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タニタで、正社員から個人事業主に転換したスタッフの年収がいきなり40%もUPした理由

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社員から個人事業主になって、多様でフリーな働き方を進める「日本活性化プロジェクト」を進めるタニタ。プロジェクトが始まって約3年。参加社員の希望と不安、制度の課題と対策、これからの展望など、さまざまなアプローチからこの新しい試みを取材しました。

タニタ本社にある、これが“本家”のタニタ食堂。個人事業主となったあとも、続けて食堂が利用できるのがメリットだ。
タニタ本社にある、これが“本家”のタニタ食堂。個人事業主となったあとも、続けて食堂が利用できるのがメリットだ。

能力もやる気も高い社員のモチベーションアップに

体組成計や体脂肪計など健康計測機器の生産と販売、さらには「タニタ食堂」の展開でもおなじみのタニタ。現在の社長である谷田千里(たにだせんり)さんが2017年1月から始動させた「日本活性化プロジェクト」が、今注目を浴びている。簡単にいうと、同プロジェクトに参加したい社員は、会社を辞めて個人事業主となり、その後タニタと契約して働くというシステムだ。

社長 谷田千里さん
社長 谷田千里さん

谷田さんが社長に就任した08年は、タニタの体組成計市場でのシェアが下がり、業績も悪化していた。このまま業績が下がり続けたら、優秀な社員が会社から離れてしまうのではないかと谷田社長は危惧した。近年の、残業時間の減少など労働時間の短縮ばかりに焦点があてられる風潮にも疑問があった。

「残業などの過重労働は、国の制度上規制しないといけません。しかしここ一番の頑張りどころや、スキルを上げていこうというときにもっと働きたい場合はどうしたらいいのか? 彼らの努力が報われるようなシステムを作って、相応の報酬を払えば、働くモチベーションが上がるのではないかと考えました」

そこで谷田社長は、以前から関心があった個人事業主の働き方を徹底的にリサーチ。会社の枠を超えて仕事ができ、働いたら働いた分だけ稼ぐことができる能力主義の世界であること、さらに確定申告時に業務にかかわる経費を計上でき、さまざまな控除が受けられるので、社員時代よりも手取り額が多くなる可能性が高いことがわかった。

個人事業主になったメンバーの初年度の報酬は、会社員時代と仕事内容が変わらない場合、減ることはほとんどなく、むしろ増えることが多い(図参照)。メンバーはタニタの仕事を優先的に行って成果を上げつつ、タニタ以外の仕事でスキルも収入もアップできれば、会社もメンバーもWin-Winの関係になれる。

タニタの社員が、会社を辞めて個人事業主契約を結んだらどう変わる?

16年に全社員に向けて同プロジェクトの説明が行われたが「社長は一体、何を言い出すのか? 意味がわからない」「体(てい)のいい首切り、人員整理ではないのか?」「プロジェクトメンバーに仕事の指示ができなくなって、組織が崩壊するのではないか?」というネガティブな反応を持つ社員や経営層が多かったそうだ。仕事や収入が担保され、働き方の自由度が上がるとはいえ、安定した社員の身分を捨てるのは勇気がいるだろう。“9時~5時で仕事は終わり”というサラリーマン意識が強い人には向かない。高いスキルと、仕事への情熱と向上心が、プロジェクトメンバーには欠かせない。

健康管理のデータ解析は価値が高いスキルだ!

そんな嵐の船出の中、8人が第1期メンバーとなり、個人事業主に転換した。その1人である西澤美幸さん(51歳)は大学の栄養生理学研究室で学び、1992年の入社以来、開発部に勤務。世界初の体脂肪計の開発に従事し、最年少で社内初の技術系女性課長となる。自らを「データオタク」と呼ぶほど、“三度の飯よりデータ解析が好き”。

日本活性化プロジェクトメンバー開発部 主席研究員 西澤美幸さん
日本活性化プロジェクトメンバー開発部 主席研究員 西澤美幸さん

「若い部下と仕事をするのはとても楽しかったし、課長を任されたことも実績を評価されたのだと感謝していました。でも自分は管理職には向いていないと実感していたのです」

そんな西澤さんにとって転機となったのが、出産を機に本社の開発部を離れてタニタの子会社に移ったとき。自由なテーマでコラムを書いたり、タニタのデータを使ってアプリケーションを作るための開発をするなど、ワクワクするような仕事に出合えた。

その後再びタニタの課長職に戻るが、あの高揚感が忘れられず自ら希望して管理職を離れて、エキスパート職の研究員になる。数年後に「日本活性化プロジェクト」の説明会が行われた際「あなたの働き方に合っている気がする」と同期の女性に言われて、興味を持った。

「個人事業主になれば、大好きな研究やデータ解析に没頭できるし、仕事の選択肢が増えるのではないかと思い、手を挙げました」。うれしいことに社員時代より収入が40%ほど増えたし、講演や原稿の執筆の依頼も積極的に対応できるようになった。「講演はタニタの名前や開発リソースを使ってお話しするので、まずは開発部や広報に相談。追加業務になれば報酬も話し合いで決めます」

人の体に関する健康分野のデータ解析ができるスキルには、かなりの価値がある。この分野のベテラン研究者である西澤さんならば、研鑽(けんさん)を続けたら、もっとお金を稼ぐことができるだろう。その半面クオリティーの低い仕事は許されない。

「ちゃんとコストに見合った仕事をしなければならないので、気が抜けないです。3年契約なのですぐに仕事がなくなることはありませんが、いつも、緊張感を持って仕事をしています」

いつか自分の名前の“看板”で自由に仕事がしたい

同じくプロジェクトメンバーである久保彬子さん(35歳)は、2007年に入社後、国内営業部に配属され、家電量販店やネット通販関係の営業を担当。3年前に部署異動願いを出した時期に、プロジェクトの説明が行われ、メンバーになることを決意する。しかし公務員だった両親に心配され、周囲の個人事業主の知り合いに相談しても賛成と反対が半々だったそう。主な反対意見としては、自分の名前を売って仕事をとるのは想像以上に大変、常にお金の心配がつきまとう、会社員の安定した身分を捨てるのはリスキーだ、などがあった。

日本活性化プロジェクトメンバーブランド統合本部 新事業企画推進部 久保彬子さん
日本活性化プロジェクトメンバーブランド統合本部 新事業企画推進部 久保彬子さん

「ただ世間一般の個人事業主と違って、今はタニタの仕事が柱なので、収入が減少するわけではないです。何より自分らしく楽しく働きたい。この制度を利用してスキルを上げて、いつか自分という看板で、会社の枠を超えて幅広い仕事がしたいという希望があります」

久保さんの場合、新規事業に携わることが多く、あるプロジェクトでは企画、あるプロジェクトでは営業など、職種が限定されないことも、自由な発想で働きたい久保さんには向いていた。現在も谷田社長からの依頼で、ゲームプロジェクトのリーダーを任されていて、社員時代より収入が30%ほど増えた。

「ただ、どこまでが仕事で、どこからがオフなのか境目がなくなってしまって、土日も休まず働いてしまうことも……。タニタの名前で仕事をしている以上、働きすぎで倒れるというのはありえないので健康管理も大事。でも、これも仕事になるかも、あれも仕事になるかもと考えるのが楽しくてしようがない。この人とこの人をつなげてプロジェクトに巻き込めたら面白い化学反応が起きていい仕事になる、などとオーガナイズするのが自分は得意だということがわかりました」

もし後輩から自分もメンバーになりたいと言われたら、久保さんはどう答えるのだろう。「その人の状況にもよりますが、タニタが好きならやったほうがいいと答えます。会社と対等のビジネスパートナーのような形で仕事ができるからです」

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