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在宅勤務恒久化で「痛勤電車」から解放、追随する企業は?

緊急事態宣言後の4月、利用客が少ないJR渋谷駅(時事通信フォト)

午前8時台の通勤ラッシュで混む都営大江戸線の新宿西口駅のホーム(時事通信フォト)

ぎゅう詰めの車内に通勤客を押し込む国鉄職員。1967年新宿駅(時事通信フォト)

 2016年の東京都知事選で、小池百合子都知事が掲げた公約のひとつに「満員電車ゼロ」がある。残念ながら達成されない公約となってしまったが、あまりに辛い混雑ぶりに「痛勤電車」と皮肉を込めて呼ばれることもある大都市圏の通勤電車だが、新型コロナウイルス感染拡大を防ぐための緊急事態宣言下では、結果として解消された時期もあった。しかし、宣言が解除されてからは次第にもとの「痛勤電車」に戻りつつある。新しい生活様式が求められるなか、「3密」回避のためにも求められる過剰な混雑の緩和が解消される望みはあるのか、ライターの小川裕夫氏がレポートする。

【写真】痛勤電車

 今年3月半ばから感染拡大が深刻化した新型コロナウイルスは、これまで常識とされてきたさまざまな生活様式を大きく変貌させる引き金になった。

 ビジネス面では、多くの企業がリモートワークを相次いで導入。大半の仕事がオンラインへと切り替えられたことで、通勤の必要がなくなり鉄道の需要は減退した。ツイッターなどSNSでは、人が歩いていないオフェス街をはじめ東京駅や新宿駅の駅前の様子が次々にアップされた。また、誰も乗車していない山手線の車内なども続々とアップされ、コロナ禍によるリモートワーク切り替えが急速に進んでいたことを感じさせた。

 そもそも過密化を続けた東京は、朝夕の満員電車が社会問題にまで発展していた。通勤時間帯における満員電車の解消は、もはや鉄道会社の力だけで達成できる話ではない。

 コアな通勤時間帯を分散するフレックスタイム制の導入や土日の週休2日制だけではなく、柔軟に休暇をとれるなどの働き方改革が欠かせない。満員電車の解消は、鉄道会社とともに行政が取り組む課題でもあった。

 奇しくも、コロナ禍によって満員電車どころか人のいない通勤電車が現出。コロナを機に、リモートワークを進めればいずれ満員電車が消滅するとの観測も漂い始めた。

 しかし、緊急事態宣言が全面的に解除されると、街に人が少しずつ戻ってくるようになった。以前ほどではないにしても、日に日に通勤電車の混雑も元に戻りつつある。

 コロナ禍によって大幅な減収に苦しんでいた鉄道各社にとってありがたい話ではあるが、行政と鉄道会社は再び満員電車の解消という課題に向き合わなければならなくなった。

 日本で通勤を廃止してリモートワークを定着させることは無理なのか? ここ数か月にわたるコロナ禍で、そんな思いを強くしている人も少なくないだろう。

 そんな中、ニコニコ動画でお馴染みのドワンゴが在宅勤務の恒久化を発表。7月1日から原則として通勤を廃止した。

「ドワンゴは2月17日から在宅勤務体制づくりを進めていました。その一環として、電気代・通信費等手当の支給をするようになりました」と話すのは、ドワンゴ広報部の担当者だ。

 コロナが後押ししたことは間違いないが、ドワンゴは在宅勤務の恒久化をいきなり打ち出したわけではない。在宅勤務の恒久化を導入するにあたり、以前から在宅勤務・リモートワークの導入に取り組んでいた。

 旧来の企業と比べて、新興企業は従来のワークスタイルに縛られない傾向が強い。特に、在宅でも仕事をこなせるIT企業は、9~5時といった時間帯に出社している必要はない。そのため、必ず朝に通勤しなければならない理由は乏しい。

 例えば、日本最大のポータルサイトを運営するYahoo! JAPANは、災害のリスクヘッジを考慮し、地方にも拠点を分散している。

 旧来の働き方に縛られないという点では、ドワンゴも同じだ。ドワンゴが2月17日という早い段階から在宅勤務へと切り替えに着手していたことは、IT企業が本領を発揮したともいえる。

「ドワンゴでは、コロナ前から柔軟なワークスタイルを採用してきました。2月17日以前より導入しているチャットツールやビデオ・音声会議ツールといったオンラインシステムを活用するなどして、円滑な業務推進および社員間コミュニケーションの確保をしています。在宅勤務制度を本格導入するにあたり、約3か月半の試行期間でこれらを再確認することになりましたが、特に問題はありませんでした」(同)

 在宅勤務制度を導入するにあたり、ドワンゴは月2万円の在宅勤務手当を新たに支給する。出社の必要性があるときに限り、交通費を実費で清算するとした。

「今回の在宅勤務恒久化は、あくまで働き方の選択肢を増やすことが主眼です。何らかの事情があって、自宅で仕事ができない人もいます。そうした自宅勤務が困難という人には、今後も出社するという働き方を選択できるようにしています」(同)

 現在、ドワンゴで働くスタッフは首都圏の在住者ばかり。新幹線や飛行機を使わなければならないような遠方地に居住しているスタッフはいない。また、都内でも伊豆諸島や小笠原諸島といった離島に居住しているスタッフもいない。

「在宅勤務恒久化によって遠方に移住して、リモートで働きたいという要望が出てくる可能性はあります。現段階ではそうした要望は出ていませんが、検討することになるとは思います」(同)

 コロナの感染拡大で、人口が密集する東京都から地方へと移住する傾向が強まるとの予測はあちこちから指摘されていた。しかし、蓋を開けてみれば、コロナの感染拡大がもっとも不安視されていた5月の時点で東京都の人口は増加し、史上最多となる1400万人を突破している。6月は1000人ほど減少したが、東京一極集中の構図は変わっていない。

 そこには「コロナで人が密集する東京を避けたい」という気持ちが強くなる一方で、「コロナで失業しても新しい職がすぐにみつかると東京がいい」と考える人がたくさんいるからだ。それぞれは相反した考えのようにも思えるが、そうせざるを得ないのが現実なのかもしれない。

 ドワンゴが打ち出した在宅勤務制度恒久化は、他社にも大きな刺激を与える可能性を秘めている。追随する企業が続出すれば、働く場所と住む場所はリンクしなくなる。

 それは、痛勤と形容されるほど混雑した通勤電車を過去のものにするだろう。果たして、追随する企業は現れるのか?

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