するおり、非常に難しい状況ではないのだろうか。

また、中期経営計画のなかでは、昨年度のような財務計画が示されていない。これは、大阪メトロにおいても、コロナによる影響について先行き不透明感がでているのではないであろうか。それ自体は誰も責められるものではなく、現状に沿った数値を新たに示せばよいと思う。

万が一にも、目標数値ありきで、収入が減ることを補うため、鉄道事業において過度の経費削減を行い、将来的に、大阪メトロの根幹である「安全・安心」に影響を与えることは絶対にあってはならない。

大阪市出資100%の株式会社の強み

 他の電鉄会社に比べ不動産事業をはじめ多くの事業は後発組ではあるが、大阪メトロは大阪市出資100%という、まちづくりにとって最大の強みを持っている。
地方公営企業ではないことから、市民代表である大阪市会の議会の議決というフィルターはないものの、100%大阪市出資である株式会社である現状を踏まえて、顧客であり、ある意味において株主でもある市民代表の声に真摯に答える株式会社として、大阪メトロというブランドを大切に、またその強みを活かして、着実に歩みを進めていってもらいたい。 

<参考>
7月9日 日本経済新聞

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