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「香港問題」 日本にとっても「正念場」に

中国の国会に当たる全国人民代表大会(全人代)は五月二十八日、反体制活動を禁じる「香港国家安全法」の制定方針を採択した。九月の香港立法会(議会)選挙を視野に法律の条文や運用の仕組みが整備されている模様で、香港に高度の自治を保障してきた「一国二制度」の形骸化は必至の情勢となった。


一国二制度は中国語で「一個国家・両種制度」(一つの国・二つの制度)の略称。当時の最高実力者・鄧小平が「改革開放」が始まった一九七八年の第十一期中央委員会第三次全体会議で、香港、マカオの主権回復と台湾の統一に向け、三地域を特別行政区と位置付け、高度な自治権を有する状態を尊重する方針を打ち出した。

九七年の香港返還を確認した八四年の中英共同宣言にも、香港の高度の自治権は「返還から五十年間、変えない」と明記され、九七年の返還の際も、中国の社会主義とは異なる資本主義制度を五十年間、維持することが約束された。

一国二制度で香港は国防や外交を除く立法権や行政管理権を持ち、本来は中国本土の法律の適用は受けない。しかし今回、中国政府は香港の憲法である香港基本法の例外規定を使い、中国本土で人権活動家らの取り締りに使っている国家安全法を香港の頭越しに適用する挙に出た。

中国政府は一国二制度の補強が狙いというが、一国二制度が事実上、骨抜きになる可能性が高い。イギリスやアメリカは「国連にも登録され、法的拘束力がある中英共同宣言が定めた責務に反する」と非難しているが、中国政府は「香港問題は中国の内政であり外部からの干渉は許さない」と強硬な構えを崩していない。

香港では一年前、逃亡犯条例の改正に反対する百万人規模のデモが行われ、若者は共産党の一党支配に「ノー」を突き付けた。香港の独立を目指す動きも見られ、香港の「自由」がこれ以上、拡大すれば中国本土や新疆ウイグル自治区、チベットに飛び火しかねない、といった焦りもある。

一方で中国は経済、軍事両面でアメリカに次ぐ世界の強国になった。強大な力を持つにつれ、かつて周辺国から朝貢を受けた大国意識「中華思想」が急速に頭をもたげてきている。“発展期”の大国が膨張主義、覇権主義に走るのは歴史の常道である。香港の次は台湾、南シナ海を制圧した後は東シナ海ということになろう。南シナ海では、中国の歴史的権利の主張を否定したオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所判決(二〇一六年)を無視したまま人工島の建設が進められ、沖縄県・尖閣諸島の領海に対する中国公船の進入も年々、激しさを増している。

これに対しマスコミや識者は「国際秩序を乱す」、「約束を守らない」と十年一日の如くの中国批判を展開している。残念ながら戦後七十五年間、平和に浸り切った国の理想論以上の効果は持たない。今、日本に必要なのは、中国はそういう国なのだと理解した上で、どのように付き合っていくか、現実的な選択なのだ。

新型コロナウイルス禍を見るまでもなく、一国主義、保護主義の台頭などで、国際社会は個人の生活から国と国の関係まで全てが大きく変わろうとしている。生き残り競争は一段と熾烈になり、日本だけが戦後平和の“ぬるま湯”の中に何時までも安住している訳にはいかなくなる。

まずは日本が「自ら自分を守る国」にならなければならない。それが実現した時、初めて中国、アメリカとの本音の話し合いが可能となる。その意味で香港問題は日本にとっても正念場となる。

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