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コロナと付き合うにはPCR検査がやはり必要 - 原田 泰 (名古屋商科大学ビジネススクール教授)

新型コロナウイルス感染症対策において、専門家と国民、政治家の間で認識の齟齬(そご)がある。専門家は大量の検査は必要ないと言い、国民、政治家は検査しろと言う。しかし、「感染症法」を読むと齟齬の謎が解ける。この法律の正式名称は、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」であるが、そもそもは、感染症を予防するための法律であって、感染症の患者を治療するための法律ではない。

過去の感染症は、基本的に治療法がなかった。新型コロナ感染症にも、現在のところ、治療法もワクチンもない。だから、感染者を見つけて、隔離するしかない。隔離するのは患者のためではなく、患者が他人にうつさないようにするためだ。だから検査も治療もタダになる。

素人としては、検査を増やせば感染者を見つけて隔離も効果的に行えると思うが、専門家は精度が問題だという。検査しても本当は陰性なのに陽性の人(偽陽性)、本当は陽性なのに陰性の人が出る(偽陰性)。偽陽性の人は無駄に病院で隔離しなければならないが、そんなに病院のベッドはない。偽陽性の人で病院のベッドが埋まれば、本当の患者のための治療ができなくなる。偽陰性の人は安心して市中でうつしまくる。

検査をするより、感染の可能性が高い濃厚接触者の隔離と検査をするのが効率的だというのが専門家の意見である。だから、濃厚接触者でもない人が、多少熱があるからと言って検査を求めて病院に来るなというのである。

しかし、国民誰もが医療保険に加入し、医療機関を自由に選んで受診できる、フリーアクセスと皆保険の日本国民としては納得できない理屈である。これまで微熱でも病院に行って抗生剤をもらっていた。なんで37度5分の熱が4日間続かなければ病院に行けないのか。しかも、4日後に医者に電話すれば、保健所に電話しろと言われる。保健所に電話してもつながらない。1週間後にやっと検査して入院できる。もちろん、大部分の人は助かるのだが、苦しい思いをして死んでしまう人もいる。さらに、厚生労働大臣は、これを誤解だと言う。しかも、ここで、検査と入院がセットになっている。

検査すれば医者に見てもらえるのだと国民は思ったから、検査しろと叫ぶ。テレビも叫ぶ。国民とテレビが叫べば、政治家も叫ぶ。テレビは国民に受けるために「検査を増やせ」と主張する感染症専門家を頻繁に出演させる。

政府の専門家会議のメンバーである感染症学者も、論調を変えた。多くの人が検査を受けると、医療機関に人が殺到して、そこで感染が広がってしまう。「検査を抑えているから日本は感染爆発を抑えることができた」と言っていた専門家が「感染者が急増している状況で検査が増えないのは大きな問題だ」と言うようになった。

医療機関で感染が広がり医療崩壊を起こすから検査をするなというのなら、専門家は患者よりも医療体制のことを考えていたことになる。医療体制が崩壊すれば患者も困るが、専門家はまず患者のことを考え、患者のために医療体制を強化することを考えるべきではないか。

であるなら、医療体制の維持のために、感染症病棟や集中治療室(ICU)の拡充、医師の配置換え、医療従事者を守るためのマスク・防護服・手袋などの増産、軽症患者のための隔離施設の確保、検査体制(検査機械、キット、試薬)の整備などがなされるべきだった。が、すべては後手に回った。感染症専門家は、そのような提言をすることなく、代わりにローテクのクラスター対策で濃厚接触者をあぶり出せばコロナを封じ込めると信じた。これはなぜかと考えてみると、医療体制の拡充はとんでもないコストがかかるので、提言しても無理だろうと思ったのではないか。

ところが、検査の拡充を、臨床医が求め始めた。医師会が自分で調べると言い出し、大学病院が、来院する患者の検査を始めた。医師は患者の気持ちに向き合っており、患者に院内感染を起こされては困るからである。

接触8割削減は甚大なコスト

感染症専門家が対策として提案する接触禁止こそとんでもないコストがかかる。接触8割削減で、外出できず働けず消費できずのコストは、GDPの低下で考えると数十兆円である。医療体制の整備コストは数兆円の話である。経済を止めることのコストが見えていなかったのではないか。緊急事態宣言が解除された後、コロナ禍の第二波、第三波が来るのならなおさら、医療体制の整備が必要だ。

つまり、ワクチンや治療薬が十分に世界中に出回るまでの間は、コロナと付き合っていかないといけない。これから、さまざまなイベントの再開が期待されている。ビジネスを中心とした国際的な往来も必要だ。オリンピックでも検査が必要だろう。社会の恐怖感を抑えて経済活動を取り戻す上では、迅速で精度の安定した検査システム、感染者追跡のためのシステムが必要になる。これらの検査は、他人にうつさないためでもあるが、基本的には自分のビジネスのためだ。当然、費用を取ることも必要だ。

図は、人口100万人あたりの検査数(折れ線グラフ)と感染者数(棒グラフ)、死亡者数(感染者数の隣に記載)を示したものである(5月20日現在)。日本はアジアの中で検査数が少ない。台湾は検査数が少ないが、感染者も死亡者も少ないうちに収束したので、検査する必要がなくなってしまった。欧米と比べても、人口100万人あたり米国は検査数が3万6960件、感染者数が4617人、死亡者数が278人、イタリアが同5万2458件、同3749人、同532人となっており、日本は検査数も感染者数も死亡者数も少ない。欧米は日本の20倍前後、韓国も7倍も検査をしていることから考えて、検査にそれほど高いコストがかかるはずはなく、機械ですれば時間も減らせる。


(出所)「Our World in Data」を基にウェッジ作成 
(注)折れ線グラフは100万人あたりのPCR検査数、棒グラフは同感染者数、
   括弧内は死者数(5月20日現在)。
(イラストレーション=藤田 翔) 写真を拡大

感染対策では、経済コストを狭い意味でしか考えていなかったのではないか。フリーアクセスと皆保険の国の国民は、感染症専門家の発想に戸惑い、政府に怒りをぶつけた。政治家は、国民がなぜ怒っているのかが分からなかった。すべては患者のためと考えて問題を整理し直すことが必要だ。

医療の役目は治療である。しかし、治療の過程で医師や看護師が感染すれば治療ができない。PCR検査は医療を守るためにも必要だ。大量に検査すれば検査が効率化できる。疑わしい人、感染すれば大規模な感染が起きそうなところでは検査が必要だ。感染者を特定化して隔離できれば、経済活動も再開しやすくなる。患者を優先して考えることが、経済コストの削減にもつながるのではないか。

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