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「美白」クリームと人種差別――商品名の変更を迫られるコスメ産業

  • インドでは「美白」をうたった化粧品の商品名が相次いで変更されている
  • そこには「白い方が美しい」という価値観のすり込みが人種差別的だという批判がある
  • ただし、その反動で「黒い方が美しい」と主張すれば、人種の違いを固定し、そのなかで優劣を争う呪縛から逃れられていないことになる
  •  人種差別への反対は世界的に広がっているが、そのなかで「白人こそ最高」とイメージされるものの除去も進んでいる。

    白は美の基準か

     世界各国で食品や家庭用品の製造・販売を展開するユニリーバは6月25日、インドで販売されていた美白クリームの商品名を改めると発表した。このクリームは‘Fair and lovely’(日本語にすれば「色白美人」といったところか)というが、このFair(色白)を商品名から外すというのだ。

     この商品名をめぐっては、SNSで#DarkIsBeautiful(黒い肌は美しい)といったハッシュタグが立てられるなど、インド国内で問題視されてきた。「白い肌が美しい」という基準が「白人こそ最高」「白くない肌の女性は劣ったもの」となりかねないからだ。ユニリーバがイギリスとオランダに本拠をもつヨーロッパ系であることは、これに拍車をかけた。

     さらに、アメリカでの黒人男性死亡事件をきっかけに人種差別反対の抗議デモが世界に拡大したことで、ユニリーバは商品名の変更に踏み切った。

     商品名の変更についてユニリーバは「美に関するより包括的な見方のため」と説明している。

    コスメ産業に広がる「美白」封印

     こうした動きはユニリーバだけではない。

     アメリカ企業ジョンソン&ジョンソンはその前週末、アジアや中東で販売する美白乳液‘Fine fairness’(「素敵な美白」か)や美白クリーム‘Clean and clear fairness’(「美しく透き通った美白)シリーズの販売を取りやめると発表していた。

     また、世界最大の化粧品メーカー、ロレアルも商品名からwhite、fair、lightなどの言葉を削除する方針を打ち出している。

     これに対して、言葉の修正だけでは不十分で、インドや中東で美白クリームの販売そのものを中止するべきという意見もある。インドで「美白」批判を主導してきた活動家の1人、シャンダナ・ビラン氏は英BBCの取材に対して、商品名の改称が包括性への重要な一歩と評価する一方、「彼らがそれを何と呼ぼうと、実質的に美白クリームであることは変わりない」と述べ、化粧品メーカーにさらなる見直しを求めている。

    頭の中の植民地支配

     こうした出来事を過剰反応と思う人もあるかもしれない。しかし、インドに限らず、肌の色は「見えない支配関係」の象徴とみなされてきた。

     カリブ出身の黒人で、後にアルジェリア独立戦争に身を投じた精神科医で哲学者のフランツ・ファノン(1925-1961)は、各地での臨床調査を踏まえて、当時の植民地支配が有色人種とりわけ黒人を単に政治・経済的だけでなく、精神的にも支配するものであることを暴いた。

     1952年に著された『黒い皮膚・白い仮面』には、黒人でありながら白人のような思考パターンをすり込まれた結果、自分の黒い肌への拒絶反応に苦しむケースが数多く記されている。

    フランスにきている黒人の女子学生で、自分は黒人の男とは結婚できないと無邪気に…告白する多くの者を、私は知っている。…それは黒人の価値を全く認めないからではなく、白人である方がずっといいからなのだ、と。

    出典:『黒い皮膚・白い仮面』p70 翻訳版の日本語を一部変更

     念のために確認すれば、これらの女子学生も黒人だ。それにもかかわらず白人の眼で自分をみて、黒人であることを過小評価し、白人世界の一員でありたいと願う喪失感に、精神科医であるファノンは恐怖症の患者に近い強迫的な性格を見出している。

    「黒い皮膚・白い仮面」は生きている

     ファノンの告発は、日常的、無意識的な支配のあり方を明らかにする、ポスト・コロニアリズム研究と呼ばれる学問の潮流を生む、一つのきっかけになった。

     しかし、ファノンの告発から約70年を経た現在でも、欧米や白人を暗黙のうちに高級、スタイリッシュといったイメージで描く風潮は根強い。それは資金の豊富なメディアによって、むしろ増幅している。

     インドの美白クリームの場合、インド人の有名女優などを起用した大々的なコマーシャルは、「白い肌こそ素晴らしい」というすり込みになったと批判される。

     日本でも、化粧品メーカーやファッションブランド、スポーツジムなどの広告やポスターで、金髪碧眼のモデルが起用される割合は高い。そのこと自体、日本もファノンが暴いた自己倒錯と無縁でないことを象徴する。

    呪縛から人間を解放する

     かといって、「黒い方が美しい」や「日本人の方が素晴らしい」と言えば、「白人こそ最高」という主張が形を変えただけに過ぎない。

     ファノンは「白人こそ最高」という呪縛から黒人を解き放つことを説いたが、その一方で「黒こそ最高」という意見には同調しなかった。

    黒人を賛美する者は、黒人を嫌悪する者と同じく『病む者』である。…自分の血統を白くしようと望む黒人は、白人への憎悪を説く黒人と同じく哀れむべき人間である。

    出典:『黒い皮膚・白い仮面』p31 翻訳版の日本語を一部変更

     つまり、そこで重視されたのは、誰かが作ったイメージで自分を無価値と思い込んだり、あるいは逆に慰めたりすることから、人間を解き放つことだったといえる。その意味で、#DarkIsBeautifulのなかでしばしば見受けられる「黒い方が美しい(ここでいう黒いはDarkであって黒人のBlackは含まない)」という主張は、「白人こそ最高」という価値観への反発ではあるが、結局呪縛から逃れられていないことになる。

     インドの美白クリーム問題は、ファノンが示した道のりの険しさを、改めて示すものといえるだろう。

    ※Yahoo!ニュースからの転載

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