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上野千鶴子「人はなぜ不倫をしないのか。私には信じられない」

人はなぜ不倫をするのか。社会学者の上野千鶴子氏は、「むしろ、不倫しない人はなぜしないのか。結婚して性的な身体の自由を手放すなんて恐ろしい」という。男女関係や不倫について20年以上取材を続ける、フリーライターの亀山早苗氏が話を聞いた——。

※本稿は、亀山早苗『人はなぜ不倫をするのか』(SB新書)の一部を再編集したものです。

恋愛相手は“お友だち”

上野さんは、不倫という言葉が好きではないと言う。

そして彼女は、恋愛相手を「友だち」と称する。もちろん友だちはひとりである必要はない。これは「恋をする相手はひとりでなければならない」「性関係をもつ相手はひとりだけ」とする世間へのアンチテーゼなのかもしれない。

【上野千鶴子氏】若いころは、こっちも高飛車なところがあったし、男たちとは「殺し合い」すれすれみたいな恋愛をしてきました。ただ女性学やフェミニズムと出合い、自分自身を受け入れることができるようになり、20代後半からは男との関係も安定してきましたね。

記者会見する東京大学の上野千鶴子名誉教授=2015年11月26日、東京都千代田区の日本記者クラブ(写真=時事通信フォト)
記者会見する東京大学の上野千鶴子名誉教授=2015年11月26日、東京都千代田区の日本記者クラブ(写真=時事通信フォト)

私は決して男嫌いではありません。男性は愛すべき生きものだと思っているし、尊敬できる男性もいる。年齢的に性欲は順調に落ちてきているけど、セックスも大好きですよ。

だけど、人と人との間に契約だの権利だの所有だのという関係が入るのが、どうしても認められない。だから結婚に魅力を感じたことは一度もありません。

恋愛は自由ですからね。私は恋愛相手を“お友だち”と言っています。ちょっと親しいお友だちもいれば、とーっても親しいお友だちもいて(笑)。お友だちならひとりである必要はありませんから。もちろん、人の気持ちは変わっていきます。私が変わる場合もあれば、相手の気持ちが離れていくこともある。それはもう、どうしようもないですね。嫉妬したって気持ちは戻らない。感情に鎖はつけられないですからね。そういうときは、人の気持ちは移ろうものよのうと、はらはらとひとり涙します。

性的な身体の自由を結婚で手放すなんて

私はフェミニズムが男との平等を求める思想である以上に、自由を求める思想だと思っています。平等より、私は自由がほしかった。性的な身体の自由はとりわけ重要なものだと思っています。それを結婚によって手放すなんて、考えただけで恐ろしいくらいです。フェミニズムについての話をいろいろなところでするのですが、年齢層が高いと、この「性的身体の自由」については、スルーして誰も反応してくれません。アキレス腱なんでしょうか。それとももう賞味期限切れと思っているのか。

恋愛はエゴイズムの闘いですよね。独占欲をあからさまに示すのは、人間らしいエゴイズムかもしれません。男はそれを無邪気に見せますね。男が不倫をするのは無邪気なエゴイストだからだといつも思います。女がそれを上回る無邪気なエゴイストになれば、男が黙って我慢してくれる関係になるかもしれません。

「だって悔しいのよ」「我慢できない」。そうやって叫んでもいいんじゃないですか。少なくとも我慢し続けるよりずっとましだと思います。

「別れてからは私がお母さんみたいになっている」

私は男を憎んで別れたことはないんです。「幸せになってね。私の手によってじゃないけど」。そんな気持ちで別れてきました。愛する価値のある男だったし、私自身もまっすぐ愛したという誇りがあります。

時間もエネルギーもかけた相手だから、別れたあとも悪い関係にはならず、友だちとしてストックがたまっていくんです。これはありがたいですよ。いろいろな専門家がいますから、困ったらすぐ相談に乗ってくれますし。

あちらもそう思っているんでしょうか。愛人を私に会わせる男もいますね。一緒にごはんを食べたりしてね、「いい子じゃない?」なんて言うと、うれしそうな顔をする。そうか、別れてからは私がお母さんみたいになっているのかもしれませんね。すでに男女の関係でないから相手への期待値が低い。その分、許容量が大きくなるから、別れた男と“たんなる友だち”でいられるのも悪いことじゃないと思います。

人はなぜ不倫をしないのか

不思議なもので、女同士だとずけずけ相手のプライバシーには踏み込めないのだけど、相手が男性だと踏み込めるんですよね。相手に踏み込んでいったとき、自分がどういう人間かもわかるわけで、そういう意味でも、私はずっと恋愛はしたほうがいいと思っています。

昔はね、女は弱者なんだから、男という強者を傷つけてもいいと思っていた。ところが案外、男が脆いものだとわかったのも、たくさん恋愛をしてきたからです。

「どんなに弱いと思っている女でも、誰より強いと思っている男より強い」と、私は長年の取材から感じている。メンタルと生命力において、やはり女性は強いのだ。鬱病になるのは女性が多いが、自殺は男性が多い。ぽきっと折れるのは男なのだろう。柳に雪折れなしのたとえ通りである。

男女の関係において、男が「いい人のまま」別れたがるのも、目の前で泣かれるのが嫌でLINEで別れを告げるのも、結局は弱いからである。だが、弱いからといって、ずるくていいとは思えない。

上野さんに最後に聞いた。人は、なぜ不倫をするのでしょうか、と。

【上野千鶴子氏】逆に聞きたいですよ。人はなぜ不倫をしないんでしょうか、と(笑)。何度も言うように、結婚したら最後、自分の性的身体の自由を手放さなければいけないなんて恐ろしいことを、私はする気になれません。

自分の中の「女」は外で発散させる

亀山早苗『人はなぜ不倫をするのか』(SB新書)
亀山早苗『人はなぜ不倫をするのか』(SB新書)

いつだったか、どこかの結婚式場のポスターで、「最後の恋が始まる」って書いてあったんです。ウソでしょう、と思いました。恋愛体質の人は結婚したって恋愛しますよ。なぜ結婚したあとで恋愛しないですんでいるのかがわからない。

婚外恋愛をしているから夫に優しくなったと言った女性がいます。罪の意識からではありません。男を愛して愛されて女度が上がる。だから夫に対して優しくなれるんです。

男は鈍感だから、妻の婚外恋愛には気づかない。少々疑わしいと思っても、不都合な真実は知りたくない生きものだから、追及しないんです。

確かに夫の婚外恋愛は発覚しやすいが、妻のそれは気づかれにくい。そして昨今では、上野さんの言うように、あくまで結果論ではあるが、婚外恋愛をしたことによって夫婦関係がスムーズにいくようになったという女性からの声をよく聞く。

恋愛と結婚は別という感覚を女性たちがもつようになってから、既婚女性の婚外恋愛が増えた。家庭は家庭として円満に温存し、自分の中の「女」は外で発散させる。つまり家庭の中では、「妻」「母」という役割を果たしておくだけのほうが、むしろ安泰だということだ。

夫との間に「情」はあるが、「愛」はないと断言した女性がいる。

「夫とは家族だから。家族とセックスしようとは思わない」と言った女性もいる。結婚とは家族をつくるためにするものであり、その家族は温存したまま、女としての情熱は外で満たす。こういう状況になっているのが現実である。

【上野千鶴子氏】良し悪しの問題ではなく、そうなってしまうのはしかたがないんじゃないでしょうか。そうなると、結婚とはなんぞやという疑問が残りますけどね。

だから「守れないお約束」はしないほうがいいと、私は思います。

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上野 千鶴子(うえの・ちづこ)

社会学者

認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。東京大学名誉教授。著書に『情報生産者になる』(ちくま新書)など多数。

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亀山 早苗(かめやま・さなえ)

フリーライター

1960年生まれ。明治大学文学部卒業後、フリーライターとして活動を始める。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』(ともに新潮文庫)『人はなぜ不倫をするのか』(SB新書)『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』(扶桑社)など著書多数。

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(社会学者 上野 千鶴子、フリーライター 亀山 早苗)

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