記事

「不祥事芸能人の出演シーン」をカットしなかったフジテレビはえらい

2/2

犯罪よりも重く見られる倫理的な不祥事

つまり、私が思うに「罪の重さ」とテレビから「消す・消さない」は関係ない。もっと言えば「犯罪をしたかどうか」すら「消す・消さない」とは関係ないのだ。

基準となるのは、「誰かに迷惑をかけたか」とか「多くの視聴者が不快に思ったかどうか」という点だ。「犯罪や刑罰とは別の基準」を基に不祥事を起こした芸能人はテレビから消されているのではないだろうか。

許される基準も、「服役を終えた」「示談をした」「不起訴になった」といったものではなく、別の「もっと気分的な何か」が決めているように思える。だからこそ、実際に刑事事件を犯して罰されたものよりも、不倫や闇営業で反社会的勢力から報酬をもらったという、倫理的な問題にとどまる不祥事の方が、長期間にわたって消され続け、復帰が許されないという事態が起こるのではないかと思う。

言ってみれば、「視聴者が見たくない人物はテレビの画面から消す」という単純な話になってしまうわけである。テレビはマスメディアだから、視聴者が見たくない人物がテレビに出演できないのはある意味当然だ。しかし、ここがこの業界の闇深いところでもある。

世間の空気が決める「消す基準」「許される基準」

私が「闇が深い」と考えるのには理由はある。それは、「視聴者の見たくない人物」を誰がどのように決めているのか不明確だからだ。乱暴に言ってしまえば、「メディアに関わるオジサンたちがみんなで忖度」して、「視聴者が見たくない人物」が誰なのかをなんとなく決めてしまっているという状況にあるということだ。

だから私は、むしろはっきりと「テレビから消す基準」と「許す基準」をはじめから明文で決めた方がいいと思う。この文章の最初の方に書いた「誰にも基準が分からない」ということが一番の問題なのだ。

スポンサーサイドの偉いオジサンと、テレビ局の偉いオジサンと、芸能事務所の偉いオジサンが額を寄せ合って、世間の空気を忖度し、「まあこのくらいまでなら許容範囲で、このあたりからアウトでしょう」と曖昧にケースバイケースで決めてしまう。だから若い人の考え方や、世間一般の人たちの気持ちとは温度感がしばしばズレてしまい、「テレビの対応がおかしい」という非難の声が起こるのだという気がしてならない。

視聴者の多くは、不祥事を起こした人物にしばらくテレビの仕事をさせないことは当然のことと受け入れていると思う。しかし、「不祥事を起こした人物が過去にした仕事」をすべて抹消することまでは望んでいないのではなかろうか。

再放送が望まれる過去の名作ドラマや名作バラエティに、不祥事を起こした芸能人が出演しているからといって再放送をしないとか、その人物をカットして編集し直すとかいうのは、明らかにやりすぎなのではないかと思う。

作品をお蔵入りさせても正義は実現できない

過去を振り返れば、昭和の大物俳優には不祥事を起こす人が今よりも多かったと思うが、その名優たちが出演した作品まで封印することはしてこなかった。そういう意味では、年々テレビから不祥事芸能人を「消す」基準はどんどん厳しくなってきている。

昔よりコンプライアンスという考え方が広がり、テレビ局も上場企業になったところも多く、「おおらか」な対応ができなくなっていることもあるだろう。しかし、曖昧な基準で「世の中の空気に忖度」してテレビから葬り去れば、コンプライアンスを遵守したことになるわけではない。

不祥事を起こした芸能人が過去に出演した作品に罪はない。ましてや何の落ち度もない共演者や制作スタッフが煽りを喰らって、心血を注いで作った作品が「2度と日の目を見ない」ようになることが、正義の実現とは思えない。

テレビ局側は、まず明確な基準を設けて作品を公開し、非公開や再編集をするなら、その理由を明らかにするべきだ。

不祥事芸能人をはじめから居なかったものにするのではなく、テレビから消し去る以外の方法も検討するべきだと思う。例えば、カットせず不祥事を起こした人物には報酬を辞退してもらって、慈善事業に寄付してもらうのも選択肢の一つだ。そうした明解な対応をすることで、テレビに対する根強い不信感も少しは減るのではないかと、私は思う。

一度の過ちでテレビの画面から葬り去るべきではない

本稿では最後に、視聴者のみなさんにも「不当に文化を葬り去らない」ためにいくつかのお願いしたい。まずは、「罪を憎んで人を憎まず」というが、芸能人のみならず過ちを犯してしまった人に立ち直りのチャンスを与えてあげてほしい、ということだ。1アウトを取られただけにもかかわらず、もう2度と打席に立てない。そんな社会でいったい誰が幸せになれるのだろうか。

そして、ぜひテレビ局をはじめ、様々なメディア企業に対して「出演者の不祥事で作品を葬り去ったり、改変したりしないでほしい」という要望の声を事あるごとにあげてほしい。

僕がテレビ局に入社したての90年代初頭には、テレビ局にかかってきた抗議の電話に対して、「嫌なら見ないでください」と答えている上司がいた。メディア職員の対応としてはこの対応は誤りだと言わざるを得ないが、そこには一抹の真理もあると思う。

自分が嫌な番組は、見なければいい。「この人は過ちを犯したから不快だ」と思うなら、見ないというのも一つの意思表明だ。見ない人が多ければ、その出演者はいずれ淘汰される。

しかし、豊かな社会と文化は、様々な人間の多様性を認めた上に成り立つものだ。「この人は過ちを犯したけれども、私はこの人が出演するテレビを見たい」という人が多ければ、その出演者に再びチャンスが巡ってくる。

そんな社会こそ、成熟した豊かな社会といえるのではないだろうか。

----------
鎮目 博道(しずめ・ひろみち)
テレビプロデューサー・ライター
92年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教関連の取材を手がけた後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島取材やアメリカ同時多発テロなどを始め海外取材を多く手がける。また、ABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」、「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、放送番組のみならず、多メディアで活動。上智大学文学部新聞学科非常勤講師。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルをライフワークとして研究、記事を執筆している。 Officialwebsite:https://shizume.themedia.jp/ Twitter:@shizumehiro
----------

(テレビプロデューサー・ライター 鎮目 博道)

あわせて読みたい

「フジテレビ」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    中等症めぐり政府の揚げ足を取る毎日新聞 いい加減な記事を出すのは許されるのか

    中村ゆきつぐ

    08月04日 08:26

  2. 2

    強行放送!緊急事態宣言下の24時間テレビは「ジャニーズ祭り」

    渡邉裕二

    08月04日 08:04

  3. 3

    患者対応をめぐる行政と開業医の役割分担 国会議員がルール化する必要性を橋下氏指摘

    橋下徹

    08月04日 12:14

  4. 4

    環境省がエアコンのサブスクを検討 背景に熱中症死亡者の8割超える高齢者

    BLOGOS しらべる部

    08月04日 18:05

  5. 5

    東京都心に住むコストをケチってはいけない

    内藤忍

    08月04日 11:37

  6. 6

    オリ・パラ後の新国立は誰のためのスタジアム? - 上林功 (追手門学院大学准教授)

    WEDGE Infinity

    08月04日 09:49

  7. 7

    菅政権の自宅療養方針に与党議員が批判?? 無責任な姿勢は最低なパフォーマンス

    猪野 亨

    08月04日 14:17

  8. 8

    コロナ禍で迷惑行為をするのは一部の人たち JR北海道も列車内での飲酒の自粛を呼び掛けよ

    猪野 亨

    08月04日 08:35

  9. 9

    有害な言論はどこまで警戒すべきか?

    元官庁エコノミスト

    08月04日 15:07

  10. 10

    五輪マラソンで札幌は再び医療崩壊の危機

    田中龍作

    08月04日 19:18

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。