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J1再開!鹿島アントラーズで今なにが起こっているのか?小泉文明社長のサッカービジネス論①

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リアルな場であるスタジアムにはコアファンが集う。そこから発せられる熱量はコミュニティの大きさに直結する。熱量が少なければコミュニティは小さくなり、逆に熱量が多ければ多いほどコミュニティも大きくなる。だからこそ、まずはコミュニティ自体の熱量を保つことに注力したのだ。

とはいえ、アントラーズの経営規模は70億円。今後100億円を目指そうとするなかで、コアファンだけをターゲットにした施策だけでは限界がある。また、2011年に東日本大震災が起きたとき鹿島アントラーズは被災し、観客動員数の激減を経験している。

あのときは観客数が元に戻るまで3年の月日を要しただけに、今回も大きな影響を受けることは避けられないだろう。しかし、だからといってクラブが手をこまねいている訳にもいかない。小泉の頭の中では2つの施策が描かれていた。

「コアファンの方々はスタジアムでの感動体験を通じてマネタイズしていきたい。つまり、リアルの場で収益化していくことを考えています。ただ僕としては、コアなファンの周辺にいて“コアではないんだけどライトなファン層”も結構大きいと思っていて、その層に対する施策も重要だと考えています」

年に数回だけスタジアムを訪れるファン層は、その回数が増えていくコア層にもなり得る反面、逆に脱落してしまうことも充分に考えられる。3.11のときにスタジアムから離れてしまったのがこの層だった。

デジタルの表現を利活用することで、その層からこぼれ落ちる人をすくい、マネタイズへと結びつけようというのだ。

その施策の一環が、サッカークラブとしては初となるStand.fmやTikTokでの公式チャンネル開設なのである。特にTikTokは驚きをもって受け止められたが、なにも選手が踊っている動画を載せたいわけではない。

今まで手が届かなかった場所に公式チャンネルをつくることで潜在的なユーザーとの接点を増やし、コミュニティの中心である熱量の高いところに向かうように誘導する仕組みをつくったのだ。

そうすることで、今までと違う収益構造が生まれると小泉は考える。

「例えばクラウドファンディングやギフティングがない頃、地方でアントラーズを応援している人は応援に行くにも遠すぎていけないし、ユニフォームを買うことくらいしかできなかったと思うんです。でも、テクノロジーによってアントラーズをもっと応援したかったんだけどできなかった人を取り込むこともできるようになりました。

もちろん、なにもせずにお金をくださいというわけではなく、エンタテインメントやスポーツとしての感動体験をお届けすることの対価としていただいて、クラブの収益を上げていきたい。デジタルを使った収益化が非常に重要だと考えています」

地元との新しいwin-winのカタチ

そうしたライト層を取り込むことが1つめの施策であるなら、2つめはアントラーズのホームタウンである鹿行地域の地元住民への施策である。

withコロナの時代となったいま、リスクを抑えるため移動を控える人はどうしても増える。東京や首都圏からの観戦者も多いアントラーズにとって、この状況が続くことは好ましくない。だからこそ、小泉は地元に向けた必要性を感じていた。



「地元のサポーターも、東京から来てくださるサポーターもどちらも大事です。ただ、僕は地元の方にももう少しファンクラブに入ってもらいたいと思っているので、そこはテコ入れしないといけないと思っています」

クラブとして「鹿行の『食』を届けるプロジェクト」に取り組んだことで、地元の企業と全国のアントラーズサポーターをマッチングさせることができた。アントラーズが地元を応援する姿を見せられたことは、当然ながら好意的に受け止められ、さらに地元企業と一緒にプロジェクトに取り組んだことで次の課題も見えてきたという。

「あるお店の商品は非常に好評で、一時販売を止めなければいけないくらいでした。でも逆に言えばストップしたことで機会を逃した訳で、地元の企業さんの事業上場の課題に対して、もう少し僕らも協力していかないといけないと感じました」

DX(デジタル・トランスフォーメーション)、つまり市場環境のデジタル化を進めるにあたり、アントラーズは好事例を残している。メルカリに経営権が移ってからSlackなどが導入されたことで、仕事効率は短期間で劇的に向上した。

それを受けて地元企業からは「どうやってオンラインで仕事をすればいいのか教えてほしい」といった要望が舞い込むようになったという。

「デジタルを使ったECサイトだとか業務の効率化だとか地域が抱える課題も、僕らがもっと地元に入っていけばメルカリやアントラーズのノウハウを使って還元していくことができるかもしれません。そうすることで地元企業の競争力が上がり、結果としてスポンサーやファンクラブの収入となってクラブに戻ってくるようなになれば、もっとwin-winな関係を築けると思います」

鹿嶋市の人口は7万人にも満たない。周辺の鹿行地域を含めても30万人と言われている。そんな地方の片隅にあるクラブが2016年にはFIFAクラブW杯で決勝まで進出し、スペインのレアル・マドリードをあと一歩まで追い詰めた。

マドリードやバルセロナ、ロンドンやミュンヘン、パリといった大きな街にあるクラブに、もう一度、戦いを挑もうと本気で取り組んでいるのが鹿島アントラーズというクラブだ。

「世界のクラブはどんどん進歩している。僕らがなにもやらないと相対的には退化していくというか、差がどんどん開いていくだけです。今から鹿嶋の人口を増やせと言っても無理でしょう。なので、僕としてはだからこそITやデジタルなのかなと思っています」

新型コロナウイルスは世界的に大きな影響を及ぼしたが、新しい生活様式はデジタル化を一歩推し進め、デジタルとエンタテイメントの融合を加速させる効果があったかもしれない。

これまでの社会構造であれば、大都市にあるクラブほど収益面でのメリットを期待できたが、withコロナの世界では必ずしもそうとは言い切れなくなった。誰も直面したことがない社会において、先を見通せている経営者は少ないだろう。

そのなかで、あふれるようにアイデアが湧き出す小泉は異彩を放つ。地方にある小さな町のクラブで今、大きな変化が起きようとしている。

②に続く

Fumiaki Koizumi
1980年生まれ。早稲田大学卒業後、2003年、大和証券SMBC(現 大和証券)に入社。投資銀行本部にて、主にインターネット企業の株式上場を担当し、ミクシィやDeNAなどのベンチャー企業のIPOを実現させる。'07年、ミクシィに入社。'08年、取締役執行役員CFOに就任し、コーポレート部門全体を統括。'13年、メルカリに入社。’17年、取締役社長兼COOに就任。'19年、鹿島アントラーズFC代表取締役社長に就任。メルカリ取締役会長も兼任する。

Text=田中 滋 Photograph=太田隆生

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