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コミュニケーションの目詰まり

 COVID-19対策を当地北九州市で見ていて感じるのは、権限のずれから来る様々な目詰まりです。

 これは「誰が悪い」という事ではなく、権限がずれれば、そのずれた分だけ円滑なコミュニケーションにハードルが生ずるという事です。そして、その結果、具体的な対応にも負の影響が出ます。

 福岡県では、3月下旬、突如県知事が外出自粛を要請しました。事前に根回しが無かった事があり、福岡市長が苦言を呈していました。そして、その意趣返しなのだろうと思うのですが、休校期間については福岡市が先行する形で4月17日までと発表しました(その後、北九州市も4月17日までと決定)。

 その後、福岡県は5月6日までを休校期間としました。最終的には緊急事態が発令されたので、実際に休校期間がずれる事はありませんが、一旦意思決定してから緊急事態が発令されるまでは、県立学校と市立学校の間で休校期間のずれが生ずる事を前提に色々な準備が行われました。

 学校現場の話を聞くと、かなり振り回された事は容易に見て取れました。

 この背景には、道府県と政令指定都市の教育委員会がそれぞれ完全に独立しているという事があります。最近までは政令指定都市の市立学校教員の給与は県が支払っていたという事があり、定員配置等で県の影響があったのですが、それは地方分権改革で無くなりました。

 したがって、完全に独立しているので休校期間も独立の判断だったという事です。

 また、長崎県ではクルーズ船感染者の対応において、県と長崎市(保健所政令市)でどちらがメディア対応をするのかで揉めたそうです(ココ)。

 県からすれば「長崎市の保健所が対応しているのだから、第一情報を持っている方が対応すべき。」という事でしょうし、市からすれば「県全体の対策本部長は県知事」という事だったのでしょう(どちらが間違っているという事ではありません)。

 多分、この手の話は、規模の大小はあれ、ほぼすべての都道府県で生じていると思います。

 本来、保健行政は広域で都道府県がやる事が想定されているのですが、各都道府県には一部を除いて保健所政令市(政令によって保健所を設置している市)があります。市が設置する保健所は、当該市の長の管轄下にあるので、県の広域行政の枠から少し外れます。

 実際、福岡県でも県の保健所と保健所政令市の保健所とのコミュニケーションに苦労している話を何度か聞きました。

 あと、東京都は23区すべてに区設置の保健所があり、かつ、八王子と町田は保健所政令市なので、都の保健所が管轄する地域というのはかなり限られます。最近の週刊誌で、担当大臣から保健所間の対応の目詰まりを指摘された都知事が「それは自分の管轄ではない」と答えたとされていました。

 その真偽を確認する術はありませんが、都知事からすると、自分が管轄しない保健所が全特別区+八王子、町田の25自治体にあるというのはやりにくいんじゃないかなと思います。

 今回の対策のベースとなる新型インフルエンザ等対策特別措置法は、都道府県知事に権限を集中させるという理念が大前提にあります。

 しかし、上記のように都道府県教委から完全に独立した教育委員会を持つ政令指定都市、そして、保健所政令市の存在は都道府県対策本部長としての都道府県知事の対応の中で苦慮する所です。簡単に言うと、都道府県対策本部長が手出しできない領域がかなりあるという事です。

 そして、そこにコミュニケーションの目詰まりが生じ、それが対応そのものにも影響してしまっています。

 実はこの2件(教育、保健所)については、法律を作る時に全国知事会から指摘されていたものです。私は詳細をよく知りませんが、当時の資料を見ていると「多分、大阪府からの指摘じゃないかな。」と思います。都構想の原点には「府と政令指定都市との権限関係の整理」という面があります。

 なので、このような点がとても気になったのでしょう。今となってみては、大阪府の慧眼だなと思います。しかし、最終的にこの指摘は新型インフルエンザ等対策特別措置法には結実しませんでした。

 このまま放置しておくと、また、同じ事が起き得ます。例えば、現在の法律においては、また、同様の事態が起きた時に一つの都道府県内で休校期間がずれる可能性を防ぐ仕組みは一切存在しません。

 どうすればいいのかなと考えてみました。まず考えたのが、緊急事態発令時には政令指定都市の教育委員会や保健所政令市の保健所は、都道府県の指揮下に入るというアイデアです。法の仕立てが都道府県知事に権限を集中させるというものなので、それをより突き詰めるという発想です。

 ただ、書いてみて「そんなものは絶対に上手く行かない」と思いました。多分、政令指定都市や保健所政令市からの理解は得られないでしょう。

 もう少し考えて、私は「コミュニケーションの場を法定してはどうか?」という結論に行き着きました。つまり、法律によって、都道府県知事と政令指定市等の首長、都道府県教委と政令指定都市教委、県保健所と保健所政令市保健所の協議の場を作るという事です。

 コミュニケーションがきちんと流れるだけで解決する話はたくさんあります。例えば、福岡県での休校期間のずれのような話は、きちんと協議をする場を法定しておけば多分生じなかったと思います。

 具体的には、① 都道府県対策本部の本部員として「政令指定都市の長その他の本部長が指名する市長村長」を加える、② 県教委と政令指定都市等の教委の協議の場を設け、休校措置等を取る時には必ず開催する、③ 都道府県保健所と保健所政令市保健所の協議の場を設ける、といった事です(勿論、協議自体はオンラインで可)。3つとも協議の場の設置です。

 お互いが仲が悪くても、法律で強制的に顔を合わせて話をする事が決められていたら、さすがに最低限のコミュニケーションは成立します。その中で情報交換も出て来るでしょうし、サプライズ的な事、平場での権限争い的な事はやりにくくなります。

 多くの分野での改善が見込まれるのではないかと思います。これであればカネは掛からないし、多分、全国の自治体の長からの賛同は得られるのではないかなと思います(困っている首長は多いはずですから)。しかも、内容自体はシンプルなので法律改正案はそんなに難しくありません。

 私の案がベストと言うつもりはありません。ただ、教育や保健といった分野でコミュニケーションの目詰まりを起こしている事は事実です。それを少しでも解消出来るのであれば何でもいいです。

 今のままでは、例示したような歪な事がまた起きる事を防ぐ事はできないわけですから、早急に法改正でやってほしいと思います。

(なお、この手の話を基本的対処方針とか、ガイドラインで対応するのは不可です。こういうのは法定しないとやらない所が必ず出ますので。)

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