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【赤木智弘の眼光紙背】一本松の奇跡なんて無かった

赤木智弘の眼光紙背:第237回

震災で流された陸前高田市の高田松原。
ほぼすべての松が津波で流された中に、1本だけ奇跡的に生き残った松。震災直後にこの松を「奇跡の一本松」として復興のシンボルであるかのように扱う報道が盛んにされていた。
しかし今、この奇跡の一本松は塩害による立ち枯れを避ける事ができず、結局これを解体、防腐処理などをした後に、モニュメントとして元の場所に戻す計画が進んでいる。(*1)

このニュースをはじめて聞いた時に、僕は腹を抱えて笑ってしまった。
「な~にが奇跡の一本松だよ!全然奇跡なんて起こってねーじゃねーか!!」と。
とはいえ、単に面白いから笑っていたわけではない。私は今回の一本松のことに対し、日本人の卑劣さを見ていたので、面白さとも怒りともつかない笑いがこみ上げて、とても止まらなかったのだ。

あれほどの巨大な津波においても、倒れることがなかった一本の松。そこに奇跡を読み取ることは当然と言えよう。しかし、私たちは松自体の健康を考えれば、すぐにでも塩害のない場所に移植し、いたわってあげるべきだったのに、復興のシンボルとして松を塩害恐れの高い土地に留め続けた。その結果、松はどんどん力を失い弱っていった。津波に打ち勝った松も、人間の狂気!
「狂気」と呼ぶしかないそれには、とても打ち勝つことができなかった。
そして人間は、そうして死んでしまった松を、ミイラにして元の場所に立たせるという。死してなお復興のシンボルとして働かされ続け、人間の狂気に晒され続けるのだろう。
その姿は、まるで老人に食いつぶされる若い非正規労働者のように見える。
若者の若さを変化のシンボルとして扱いながら、変化をあらゆる手段で潰す、老人大国日本の狂気。
私が怒りを感じるのは、そうした老人たちの欺瞞と、一本松が晒された環境が、僕にはダブって見えたからだ。
一本松は奇跡のために生き残ったのではない。ただ植物として、そこに立っていただけなのに。

フォークデュオが、奇跡の一本松のために歌を作ったという。(*2)
「天に向かって伸びて行けだけどがんばらなくていい生きてりゃいいこときっとある」という歌詞があるそうだが、その一本松はすでに死んでいる。生きていないからいいことも決してない。死んでいる松に他者の生を託す。それはまさに古代の人間の狂気が産んだ「人柱」と呼ばれた儀式と同じである。

奇跡なんてない。
壊れたものを少しずつでも直し、積み上がった瓦礫を少しずつでも処分し、人々のつながりを少しずつ生み出していく。そうした地道な努力だけが復興の支えとなる。
もう奇跡の一本松を自由にしてやってくれ。復興は、もはや奇跡の段階ではないのだから。

*1:「奇跡の一本松」保護を断念…海水で根が腐り(読売新聞)http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20111203-OYT1T01004.htm
*2:震災から1年半高田の一本松CD化(中日スポーツ)http://www.chunichi.co.jp/chuspo/article/entertainment/news/CK2012091202000157.html

プロフィール
赤木智弘赤木智弘(あかぎ・ともひろ)
1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。

@T_akagi - Twitter

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