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文在寅がほっとしている間にジワジワと追い込まれる韓国経済の末路

強硬な“悪者”を演じて韓国を動揺させた金正恩の実妹

6月23日、北朝鮮の金正恩委員長は中央軍事委員会の予備会議を開いた。その中で金委員長は、韓国の脱北者団体が北朝鮮の体制を非難したビラ散布による報復措置を保留した。今回の保留措置の背景には、北朝鮮経済の疲弊が影響しているとみられる。

南朝鮮(韓国)の「脱北者」団体による対北ビラ散布と南当局の黙認に対抗して散布準備が進められている対南ビラ。朝鮮中央通信が20日配信した=2020年6月南朝鮮(韓国)の「脱北者」団体による対北ビラ散布と南当局の黙認に対抗して散布準備が進められている対南ビラ。朝鮮中央通信が20日配信した=2020年6月 - 写真=朝鮮通信/時事通信

2017年の国連制裁に続いて、今年に入り、新型コロナウイルスの流入を阻止するために中朝国境が閉鎖され、北朝鮮の食糧事情はかなり悪化しているといわれている。その状況が続くと、北朝鮮国内では金一族による独裁体制への批判が高まることも考えられる。

金委員長は世論をなだめ独裁体制を維持するために、韓国や中国からの支援を取り付けなければならない。

そのために北朝鮮は、まず、金委員長の妹の金与正氏が強硬な“悪者”を演じて韓国を動揺させ、その上で、最高指導者の兄は朝鮮半島情勢の緊迫感を静める役割を担ったとみられる。それには、韓国の文大統領に北朝鮮支援に動きやすくする狙いがありそうだ。

これまでにも、北朝鮮はそうした対韓外交を繰り返してきた。その中で、北朝鮮はしっかり韓国からの支援を取り付けながら核開発を進めてきた。南北宥和を進めたい文大統領は、金正恩委員長の対応に胸をなでおろしていることだろう。

したたかな北朝鮮の対韓政策

今回、金与正氏が韓国に強硬姿勢をとる“悪”の役割を演じ、兄の金正恩氏が南北間の緊張を和らげる“善”の役割を果たしたように見える。それは、韓国や中国からの支援を取り付け体制維持の時間を稼ぐためだろう。

また、6月25日は朝鮮戦争勃発70周年記念日だ。北朝鮮はそれにあわせて軍事計画を保留し、韓国のさらなる宥和(ゆうわ)を引き出そうとしたとも考えられる。

6月に入り、金与正氏は開城(ケソン)の南北共同連絡事務所を爆破するなど、韓国への強硬姿勢を鮮明にした。その上で与正氏は軍部に行動計画を指示した。その際、与正氏は2つの重要なポイントに言及した。

1つ目は、「軍の行動計画が人民の怒りを静めるだろう」という発言だ。それは、国連制裁や新型コロナウイルスの発生によって中朝の国境が閉じられ、北朝鮮の市民生活がかなり厳しくなっていることへの危機感の表れと解釈できる。

2つ目が、金与正氏が「金委員長から与えられた権限を行使する」と発言したことだ。それが示唆することは、連絡事務所の爆破や軍事行動の策定が、あらかじめ金委員長の承認のもとで進められたことだ。そのうえで、金委員長が登場し軍事計画の保留が決められた。

金委員長は妹を悪者にすることで、自らが文大統領との関係を重視しているとの印象を強く示そうとしたのではないか。

見方を変えれば、北朝鮮は疲弊している

その結果、北朝鮮の韓国に対する強硬姿勢は、ひとまず表向きには、幾分か後退したように見える。韓国メディアは、23日に中央軍事委員会の予備会議が開催された後、北朝鮮では韓国を批判する報道が一斉に削除されたと報じている。そのほか、北朝鮮が設置を進めた対韓放送用の拡声器も撤去された。

そうした対韓工作は、あまりに稚拙に映る。金与正氏が対韓強硬姿勢を強めることによって、北朝鮮は韓国を動揺させた。その後、金正恩委員長は軍の計画を保留して強硬姿勢をおさえた。それによって金委員長は韓国社会の不安を解消し、文大統領を籠絡(ろうらく)したいのだろう。

見方を変えれば、そこまでしなければならないほど、北朝鮮は自国が疲弊していることを内外に露呈したといえる。

一番ほっとしているのは文在寅

金正恩委員長が軍事行動計画を保留したことに関して、一番ほっとしているのは韓国の文大統領だろう。北朝鮮が強硬姿勢を抑える立場を示したことは、文政権が南北の宥和の重要性を主張し続けるために欠かせない。

経済運営を思うように進められなかった文氏としては、南北宥和の推進によって何とか成果を世論に示したいはずだ。

文政権が発足して以来、韓国経済の成長率は低迷している。政権発足後、公共事業などに支えられた中国経済の持ち直しが韓国の輸出を増加させ、一時的に韓国の景況感は上向いた。

しかし、2018年以降、中国経済の成長の限界や米中貿易摩擦の激化によって、主力の半導体を中心に韓国の輸出は減少した。その結果、韓国経済の成長率は急速に低下した。さらに、文大統領は経済成長率を大きく上回るペースで最低賃金を引き上げた。それは企業の収益を減少させ、所得・雇用環境が悪化した。

昨年末には、韓国経済を牛耳ってきた最大手サムスン電子でも全国組織に加盟する労働組合が結成されるなど、経済への不満は高まっている。

中国の消費は回復したが韓国は難しい

2020年に入ると、新型コロナショックの影響によって輸出が一段と減少した。3月中旬には資金が急速に流出し、一時、韓国が自力でドル資金を調達するのが難しくなるのではないかとの懸念が高まる場面もあった。

現在、韓国の金融市場は落ち着いているものの、依然として輸出は減少傾向にある。中国では外出制限などによって落ち込んだ消費が回復している(ペントアップ・ディマンド)が、韓国がそのおこぼれにあずかることは難しいだろう。

韓国は米国から対中半導体輸出を見直すよう圧力をかけられている。また、中国政府は環境対策を推進するためにハイブリッド車の普及を重視し始めた。それはトヨタ自動車をはじめ、わが国企業にとって追い風 となるだろう。

その状況下、金委員長が報復行動を保留したことに文氏は安堵しているはずだ。文大統領は南北統一の夢を追い求め、北朝鮮との宥和こそが韓国の繁栄につながるとの主張を強めるだろう。

高まる朝鮮半島の緊迫感と、限界を迎える韓国経済

今後、朝鮮半島情勢の緊迫感は高まる恐れがある。過去、北朝鮮は、国内が窮乏すると対外強硬姿勢を強めた。その後、ある程度時間が経つと北朝鮮は手のひらを返したかのように表向きは“核の放棄”を宣言して強硬姿勢を取り下げた。

それによって北朝鮮は韓国の支援を取り付けて世論を落ち着かせ、独裁体制を維持した。その裏側で、北朝鮮は秘密裏に核開発を続けた。

金一族は、独裁体制を維持するために核を手放せない、と指摘する安全保障の専門家は多い。北朝鮮は対韓強硬姿勢とその取り下げを繰り返して韓国からの支援を引き出し、核開発と体制維持を目指すだろう。米国が制裁を続ける姿勢を明確にしているのは、そうした考えからだ。

当面の展開を考えた時、制裁の影響などによって、北朝鮮の経済と社会は一段と厳しい状況を迎える可能性がある。その場合、北朝鮮は韓国への強硬姿勢を強化するなどし、朝鮮半島の緊迫感は高まるだろう。

もし、その展開が現実のものとなった時、日米との連携強化が難しい韓国は、かなり厳しい状況を迎えるだろう。コロナショックや米中対立の先鋭化などによって、世界経済は低迷している。輸出依存度の高い韓国が景気持ち直しを目指すことは難しい。

これまでの韓国経済を支えてきた利下げをはじめとする金融緩和策も限界を迎えている。

北朝鮮リスクが日本にも襲いかかる

韓国の所得・雇用環境は悪化し、経済格差はさらに深刻化する恐れがある。所得・雇用環境の悪化を食い止められない文政権に世論は苛立つだろう。その結果、労働争議が激化し企業の海外脱出が加速化する展開は排除できない。

そうなると、韓国世論は北朝鮮政策よりも、自国の経済対策を徹底するよう為政者に求めるだろう。その一方で、北朝鮮は2018年9月の平壌宣言を韓国が実行できないことに腹を立て、再度、軍事挑発などの対韓強硬姿勢に舵を切る可能性がある。

そうした展開を絶つには、韓国世論全体が北朝鮮のリスクに目を覚まし、自国経済の持続的な成長のために何が必要かを真剣に考えることが求められる。

北朝鮮リスクはわが国にとっても無視できない。わが国は韓国の教訓をもとに、構造改革を進めて高品質の素材などの競争力を発揮し、世界各国からのリスペクトを得なければならない。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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