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オンライン株主総会は個人株主の意見を反映する場に コロナ禍で改革迫られる上場企業 - 中西 享 (経済ジャーナリスト)

今月末にかけて3月期決算上場企業の株主総会がピークを迎えているが、今年の株主総会はコロナ危機の影響で、例年とは大きく様変わりした。大きな会場を使っての開催が激減して、新型コロナウイルスへの感染予防のため小さなスペース会場での開催と、ネットを活用したオンライン総会に参加する方式が主流となった。そうした中で、オンライン総会の課題も見えてきた。来年以降の株主総会のあるべき姿を考えてみた。

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7月にずれ込む

3月期決算の企業は本来6月末までに株主総会を開催するのが通例となっていた。しかし今年は世界的に拡大したコロナ禍の影響で、日立製作所のようにグローバル展開している企業では、海外の子会社が感染拡大により閉鎖になり、決算手続きの遅れなどにより業績数字の集約ができなくなった企業もあるようで、日立は7月以降に株主総会を延期するようだ。このほか、東芝、凸版印刷、日本板硝子、オリンパスなど数十社は、同様の理由などから同月以降に延期するとみられる。

3月期決算企業は、3月末時点の株主が、議決権と配当を受け取る権利を得ることになっているため、総会は基準日から3カ月以内に開催する必要があり、7月に遅らせると基準日も移さなければならなくなる。その結果、3月期末の株主が、その後に売却すると配当を受け取れなくなる。この配当問題を避けるため、総会を2回に分けて開く方法もある。6月に総会を開いた上で、決算報告などを改めて後日決議する「継続会」を開く。東証によると、「継続会」の開催を検討している企業は85社程度あるようだ。

質問できない議事進行

コロナ禍を受けて今年の株主総会で主流となったネットを使えば、株主は自宅や外出先からも参加することが可能で、上場会社は総会のための大量の紙の資料作りをしなくよくなり、会場設定の費用を節約できるなど利点がある。必要なことは、会社側の説明だけでなく、1年に一度の機会なので株主からの質問や経営方針について活発な議論を行うべきだ。できることなら十分な時間を確保して、幅広い視点からの対話をするのが望ましい。課題となるのはパソコンなどの操作が苦手な高齢の個人株主に対して、いかにして気軽に参加できる機会を提供するかだ。

経済産業省は4月に感染防止を防ぐための株主総会の運営についてのガイドラインやQ&Aなどを公表し、トラブルが起きないよう上場会社に十分な準備をするよう呼び掛けた。それによると、防止策の一環として株主に来場を控えるよう入場制限を求めることや、株主の来場がない場合でも総会を認めるとしている。その際には事前に書面やネットを使って議決権行使を認めるなどして、決議の成立に必要な要件を満たすことができる。

同省が公表した「ハイブリット型バーチャル株主総会の実施ガイド」によると、「参加型」と「出席型」の2つあり、「参加型」は事前に議決権を行使して、遠隔地にいる株主が来場したくてもできない場合に用いられるもので、総会当日に「動議」や「質問」はできない。「出席型」は、インターネットの端末を整備して、会場出席者と同じ設備を設けるもので、株主総会に出席したものとみなす。

しかし、今年は多くの総会では、「参加型」「出席型」のどちらも「動議」や「質問」をすることは認められなかったようで、次回からはこの取り扱いをどうするかが重要課題になる。また回線の障害が起きて、ネット参加者との意思疎通がうまく行かなかった場合の対応も必要になる。

少ないネットで質問受ける企業

ネット形式の株主総会を先行的に導入したのはソフトバンクグループだ。2002年からはネットを使って議決権行使の仕組みを導入しているが、20年度はインターネットの出席者が総会会場に出席しなくても、株主として会社側が提案した議案に対して賛否の投票ができるようになった。同グループは6月25日にリアルとネットで株主総会を開催、孫正義会長兼社長が議長を務めた。同社はネット参加者からの質問も受け付けた。

また伊藤忠商事は6月19日に取締役だけが出席したリアルの株主総会を開催した。個人株主の総会への参加は自粛を求めたが、どうしても参加したい株主がいたため別途、オンライン総会の場所を設け、質問も受け付けた。

5月22日に株主総会を開催した流通大手のイオンは、多数の株主が出席すると集団感染のリスクあるため、千葉市にある本社ビル内の多目的ホールに設けた総会会場と並行して、総会の模様をネットでライブ中継した。例年は2000名近くの株主が来場するが、今年は約80人の株主が会場に出席、そのほかは約2500人の株主がネットで視聴した。事前にネット参加者から質問を受け付けて会場で答える形を取り、1時間半ほどで総会はトラブルもなく終了したという。ネット参加者からの当日の質問受け付けなかった。

リアルの総会の場合は室内のため、顔も分かるため誰がどんな質問するかはある程度予想できる。しかし、オンラインの場合は、どんな株主が何について質問するか全く予想がつかない。それだけに質問に答える側にとっては覚悟がいる。総会の事務方にとっては想定外の質問が飛び出して、議事進行が乱れることを懸念する。しかし、そうしたリスクを受け止めて答弁するだけの度量があってこそ、企業のトップたる器の証明にもなる。上場企業は真正面から取り組んでもらいたい。

重要な個人株主の多様な意見

見てきたように、今年の株主総会はコロナ禍の下での開催となったため、異例の形式となったが専門家はどうみているのか、楽天証券の窪田真之チーフ・ストラテジストに聞いた。

「株主総会はかねてから多くの資料を配布するため大量の紙を使い、時間の制約のある中で行われるため、今の時代にはネットを使えば時間を短縮できて、合理的に開催できると思っていた。しかし、ネットの総会の参加者が、質問もできずにただ画面を見つめて聞いているだけというのは、個人株主の意見が総会に十分反映されず、個人株主を軽視していることになり問題がある。

会社側がオンライン株主総会を利用する形で、多様な意見を持っている個人株主の声を封じ込むようなことになってはならない。議決権行使では一部の経営者が会社を私物化している事例なども報告されており、そういう意味からも、しがらみのない個人株主の意見がきちんと生かされるルールを確立するような議論がされるべきだ」と指摘、今年の総会の教訓を生かして、来年以降は個人株主の意見を十分に反映できる株主総会にすべきだと訴える。

増える個人株主

東京証券取引所などによる全国4証券取引所上場会社の株式分布状況調査(2018年6月)では、個人株主は過去5年連続で増えている。その理由について東証は、株価が総じて右肩上がりだったことに加えて、NISA(少額投資非課税制度)が導入されて、幅広い年代層が株式を購入するようになってきた点を挙げる。同調査では、18年度の個人株主数は前年度から343万人増加して5473万人。人口からみると単純計算で約43%が株主ということになる。

同年度の株主の構成比率でみると、最も多いのが金融機関で29.6%、次が外国法人で29.1%、事業法人が21.7%、その次が個人で17.2%の比率になっている。

上場企業はコロナ禍対策と言う目先の課題に加えて、デジタル、5G時代を迎えて、株主への情報公開、十分な意思疎通の実現といった見地からの株主総会の改革が求められている。企業はこれを改革の機会ととらえて、個人株主を重視した総会の議事進行をしてほしい。

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