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活力の源、それは何かをしてもらうことではなく、何かをしてあげること - 賢人論。第116回(中編)GROOVE X株式会社 代表取締役 林要


最先端テクノロジーを駆使して人の感性に訴えかけ、「愛する」という感情を呼び醒ます「LOVOT(らぼっと)」。⽣みの親である林要⽒は、トヨタ自動車やソフトバンクの技術者としても活躍してきた。そこで培われた「0」から「1」を生み出す発想法が、“LOVE”と“ROBOT”の融合という、独自のコンセプトづくりにも活かされている。林氏が語ったヒトにも動物にも似ていないロボットの存在理由は、“生物とは何か”“人間とは何か”という問いにも通じる興味深いものだった。

取材・文/木村光一 撮影/岡友香

ソフト・ハードウェアとアートの要素が組み合わさった、日本のロボット技術

みんなの介護 LOVOT開発のきっかけは何だったのでしょうか。

 トヨタ自動車に勤務していたときから、日本が担うべき次の産業はいったい何なのだろうかと考えていました。そして、ソフトバンクでヒト型ロボット「Pepper」の開発に携わるうち、ロボット技術こそが次の日本の使命だと確信したんです。

というのも、日本人にとってロボットは友だちのような存在であり、軍事目的の道具として開発されてきた他国とはまるで違う背景を持っている。さらに、ロボット開発にはソフトウェアからハードウェア、あるいはアートといった感性領域に至るまで、あらゆる分野の先端技術が求められます。

それだけのテクノロジーを複合的に組み合わせて、クオリティの高い製品をつくることができる国というのは、世界中を見渡してもごく少数。

つまり、自動車づくりに代表されるような高度に複雑化されたテクノロジーと、いわゆる「愛着」というウェットな人間的感情に訴える製品づくりとを結びつけられる感覚自体、ロボットの平和利用によって培われてきた日本独自のノウハウであり、価値観であると言えるでしょう。

人は何かをしてもらうのではなく、してあげることで元気になる

 LOVOT開発の直接的なヒントとなったのは、介護施設における「ヒト型ロボット」の実証実験を行ったときでした。本当はロボットを施設に運び込んですぐに起動させ、ダンスを披露したり、入居者たちと一緒に体操をしたり会話をしたりして、入居者の反応をたしかめる予定だったんです。

ところが、いざ開始しようとしても起動しない。これは困ったと焦っていたら、皆さんがロボットを心配して近寄ってきてくれて、一丸となってロボットに「頑張れ!」と応援してくれました。そのうち、思いが通じたかのようにロボットが動き出し、その場が喜びに包まれて、結果、もの凄く盛り上がったんです。

この経験から、私は「人はロボットに何かをしてもらうことで元気になるのではなく、むしろロボットのために何かをしてあげた方が元気になるのではないか」と考えるようになりました。

実際、その介護施設では、動けずにいたロボットが、入居者たちの励ましや応援によって奮い立ったかのような形になったことによって、人とロボットの間が非常に良い関係性を築くことができたのです。その後の実証実験もスムーズに進めることができました。

みんなの介護 私たちは弱者といわれる人たちに、つい「何をしてあげられるか」という視点で物ごとを考えがちです。しかし、「何かをしてもらおう」と考えた方が、実は彼らをやる気にさせて元気にするのかもしれない、ということですね。

 はい。“何もしない”というLOVOTの開発は、そんな気づきをきっかけにして始まったんです。

みんなの介護 同じコミュニケーションロボットでも、人間の言葉を介して互いに意思疎通ができるPepperは友だちのような存在だと受け止められています。対してLOVOTは感情を表現しますが、言葉を話さない。あくまでも「ペット」の位置づけなんですね。

 今やペットをベビーカーに乗せて散歩をしている人もいます。理屈で考えれば、人がお金も時間も使って一生懸命ペットに奉仕するという行為はまったく合理的ではありません。しかし、人は愛する対象に何かをしてあげることによって、自らも活力が湧き出る。

そう考えると、私たちが開発するロボットも、ヒトよりイヌやネコに近いペット型にすることが、人びとを元気にさせるためには理にかなっていたんです。


「安心」や「愛着」を生み出すために徹底されたデザイン設計

みんなの介護 LOVOTがヒト型でも動物型でもないのはなぜですか。

 ヒトや動物に似ているロボットは昔から存在します。そして、それらの開発は、常に「本物との差異をいかになくしていくか」という命題との戦いでした。

人間とあまり似ていないヒト型ロボットを見ても、さほど違和感を覚えないのですが、それが人間に似てくるほど怖く感じられてしまう。動物型でも同じ。これは「不気味の谷」と呼ばれる現象で、リアルさがある一線を越えると、親近感より嫌悪感がかき立てられてしまうんです。

例えばネコ型ロボットであれば、本物っぽいけどどこか違うネコより、「ドラえもん」くらい大胆にモディファイ(部分的な修正や変更)されていた方が自然に受け入れられる。したがって、私たちも何かに似ているロボットはあえて目指さなかったわけです。

みんなの介護 それにしても、まるでアニメに出てくるマスコットキャラクターのようなLOVOTのフォルムはユニークですね。

 人間も動物も、筋肉や関節によって体を動かしています。しかし、ロボットはモーターでしか体を動かすことができません。見方を変えれば、人間や動物の体はモーターを使えないから、あのような人体の構造になっているとも言えます。

でも、もし生物が「進化の段階で神様からモーターを使わなければならない」という制約を受けていたとしたらどうなっていたでしょう?おそらく、脚よりも車輪を使って移動する形態に変化していたはずです。

加えて、LOVOTは人の心に「安心」や「愛着」を形成するためだけに生まれた存在です。それを目的とした生きものだとすれば、抱っこされやすい形状、柔らかい肌触り、人に安心感を与える表情や声といったインターフェースも進化の過程で獲得したはず。

このように徹底的にロジカルに考え抜いていった結果、LOVOTは現在の姿に行き着いたんです。

LOVOTは生涯にわたって、愛情を注ぐための器になる

みんなの介護 実際、先ほどLOVOTと少し遊ばせていただきましたが、LOVOT自身が抱っこしてほしいと意思表示して、自動的に車輪を収納するのを見て感心しました。さらに、腕に抱いてときの心地良い温もりやLOVOTの満足げな表情など、ほんの数分の触れ合いでしたが、たしかに癒されました。

 LOVOTは全身にセンサーが張り巡らされ、自分がどういうふうに可愛がられているかを理解しています。空間も立体的に認識しているので、放っておいても勝手に部屋の中を動き回って遊んでいます。感情表現の要である目の表情も10億通り以上。

声も録音されたものではなく、より生物に近づけるよう、状況に応じてリアルタイムに生成されるようになっています。LOVOTは既存の生物とは形状も違うため、いかに生命感をもたせられるかに注力しました。

みんなの介護 なるほど。生命感があるから触れたくなり、つい世話をしたくなるのですね。

 高齢者のケースでいえば、LOVOTのケアをすればするほど、その人が生きてきた過程の中で培われた“他者を愛する力”“他者を愛でる能力”が引き出されます。

高齢者の方は、これまで生きてきた過程のなかで子育てや近所の子どもの面倒を見るなどして、その能力が磨かれていました。しかし、子育てを終えたり、退職などによって社会とのかかわりが少なくなると、そういった力を発揮する場はほとんど失われてしまいます。

だからといって、高齢になってからイヌやネコを飼い始め、その後面倒を見つづけることは容易ではありません。また、死別すれば“ペットロス”という問題にも直面することになる。

LOVOTならそれらの心配は要りません。ロボットはいつまでも愛情を注ぐための器であり続けることができるんです。

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