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私たちは日常に戻れるのか パブや美容室を再開させた英国では無料の食品に長い列

[ロンドン発]新型コロナウイルスで感染者約28万4000人、死者約4万4000人と欧州最大の被害を出したイギリス。ボリス・ジョンソン英首相も感染し一時、生死をさまよう非常事態に陥りましたが、7月4日、ようやくパブ(大衆酒場)やレストラン、美容室も再開され、日常生活に一歩近づきました。ホリデーも解禁される見通しです。

感染を防止する安全距離は条件付きで2メートルから1メートルに緩和されたものの、自宅勤務が可能な就労者のリモートワークは継続されています。ロンドンの公共交通機関、2階建ての赤い色バスや地下鉄の乗客はまだ、まばら。リバプールが30季ぶりの優勝を果たしたサッカーのイングランド・プレミアリーグも無観客試合が続きます。

「7月は予約でいっぱい」美容室

美容室「アトリエ・セオリー」を経営する滝井淳さん(筆者撮影)

「7月はもう予約でいっぱいです。新型コロナウイルスでリモートワークという出勤しない生活様式が定着しました。日曜日にしか来店できないお客さまも少なくなく、当分、週7日、休みなしで営業する予定です。新型コロナウイルス対策の美容師オンライン講習も受け、再開日に備えました」

ロンドンの高級住宅街メリルボーンで美容室「アトリエ・セオリー(atelier theory)」を経営する滝井淳さんはこう話します。安全距離を保つため地下と1階の7席のうち4席だけを利用、シザーやコームは使用するたびアルコール消毒するため、1人当たりの接客時間を通常の1時間プラス消毒時間の15分と見込んでいます。

4日の開店前、滝井さんはスタッフとお客さまの誘導やガウンやマスクの着用などコロナ対策を入念にチェック。スタッフの表情も真剣そのもの。ヘアドレッサーとして1995年に渡英し、2010年に独立して共同経営の美容室を出しました。

「東京で腕を磨き、自分のキャリアアップを目指してロンドンにやって来ました。この街は世界に影響を与えるパワーを持っています。美容先進国として斬新なカットなど世界をリードしています。ヘアドレッサーなら一度はチャレンジしてみたい都市です」

外出禁止中、滝井さんは自宅でヘアカットができるように動画とカットする際の注意事項を書いて電子メールで配信したり、髪の毛が染められるようホームカラーキットを作って送ったり、大忙し。おしゃれな顧客の中には髪がボサボサになり、気分が落ち込んだ人もいたそうです。自宅に来てカットしてという要望も多く、断るのに大変でした。

お客さんにもマスクを着用してもらう(7月4日、筆者撮影)

ロンドンの美容室は毎年12月がかきいれ時で、1、2月は少し暇になり、3月に再び忙しくなります。今年は新型コロナウイルスの流行で3月の売り上げは40%ダウン。2万5000ポンド(約335万円)の助成金と従業員給与の8割をカバーしてくれる休業補償で都市封鎖の打撃を何とか乗り越えられました。

「スタッフは6人いますが、店が再開してもレイオフされるんじゃないかという心配もあったようです。LINEでざっくばらんに話したり、Zoom飲み会をしたりして不安を取り除くよう配慮しました。営業を再開しても感染者を出さないよう、お客さまとスタッフの安全確保のためベストの環境を整えています」

渡英して25年になるのでお年寄りや持病のある顧客もいます。そのため8月に入ったら状況を見て訪問営業も検討したいそうです。しかし滝井さんは「イギリスの欧州連合(EU)離脱より、本当に恐ろしいのは新型コロナウイルスの第二波です。第二波が来ると持ちこたえられるかどうか、心配です」と表情を曇らせました。

「何とかいけるんちゃうかな」

お好み焼き店「おかん」を経営するプリーストマン玄子さん(同)

30ポンド(約4000円)を元手に大阪風お好み焼き店「おかん」をロンドンで4店展開するプリーストマン玄(もと)子さんは商店街ブリクストン・ビレッジにある1号店に日本語で「おかん」と大書きした看板を設けました。ブリクストンは英ミュージシャン、デヴィッド・ボウイ(故人)の出身地として有名です。

「看板屋の父親に書いてもらいました。この2週間お持ち帰りの商売を先に再開させましたが、1日100人ぐらいのお客さんが来て下さいました。テーブルサーブすると、後で感染者が出た時の対策として代表者に名前と電話番号、電子メールのアドレスを書いてもらう必要があり、手間がかかります。とりあえず1号店は屋台形式でやってみます」

4号店は再開のメドが立たず、2、3号店はテーブルサーブするためQRコードをスキャンして注文をとるシステムを新たに導入しました。「とにかく前代未聞のことばかりで、誰に聞いても答えを知っている人がいません。しかし何とかいけるんちゃうかなと楽観的に考えています」と玄子さんは言います。

壁画の右側にブリクストン・ビレッジの入り口がある(同)

政府の休業補償が8割から7割、そして6割に引き下げられたら、解雇される就労者が増えてくる恐れもあります。「第二波がやって来たら今度は何の補償もないかもしれません。その時はお好み焼きやラーメンを冷凍食品として販売できないか、考えてみます」

安全距離の2メートルは困難な場合、対面着席の回避、レイアウト変更、アクリルボードやフェイスカバー使用などの対応策を条件に1メートルに緩和されました。「1メートルに緩和されて、かなりの経済効果があったと思います。半年後にどうなっているのか、飲食業がどういう風に変わっていくのか、今のところ想像もつきません」

「新型コロナで仕事とおカネがなくなった」

無料の食料品を受け取りに来る市民(同)

筆者の暮らすテムズ川の南、ランベス区。自宅のすぐ近くにあるポルトガル語系移民のコミュニティーセンターでは5月以降、毎週月曜日夕と木曜日夕の2回、食事や食料品が希望者に無料で支給されています。責任者マルコ・ロペスさんは「新型コロナウイルスで仕事とおカネがなくなり、食料が買えない人たちが急激に増えました」と言います。

ランベス区は2016年6月のEU国民投票では英本土の中で一番残留派が多く、78.6%を占めました。当時の人口は31万8000人で、年齢の中央値は32.4歳。アフリカ系10%、カリブ系11.5%で非白人が44%、白人が56%です。所得の中央値は2万6000ポンド(約350万円)とそれほど高くありません。

毎回ホームレスを含め200人前後が支給を受け、コミュニティーセンターの中で支給された食事や食料品をかばんに入れて持ち帰ります。筆者もミニトマトや根菜、冷凍食品、豆料理のお弁当をお裾分けしてもらい自宅でいただきました。自宅近くの遺体安置所の増設テントが撤去されたかと思うと、今度は別の場所にフードバンクが出現し、驚きました。

無料の食料品を準備するボランティア(同)

イギリス経済は今年、新型コロナウイルスの影響でマイナス11.5%、第二波に襲われるとマイナス14%も縮小すると経済協力開発機構(OECD)は予測しています。新型コロナウイルスは人間が活発に動き出すと再び感染を拡大させます。

「スーパーサタデー(4日は土曜日)」、パブは若者たちでにぎわいを取り戻しました。第二波を抑えながら経済をどこまで正常化できるのか、ワクチンや治療法が見つかるまで綱渡りが続きます。

【都市封鎖から解除に向けたイギリスの経過】

3月21日 パブやナイトクラブなど飲食店を閉鎖
3月23日 ジョンソン首相がテレビ演説で不可欠な買い物、1日1度の運動、エッセンシャルワーカーを除く外出禁止を発令。都市封鎖
4月3日 最大4000人収容のNHS(国民医療サービス)ナイチンゲール病院をウォーターフロント再開発地区の国際展示場に開設
5月10日 ジョンソン首相が「ステイ・ホーム(外出禁止)」のスローガンを「ステイ・アラート(警戒を怠るな)」に変更。スコットランド、ウェールズ、北アイルランドは変更せず
6月1日 学校を一部再開。6人までなら屋外での会合可能に。2メートルの安全距離は維持
6月8日 イギリスに入国、帰国した者は2週間自己隔離
6月15日 商業店や動物園、礼拝所が再開。公共交通機関を利用する際はマスク着用
6月17日 サッカーのイングランド・プレミアリーグが無観客で100日ぶりに試合再開
7月4日 パブ、映画館、レストラン、美容室が再開。安全距離を2メートルから1メートルに緩和
7月10日 ホリデー解禁。スペイン、フランス、ドイツ、イタリア、日本など59カ国から帰国しても2週間の自己隔離が必要でなくなる

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