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池上彰氏が解説 コロナ禍での中国の圧力をどう見るべきか

武漢では全市民にPCR検査を実施(AFP=時事)

中国は周辺国への圧力を強めている(池上彰氏)

 新型コロナウイルスは、公衆衛生上の問題から、いまや国際政治のパワーバランスにも影響を及ぼすようになっている。特に大きな動きが起きているのが、ウイルスを拡散させてしまった中国だ。各国が感染対策に追われている中で、中国は周辺国への圧力を強めている。ジャーナリストの池上彰氏が解説する。

【写真】「中国は周辺国への圧力を強めている」と語る池上彰氏

 多くの国々でコロナウイルス禍は収束していませんが、こうした危機のときに、その国の本質が現れることがあります。近著『池上彰のまんがでわかる現代史 東アジア』では各国の動きについて指摘していますが、ここでは中国について見てみましょう。

 2019年暮れに中国・武漢で発見された新型コロナウイルス感染症は、これに気づいて注意を喚起した医師が警察によって口封じされるなど初動が遅れ、世界に拡大しました。

 中国国内で徹底した都市封鎖を行って収束させると、一転して世界に対して「マスク外交」を繰り広げます。欧州やアフリカに対してマスクや医療用防護服を送り、「中国は感染防止に貢献している」というイメージづくりを進めています。

 ところが、ヨーロッパに送られたマスクや防護服に不良品が多く見つかり、中国への不信感が広がって中国に苦言を呈する政治家が出ると、各国に駐在している中国大使たちは、猛烈な勢いで、これを攻撃しています。

 イタリアでは、「中国に感謝しよう」というメッセージがSNSで拡散し、中国に好意を持つ人が増えたという世論調査の結果が出たのですが、その後、このSNSは中国が仕掛けた世論操作であることが判明しました。

 新型コロナウイルスを世界に拡散させてしまった責任を回避しようとする動きは露骨で、かえって中国に対する反感が高まっているのです。

 世界を驚かせたのは、オーストラリアに対する嫌がらせです。オーストラリア政府の閣僚が2020年4月、新型コロナウイルスがどのように感染を広げたか、独立した調査機関による調査が必要だと発言したところ、中国が反発。5月になって中国はオーストラリア産の牛肉の一部を輸入停止にしました。理由は「検査の条件に違反が見つかった」という曖昧なものでしたが、これによりオーストラリア産の牛肉の約4割が中国に輸出できなくなりました。オーストラリアにとって、中国は牛肉輸出の最大の相手国。オーストラリア国内に動揺が広がりました。

 さらにオーストラリア産の大麦に80%もの関税をかけると発表しました。中国は、オーストラリアの調査要求とは無関係だと説明していますが、誰も信じていません。「新型コロナウイルスに関して調査を求めると、こんな打撃を受けるのだ」ということを世界に知らしめたのです。こうなると、ほかの国もうっかり「調査」を言い出せないというわけです。

 さらに中国は4月、南シナ海の南沙諸島(スプラトリー諸島)を管轄する行政区を新設しました。南シナ海はそもそも公海です。その一部に関してベトナムやフィリピンが自国の領海だと主張していましたが、中国政府は「南シナ海は中国の領海」だと一方的に宣言し、サンゴ礁を次々に埋め立てて島を造成。軍事基地を建設してしまいました。この行動に対しては、ベトナムやフィリピン、さらにアメリカが強く非難してきました。

 ところが、各国が新型コロナウイルス対策に追われている隙を突く形で、南シナ海の支配を強めているのです。

 それだけではありません。香港に対する締め付けも厳しくしています。香港は1997年、イギリスから中国に返還されました。このとき中国は、香港に対して「一国二制度」を適用し、50年間は香港に中国の法律は適用せず、言論・表現・報道の自由を認めると宣言しました。中国国内では中国共産党によって、こうした自由が制限されていますが、香港は特別扱いすると言ってきたのです。

 ところが、香港で民主化運動が盛り上がると、中国政府は、この運動を「暴動」と決めつけ、香港政庁に対して取り締まりを強めるように圧力をかけてきました。

 そもそも香港の憲法にあたる「香港基本法」では、香港で適用される法律は香港の議会である立法会が制定すると定められているのに、中国の国会に当たる全国人民代表大会が5月、香港の立法会の頭越しに「国家安全法」の制定方針を採択し、6月末に法案が可決されました。

 この法律は、中国政府に対する「反逆、分離、扇動、転覆」を禁止するというものです。今後は、たとえば「中国政府は香港の民主化運動に介入するな」と香港で主張することが、中国政府に対する「反逆」や「扇動」に該当すると判断されかねなくなったのです。事実、法律が施行された7月1日にはこの法律に違反したという疑いで10名が警察に逮捕されました(それ以外の法律に違反した疑いで360名も逮捕)。

 このように「中国に逆らうことは許さない」という大国意識をむき出しにしているのが、いまの中国です。そこには、かつて帝国主義列強の植民地にされていたことへの被害者意識と、経済的に大国になったことへの自信が入り混じった意識が見えます。

「中国への批判は許さない」という強硬な姿勢は、自国への自信のなさの裏返しとも見ることができます。

 アメリカと中国の狭間にあって、立ち位置に困る日本。まずは中国の現代史を知ることが大切です。

【プロフィール】いけがみ・あきら(ジャーナリスト)/1950年長野生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、1973年にNHK入局。報道局社会部記者などを経て、1994年4月から11年間にわたり『週刊こどもニュース』のお父さん役を務め、わかりやすい解説で人気を集める。2005年にNHKを退職し、フリージャーナリストに。名城大学教授、東京工業大学特命教授。愛知学院大学、立教大学、信州大学、日本大学、順天堂大学、東京大学、関西学院大学などでも講義する。主な著書に『伝える力』『知らないと恥をかく世界の大問題』など。近著に『池上彰の世界の見方 インド』『池上彰のまんがでわかる現代史 東アジア』がある。

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